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レイズの未来を変える。
そうして日常へ「鍛練へ戻るレイズ」
しおりを挟む事態がひとまず収束した、ある朝。
レイズは重たいまぶたを指でこすりながら、ゆっくりと目を覚ました。
寝台の横──そこには、いつもなら一番に「おはよう」と声をかけてくれる相棒の場所が、ぽっかりと空いている。
静まり返った空間を見て、胸の奥に冷たい穴が開いたような感覚が走る。
鏡の前に立ち、寝間着を脱ぎ捨てる。
映ったのは、日に日に締まり、影を増す青年の肉体だった。
「……また細くなってんじゃねぇか、俺」
冗談めかして口にするものの、その胸を満たすのは虚しさだけ。
あの日常の声も、気配も──もうどこにもない。
「……ほんとに、いなくなっちまったんだな」
不意に視界が滲む。
「今まで……ありがとな」
誰に届けるわけでもない言葉が、ぽつりと落ちた。
寂しさをごまかすように、レイズは自分の腹をペチペチと叩き始める。
トントン、ペチペチ──妙に響く音に、思わず苦笑が漏れた。
そこへ──。
「……なにしてるの、レイズくん?」
扉が開く音とともに、イザベルの顔が覗いた。
きょとん、とした瞳。
レイズは飛び上がらんばかりに振り返り、耳まで赤くして叫ぶ。
「だから! 勝手に入ってくるなって言ってんだろ!!」
イザベルは小首をかしげ、そっと呟く。
「……でも、なんだか楽しそうだったから……」
そして、どこか距離を置いた声音。
ルーヴェでレイズが放った、
――俺に触るな。
その言葉が、まだ胸に突き刺さったままなのだとレイズは悟っていた。
外に出たレイズは、木刀を片手で軽々と振り回していた。
「ふん……軽すぎて話にならねぇな」
ヒュンッ! バシュッ!
振り下ろすたび風が唸り、砂塵が舞う。その姿は、かつてのヴィルの素振りそのもの。
レイズは鼻で笑う。
「よし……もう余裕だ。今日こそ沈めてやる、クリス」
模擬戦開始。
「いつでも来いよ、クリス!」
自信満々に構えるレイズ。
一方でクリスはわずかに眉を寄せた。
(……妙な余裕ですね。本当に強く……?)
だが、考えるより先に踏み込む。
「行きます!」
キィィン!
剣と木刀が激しくぶつかり合う。
レイズは軽やかに受け止め、得意げに笑う。
「ほら! 余裕だぞ! 次の動きも見えてる!」
──その瞬間。
ドガァンッ!!
クリスが一段ギアを上げたかと思えば、レイズは見事に吹っ飛んだ。
砂まみれで転がりながら叫ぶ。
「ぐえっ!? ちょ、まだ俺のターンだろ……!」
クリスは肩で息をしながら、柔らかな笑みを零した。
「確実に……強くなっていますよ、レイズ様」
レイズは仰向けで空を見たまま砂を吐き、
「……何が“余裕だ”だよ……」
イザベルが駆け寄り、心配しながらも吹き出す。
「……レイズくん、格好つけすぎ」
レイズはすぐに跳ね起き、木刀を構え直した。
「まだ終わってねぇっ!」
踏み込んで斬り込む。
クリスは受け、反動で斬り返す。しかし──
レイズはすかさず蹴り上げる。
「もらった!!」
初めて一本を取れた──そう思った、その刹那。
クリスの腕が静かに絡みつき、レイズの体勢が崩される。
ドサァッ!!
また地面に転がるレイズ。
クリスは剣を抜かずに制したままの姿勢で、涼やかな笑みを浮かべた。
「……今のは、本気で焦りました」
青年の余裕ある微笑みに、レイズは叫ぶ。
「なんっっだよそのカッコよさは!! 俺だって全力だったのに!!」
そんな彼の叫びに、張りつめていた空気が思わずほぐれる。
リアナが胸の前で手をぎゅっと握り、
「すごいよレイズ様……! クリスさんとあそこまでやり合えるなんて!」
まっすぐな憧れの眼差しを向ける。
リアノは、一歩後ろから静かにその光景を見つめていた。
胸の奥にある「もっと一緒にいたい」という切ない想いを押し込め、
それでも微笑みながら、彼の背中を支え続ける決意を宿して。
そのリアノの想いに、イザベルは気付いていた。
そして──同じように理解していた。
“レイズはどんどん前へ進んでいく”
自分は、置いていかれないようにしなければ……
いや、もしかしたらもう、あの頃の距離ではいられないのかもしれない。
胸の奥が、きゅっと締め付けられた。
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