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繁華街の外れにある薄暗く雰囲気のある店。
軽快なジャズが流れるそこは、ライブが行われる日もあれば、今日みたいにアナログレコードで流している日もあるクラブで、酒も料理の価格もリーズナブルなのが、明新大学のジャズ研究会にとって、お気に入りの場所だった。
7月に入り梅雨らしい日が続いているこの頃、ジャズ研究会のメンバー8人は、このとっておきの場所で月に一度の飲み会を行っていた。
雰囲気に酔うとはこの事だろうか、今年、入学したばかりの井上朝陽は、酒も飲んでいないのに隣で飲んでいる3年生の佐藤佑二に絡まれながらも、一緒になって笑っていた。
「佑二先輩、飲み過ぎですよー」
赤い顔の佑二のグラスを取り上げようとすると、抵抗され朝陽に倒れ込んでくる佑二の姿が可笑しくて、朝陽はまたゲラゲラと笑う。
「‥まったく、ほら、しっかりして下さい」
そう言って佑二の身体を起し、ちゃんと座らせているのが、同じく1年の如月葵で、眉間に皴を寄せながら、佑二に水の入ったグラスを手渡した。
「ほら、これ飲んで‥」
は~い‥と呑気な声を出しグラスを受け取り、グビグビと飲み干し再び朝陽の方に倒れ込んだ佑二を見て、世話をしていた葵は更に不機嫌そうになる。
「クスクスッ‥佑二先輩?」
朝陽が起こそうとしても、ガタイの良い佑二はビクともせず、その様子を見ていた3年の後藤亜紀が、そろそろお開きにしましょう、と声を掛けた。
まとめて会計を済ませ、それぞれの金額を支払い店の外に出ると、解散と声が掛かり、一斉に散らばり帰っていく。
そんな中、いつの間にか朝陽は佑二に肩を抱かれている状態になっていた。
「朝陽-俺んち行くぞー」
有無も言わせず歩き出す佑二に、引きずられるようにフラフラと歩き出す朝陽。
その様子を後ろから見ていた葵が、再び大きく溜息を付くと、スタスタと二人に近づき、佑二の腕をグイっと引っ張り、自分の方に引き寄せた。
「佑二先輩は、朝陽の家と逆方向ですよね?」
低い声でそう言った葵は、どことなく怒っているようで、周りを見渡し、そこに同じく3年の阿部誠一郎を見つけた。
「阿部先輩!確か、佑二先輩と同じ方向ですよね?一緒にお願いします」
反論を許さない口ぶりで、返事も聞かず阿部に佑二を押し付ける。
「‥あっ‥いいけど‥」
佑二は180㎝ある身長だが、阿部も同じくらいの身長だったので、あっさりと佑二の体を支える。
「あ~、俺は朝陽が良かったのに~」
酔っ払いの佑二がグダグダと喚いているが、はいはい‥と宥めるように阿部に諭され、連れて行かれた。
「ハハッ‥佑二先輩‥可笑しい、あそこまで酒に酔うかね~」
押しつぶされそうになっていた朝陽が、肩をグルグル回しながら開放感を味わっていると、隣で葵が自分を睨みつけている事に気が付き、そのしかめっ面を見て、朝陽は驚き声を掛けた。
「なっ‥なに?なんか怒ってる?」
如月葵は、185㎝と高身長に体は筋肉質で、そしてその体には似合わない程の小顔で整った顔をしている。
髪は長めのツーブロックで自然にカールしていて、切れ長の瞳は睨まれるとひとたまりもない力を持っていると、常々、朝陽は思っていた。
その光を帯びた瞳に睨まれ、タジタジしてしまうのは仕方がない事だ。
「いや‥別に‥」
仏頂面でそう言われても、信じられない気持をゴクンと飲み込み、朝陽は無理矢理に作った笑顔を向けた。
「そ‥そっか‥じゃあ、帰るか‥」
並んで歩き出すと、その姿に歴然と差があるのが分かる。
朝陽は身長175㎝と、まぁいたって普通だが、少し痩せ型の体に黒髪のマッシュショート、顔立ちはよく悪人面だと言われる。
というのも、一重でキッとつり上がった目と、シュっとした鼻筋に薄い唇は、普通に道を歩いているだけなのに、度々、見てんじゃねぇーよ‥と絡まれる。
本人は、まったくその気がないのに、中学の頃から絡まれ続け、お陰様で喧嘩上等!と言うくらいには、強くなった。
この二人は、小学校からの幼馴染で、中学・高校・大学と同じ学校に進み、挙句の果てには、今、住んでいるアパートも隣同士で借りている。
そのアパートは、葵の父親の持ち物の一つで、お友達価格で安く住まわせて貰っているのだ。
そのうえ両方の親が隣なら安心だと言う理由から始まった事で、まぁ、親同士も仲が良い。
二人ともジャズが好きで、大学に入ってすぐジャズ研究会に入った。
まだ未成年の二人は、酒を飲むことが出来ないから、ソフトドリンクで我慢しているが、あの雰囲気の良いクラブで、早く酒をチビチビ飲みながら、好きなジャズを聴いてみたいと思っていた。
朝陽はそんな事を話しながら、隣を歩いている不機嫌な葵の気持ちを少しずつ宥めていた。
