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レイズは守る
リアノとメルェの約束
しおりを挟む案内された広場には、すでに多くの魔族が集まっていた。
鋭い爪、獣のような耳、角。
“異形”の姿でありながら、そこには各々の感情が確かにあった。
歓迎の声を上げる者。
リアノを指差して怒鳴る者。
「その人間は誰だ!!」
リアノは恐怖で息を呑む。
その肩に、レイズがそっと手を置いた。
「ほらな? 魔族だって、人間と変わらない」
リアノは震える声で答える。
「……はい……」
レイズは一歩前へ出て、全員へ向かってはっきりと告げた。
「今日はお願いがあって来た。
そのためにリアノも連れて行きたい。許可をもらいたい」
魔族たちの視線が一斉にリアノへ向く。
その重圧は、普通の人間なら気を失ってしまうほどだった。
レイズは迷わずメルェの角を掲げる。
「問題はないだろ」
その瞬間、ざわめきが静まり、全員の視線が角へ集まる。
闇の奥から、ひときわ巨大な影が歩み出た。
魔族の長。
その存在だけで空気が震えるような圧。
長はレイズを一瞥すると、低く重い声で問いかけた。
「……願いとは何だ」
レイズは真っ直ぐに答えた。
「魔石を使わせてほしい。
アルバードを守るため――
いや、魔族であるお前たちを守るためにも必要なんだ」
魔族たちが一瞬ざわめくが、長は表情を変えずに告げる。
「それは勝者の権利。我らが命を落とせば肉は腐り、石だけが残る。
それをどう使おうと……侮辱ではない。
人よ、その願いは認めよう」
しかし長は鋭い視線をリアノへ向けた。
「だが――そこの人間の女」
リアノは息を呑む。
長は彼女を見据えながら、魂を貫くような声で問う。
「おまえは我ら魔族をどう感じる?
恐怖でも憎悪でも構わぬ。
ただし――偽りは許さぬ。答えよ」
レイズが一歩前に出ようとした瞬間、
「レイズ、お前は黙れ。
この娘の答えがすべてだ」
長の声がレイズを縫い止めた。
森が静まり返る。
リアノは喉を鳴らし、膝が震えるほどの恐怖を感じながらも、必死に顔を上げた。
「……怖い、です。正直に言えば……とても」
その言葉で場がざわめく。
だが彼女は続けた。
「でも……憎んではいません。
私は、メルェが大好きでした。
彼女と過ごした時間は……わたしにとって宝物なんです」
魔族たちがわずかに息を呑む。
リアノは涙をこらえ、必死に声を搾り出した。
「怖くても……それでも、あなたたちを嫌える理由にはなりません。
メルェが愛した世界を、私も知りたい。
メルェが生きた場所を……私も見たいんです」
震える声。
それでも一切の嘘がない、透明な言葉。
長はリアノの前へ歩み寄り、魂を覗くように見下ろした。
「……その想い、本物か」
リアノは静かに頷いた。
「はい」
長は深く息を吐き、やがて静かに告げた。
「人間の娘よ。
メルェの名を出した以上、おまえの言葉は誓いだ。
偽れば――我らは容赦せぬ」
「……わかっています」
「よかろう。
レイズ――その娘を連れて行くこと、認めよう」
レイズは安堵の息をつき、リアノの肩に手を置く。
リアノは涙をにじませながら微笑んだ。
魔族は、人間を認めることは滅多にない。
しかしこの瞬間――
リアノは正式に、
“メルェの友として”
魔族から受け入れられた。
こうして二人は、魔族領のさらに深い地へと進む資格を得たのだった。
リアノは両手を胸に当て、震える声を絞り出した。
唇が震え、目に涙が滲む。
だがその瞳は真っ直ぐで、曇りがない。
「……メルェは、私にとっても、レイズ様にとっても決して忘れられない、大切な存在です」
胸の奥に浮かぶのは、あの日のメルェの笑顔だった。
――ねぇ、リアノ! 私は強くなりたい!
そしたら大きくなったらレイズ君のお嫁さんになるの!
