双甲伝-SOUKOUDEN-

野口てんぐ

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第十三章「月映殿と夜白の影」

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静かに、しかし確かに時間が流れていた。
封の間を越えたポンたち兄弟は、ユエ、クララ、斬月とともに、月牙宮の最奥「月映殿」へと足を進めていた。

そこは、月の神が映るとされる場所。
かつて、兎一族が“誓い”と“祈り”を捧げた聖域――

石畳の通路を抜けると、視界が開ける。
天井はなく、巨大な洞窟の天を、満月がまるで一枚の鏡のように照らしていた。

「……ここが、“月映殿(げつえいでん)”」

クララが、囁くように言った。

月光が神殿中央に差し込む――そこに、いた。

白き甲冑に身を包んだ、兎一族の将。
夜白。

かつて英雄と呼ばれ、今では“復讐に堕ちた影”と語られる者。

「来たか、“双甲の兄弟”よ。そして……クララ」

その瞳に、揺れる想いがあった。

「お前たちは、封を解き、呪いを断った。ならば――問おう」

夜白の声が月殿に響く。

「今、この時代に“信じる刃”を、貴様らは持っているのか」

ミクが答えた。

「持ってる。“誓いの刃”を、俺たちは手に入れた。誰かを憎むためじゃない、誰かを守るための刃を!」

ポンが続ける。

「俺たちは父さんに、刃じゃなく“生き方”を教わった。だから、夜白――」

ポンは一歩、夜白へ踏み出した。

「お前と、向き合いたい。話を、したい。……それじゃ遅いか?」

夜白の目が揺れる。

「かつて、私の妹は“月の巫女”となり、命を落とした。
その儀式を終わらせるために、私は戦った。
そして“クララ”は、私に言ったんだ。“兄さんと同じ目をした子たちがいる”と……」

ユエが息を呑んだ。

「……夜白、あんたも……生き残った側なんだな」

静かだった。

夜白は、甲羅の奥から小さな欠片を取り出す。
それは、砕かれた“誓いの石板”の一部――

「これは、かつて“月兎と甲亀”が共に誓った盟約の証だ。
だが、それを壊したのは“おとな”だった。欲に目が眩んだ者たちが……」

そして彼は、ゆっくりと剣を収めた。

「私は、もう戦わない」

ミクの目に涙が浮かぶ。

「じゃあ……終わるんだな……復讐の連鎖が」

「否。まだだ」

夜白が、月を見上げる。

「この月牙宮を崩し、“誓いの地”を再び光に戻すためには、“最後の鍵”がいる」

「最後の……?」

斬月が前に出た。

「……お前のことか、“ゲンザブロウの遺志”を知る者」

夜白は頷いた。

「私と、クララと、もう一人。――“誓いの三柱(さんちゅう)”の最後の一角」

ポンとミクが顔を見合わせる。

「……それってまさか――」

夜白が言った。

「“呪兎・ユエ”――お前だ。
お前がその“鍵”だったのだよ」

風が吹き抜けた。

ユエが、ゆっくりと前へ出る。

「……私が?」

夜白が頷く。

「“月の呪い”は、完全には消えていない。お前がその“力”を、受け入れ、そして祓うことができれば――」

ポンが叫んだ。

「ユエを犠牲にするのかよ!?」

夜白はかぶりを振る。

「否、違う。――“共に生き残る”選択も、ある」

ミクが拳を握る。

「それを……みんなで探そう! ユエも、俺たちも、クララも、斬月も!」

ユエが小さく笑った。

「……バカだな、お前たち」

だがその笑顔は、どこまでも優しかった。

「バカがいてくれて、よかった」

満月が、夜白を照らした。

そして、兄弟の誓いは――次なる決断へ。
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