たいてい、好きな話を持ち出すと、いつの間にか葵も笑顔に戻っているのだから、伊達に10年以上も親友をやっている訳じゃない。
軽快なジャズが流れるそこは、ライブが行われる日もあれば、今日みたいにアナログレコードで流している日もあるクラブで、酒も料理の価格もリーズナブルなのが、明新大学のジャズ研究会にとって、お気に入りの場所だった。
7月に入り梅雨らしい日が続いているこの頃、ジャズ研究会のメンバー8人は、このとっておきの場所で月に一度の飲み会を行っていた。
雰囲気に酔うとはこの事だろうか、今年、入学したばかりの井上朝陽は、酒も飲んでいないのに隣で飲んでいる3年生の佐藤佑二に絡まれながらも、一緒になって笑っていた。
「佑二先輩、飲み過ぎですよー」
赤い顔の佑二のグラスを取り上げようとすると、抵抗され朝陽に倒れ込んでくる佑二の姿が可笑しくて、朝陽はまたゲラゲラと笑う。
「‥まったく、ほら、しっかりして下さい」
そう言って佑二の身体を起し、ちゃんと座らせているのが、同じく1年の如月葵で、眉間に皴を寄せながら、佑二に水の入ったグラスを手渡した。
「ほら、これ飲んで‥」
は~い‥と呑気な声を出しグラスを受け取り、グビグビと飲み干し再び朝陽の方に倒れ込んだ佑二を見て、世話をしていた葵は更に不機嫌そうになる。
「クスクスッ‥佑二先輩?」
朝陽が起こそうとしても、ガタイの良い佑二はビクともせず、その様子を見ていた3年の後藤亜紀が、そろそろお開きにしましょう、と声を掛けた。
まとめて会計を済ませ、それぞれの金額を支払い店の外に出ると、解散と声が掛かり、一斉に散らばり帰っていく。
そんな中、いつの間にか朝陽は佑二に肩を抱かれている状態になっていた。
「朝陽-俺んち行くぞー」
有無も言わせず歩き出す佑二に、引きずられるようにフラフラと歩き出す朝陽。
その様子を後ろから見ていた葵が、再び大きく溜息を付くと、スタスタと二人に近づき、佑二の腕をグイっと引っ張り、自分の方に引き寄せた。
「佑二先輩は、朝陽の家と逆方向ですよね?」
低い声でそう言った葵は、どことなく怒っているようで、周りを見渡し、そこに同じく3年の阿部誠一郎を見つけた。
「阿部先輩!確か、佑二先輩と同じ方向ですよね?一緒にお願いします」
反論を許さない口ぶりで、返事も聞かず阿部に佑二を押し付ける。
「‥あっ‥いいけど‥」
佑二は180㎝ある身長だが、阿部も同じくらいの身長だったので、あっさりと佑二の体を支える。
「あ~、俺は朝陽が良かったのに~」
酔っ払いの佑二がグダグダと喚いているが、はいはい‥と宥めるように阿部に諭され、連れて行かれた。
「ハハッ‥佑二先輩‥可笑しい、あそこまで酒に酔うかね~」
押しつぶされそうになっていた朝陽が、肩をグルグル回しながら開放感を味わっていると、隣で葵が自分を睨みつけている事に気が付き、そのしかめっ面を見て、朝陽は驚き声を掛けた。
「なっ‥なに?なんか怒ってる?」
如月葵は、185㎝と高身長に体は筋肉質で、そしてその体には似合わない程の小顔で整った顔をしている。
髪は長めのツーブロックで自然にカールしていて、切れ長の瞳は睨まれるとひとたまりもない力を持っていると、常々、朝陽は思っていた。
その光を帯びた瞳に睨まれ、タジタジしてしまうのは仕方がない事だ。
「いや‥別に‥」
仏頂面でそう言われても、信じられない気持をゴクンと飲み込み、朝陽は無理矢理に作った笑顔を向けた。
「そ‥そっか‥じゃあ、帰るか‥」
並んで歩き出すと、その姿に歴然と差があるのが分かる。
朝陽は身長175㎝と、まぁいたって普通だが、少し痩せ型の体に黒髪のマッシュショート、顔立ちはよく悪人面だと言われる。
というのも、一重でキッとつり上がった目と、シュっとした鼻筋に薄い唇は、普通に道を歩いているだけなのに、度々、見てんじゃねぇーよ‥と絡まれる。
本人は、まったくその気がないのに、中学の頃から絡まれ続け、お陰様で喧嘩上等!と言うくらいには、強くなった。
この二人は、小学校からの幼馴染で、中学・高校・大学と同じ学校に進み、挙句の果てには、今、住んでいるアパートも隣同士で借りている。
そのアパートは、葵の父親の持ち物の一つで、お友達価格で安く住まわせて貰っているのだ。
そのうえ両方の親が隣なら安心だと言う理由から始まった事で、まぁ、親同士も仲が良い。
二人ともジャズが好きで、大学に入ってすぐジャズ研究会に入った。
まだ未成年の二人は、酒を飲むことが出来ないから、ソフトドリンクで我慢しているが、あの雰囲気の良いクラブで、早く酒をチビチビ飲みながら、好きなジャズを聴いてみたいと思っていた。
朝陽はそんな事を話しながら、隣を歩いている不機嫌な葵の気持ちを少しずつ宥めていた。
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