双甲伝-SOUKOUDEN-

野口てんぐ

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第十四章「再誓の刃(さいせいのやいば)」

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月映殿に、深い沈黙が降りた。
月光は静かにその場を照らし、すべてを見守るように輝いていた。

「ユエ。お前が“月の鍵”なのは間違いない」
夜白の言葉に、ユエは目を伏せる。

「……だからって、私一人に背負わせるなよ。そうだろ、ミク?」

ミクがふっと笑う。

「当たり前だ。兄ちゃんにも、お前にも、もう誰にも……独りにはさせない」

ポンが頷く。

「“甲羅を背負う者”は、皆つながってる。俺たちは……そういう存在だ」

夜白の表情がわずかに緩む。

「ならば、“誓い”を再び結び直そう。月と甲羅の、かつての盟約を――」

斬月が、持っていた古びた巻物を取り出した。

「これは、父・ゲンザブロウが残した“誓いの書”だ。破られた盟約の記録、そして……希望の在処」

その巻物の中には、三つの印が刻まれていた。

月兎の紋。
甲亀の甲羅。
そして――宙(そら)を象った新たな印。

「これは……三つ目の印……?」

夜白が目を見開いた。

「“共に生きる”という、新たな誓いを象徴する印です」
クララの声が静かに響いた。

「ユエ、あなたがそれを受け入れれば……“月牙の呪い”は封じられ、宮殿は浄化される。けれど……」

「その力を使えば、私は“元の姿”には戻れない可能性があるんだな」

ユエが笑った。どこか、悲しげに。

「それでも……いいのか?」

ミクが一歩前に出た。

「……俺は、ユエがどうなろうと“仲間”だ。ずっと一緒にいる。兄ちゃんも、クララも、斬月も……みんな、そうだろ?」

ユエは、ひとつ深く息を吸った。

そして――

「よし、じゃあ……やってみるか。
私の“呪い”ごと、この月牙宮に叩き込んでやる!」

満月の光が強くなる。

ユエの足元に、三つの印が浮かび上がる。

夜白が静かに手を添え、クララが誓いの石板の破片をその中心へ置いた。

「……始めるぞ。“再誓の儀”」

風が吹いた。
月光が渦巻き、ユエの身体を包む。
耳が伸び、瞳が淡く月色に染まっていく。

「――ユエ!」

ミクが叫び、ポンが手を伸ばす。
だがその手は、月の力に弾かれた。

「私は大丈夫だ! 信じろ! ……私を、信じてくれ!!」

叫びと共に、ユエの背から月の羽が広がる。
その光は、夜白の影すら包み込んで――

――ドオオォォン!!

月牙宮が、揺れた。

天井が崩れ、巨大な裂け目が地を走る。

斬月が叫ぶ。

「急げ! ここはもう長くもたん!!」

「ユエを連れて行かないと――!」

だが――

ユエは静かに、月光の中に立っていた。

「……ミク、ポン。ありがとう」

「やめろ!! ここで終わらせるつもりか!?」

「違う。ここから始まるんだよ、私の……“もう一つの生き方”が」

月光が、全身を包み込む。

ユエの姿は、光と一体となり――

「ありがとう……お前たちに出会えて……本当によかった」

―――ユエは、光の羽となって、空へと昇っていった。

 

 

崩れゆく月牙宮を後に、ポン、ミク、クララ、斬月は地上へと帰還した。

その空には、今までに見たことのないほど鮮やかな月が――

もう、呪われてなどいなかった。
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