そしたらリアノも一緒に、レイズ君を守るために力を貸してくれるよね!?
レイズの知らない、ふたりだけの約束。
リアノの頬を、一筋の涙が伝い落ちた。
「……メルェは、私と約束しました。
彼女は魔族でした。でもそこには、人も魔族も関係なく……温かい絆がありました。
私は……そんなメルェが大好きでした」
震えていた声は、次第に揺らぎを失い、確信に変わる。
「だから――メルェが望んだ未来に、私も力になりたい。
魔族と人が争わない未来のために……
レイズ様が歩こうとしている道の、少しでも助けになりたいんです」
その言葉が空気を変えた。
イェイラ――メルェの角が淡く光を帯び、周囲の魔族たちを優しく照らす。
魔族の長はその光をじっと見つめ、まるで角に宿る魂へ語りかけるように呟いた。
「……そうか、イェイラ。
その願いを、我らは受け入れよう」
角の光はさらに柔らかく揺れ、魔族たちの怒りや緊張をほどいていく。
まるでイェイラが、
“リアノをいじめないで”
と静かに訴えているようだった。
場が落ち着きを取り戻したその時。
レイズが、あたかも軽い話題でも振るように言った。
「それで……もうひとつお願いがあってさ。ティグル洞窟に行きたいんだ」
――一瞬で、空気が凍った。
ざわっ、と魔族たちの気配が変わる。
武器に手をかける者すら現れ、怒号が飛び交った。
「な……なぜそれを知っている!?」
「ティグルの名を、人間の口から聞くなど……!」
「ふざけるな! あそこは――禁域だ!!」
まるでレイズが“触れてはならない神の名”を口にしたかのような反応。
その騒ぎを長が制し、一歩前に出る。
「……ティグル洞窟。
あそこは、おまえたちにとっても、我ら魔族にとっても“禁域”だ」
周囲の魔族たちは苦々しくうなり、顔を歪めた。
「あそこには……魔族をも喰らう“存在”が巣くっている」
「敵でもなく、討伐対象でもない。ただの脅威。」
「だから誰も近づかない。あれは……“災害”だ」
レイズは静かに、その言葉を受け止めていた。
「……だからこそ、お前たち人間がそこへ向かうのは愚かだ。
守れず、帰れず、下手したら怒りを刺激して終わるだけだ。」
警告、恐怖、畏怖。
さまざまな感情が折り重なった声がレイズを止めようとする。
だが、レイズの瞳だけは揺らがなかった。
彼は知っている。
ティグル洞窟に“ミスリル”が大量に眠っていることを。
それは、メモリアルストーンを守り、アルバードと魔族の未来を救うためにどうしても必要な資源だった。
レイズは一歩前に出ると、魔族たちの混乱の中に静かに言葉を投げ込んだ。
「確かに……ティグル洞窟には厄介な奴がいる。
俺も知ってるさ――“魔を喰らうディアブロ”だろ?」
――空気が一瞬で固まる。
魔族たちにとって、その名は畏怖そのもの。
「あ、あの名を軽々しく口にするな……!」
「無謀を通り越して死に急ぎだ!」
叫びが響く中、レイズは淡々と告げた。
「心配するな。
あいつの魔力は――俺には無意味だ」
その声は静かで、しかし絶対的な自信に満ちていた。
――ゲームでは、ディアブロは“死属性による攻略”がなければ勝てない理不尽の象徴。
だが今のレイズは、その死属性を自在に扱える。
カイルたちがどれだけ鍛えても届かなかった“突破の答え”を、
今のレイズは生まれ持っている。
恐怖も、迷いもない。
彼にとってティグルは――
“越えるべき試練”ではなく、
“ただの目的地”でしかなかった。
その揺るぎない瞳に、魔族たちは言葉を失う。
レイズは静かに言い切った。
「ミスリルが必要だ。
魔族の未来のためにも――必ず手に入れる」
その声に、誰も軽口を挟めなかった。
レイズの背に宿る覚悟は、
“ひとつの国”ではなく、
“世界そのもの”を守ろうとする者のものだったからだ。
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