双甲伝-SOUKOUDEN-

野口てんぐ

文字の大きさ
15 / 15

最終章「月の還る場所」

しおりを挟む
時は流れ、季節は再び巡っていた。
甲羅谷の空に、静かで穏やかな月が浮かんでいる。
かつて“呪われし月”と呼ばれたそれは、今は清く、柔らかな光で大地を照らしていた。

 

甲羅の丘

一面に広がるオオアマナが優しい風に揺れる。
その丘の上に、小さな墓石が置かれていた。
それは、ユエが遺していった銀色の小さな羽の飾りと共に、静かにそこにある。

「……兄ちゃん。今日の月、きれいだな」

ミクが、白い花を撫でながら呟く。

「……あぁ。あいつが見てるみたいだ」

ポンが頷く。
彼の甲羅には、新たな紋が刻まれていた――三つの印。
“月”、“甲羅”、そして“宙(そら)”。

それは、彼らが繋いだ新しい時代の証だった。

 

村の広場

月牙宮の崩壊から、数ヶ月が過ぎた。

地上に戻った兄弟たちは、斬月と共に甲羅谷の再建に尽力し、
夜白は自らの罪を償うべく、“月兎の里”を開き、かつての敵を、いまや友として迎え入れていた。

「……よし、儀式の準備は整ったぞ!」

広場では“月誓祭”が始まろうとしていた。
これは、かつての“呪い”を乗り越えた記憶と、新たな誓いを祝う、年に一度の祭りだ。

クララが中心で灯した月灯(げっとう)の火に、子供たちが群がる。

「姉ちゃん、今日も“ユエの話”して!」

「よしよし。今日はね――“月に昇った白兎”の物語を、してあげましょう」

クララは笑って語る。
それはかつて、本当に存在した一人の仲間のこと。
優しく、少し不器用で、それでも誰より真っ直ぐだった“あの兎”のことを。

 

月影の丘

夜が深まり、兄弟はそっと丘を登る。

「ミク。お前、ユエに何か言いたいことあるか?」

「んー……強いて言えば、“またな”ってことかな。
今度会うときは、もう俺たち、泣き虫じゃないって伝えたい」

ポンは笑った。

「……泣き虫でもいいさ。大事なのは、守りたいものを守れたってことだ」

二人は並び、空を見上げる。
そこには、いつかの夜と同じように、丸い月が浮かんでいた。

そしてその月の奥――かすかに、白い羽が舞った気がした。

 

その夜、風に乗って聞こえた声があった。

「……ミク、ポン……」

優しい、少しかすれた声。

「……ちゃんと、見てるからな。ずっと、ここで」

 

――風が通り過ぎ、静けさが戻る。

ポンとミクは、もう一度だけ夜空に深く、深く頭を下げた。

「ありがとう、ユエ。……またな」

 

そして、物語は終わらない。

新たな命が生まれ、新たな誓いが刻まれていく。

月は還った。

――皆の場所へ。

 

 

🌕 - 完 - 🌕





ご覧いただきありがとうございました。
うちの愛亀ちゃん🐢🐢のポンとミクの物語を作ってみました。
まだ子亀ちゃんで、これから続くポンとミクの亀道ライフを物語にしていこうと思います。
    
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...