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23話
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その翌日、母親に発見され、助けられた朝陽は、病院で療養を始めた。
徐々に元気になっていく朝陽に、嬉しさを感じる。
他に行く場所もなく、ただ漫然と朝陽の傍に付いている自分の未練を、葵は理解できずにいた。
あのアパートを引き払い、マンションへ引っ越し、就職する。
安定した日々を送っているように見えたが、週末には出会いを求め彷徨っている朝陽の姿を見ても、葵には、その現実を受け入れるしかなかった。
初めて朝陽が自分と違う男に抱かれているのを見た時は、気が狂うかと思うくらい朝陽の名を呼び続けた。
だけど、それも今では冷静に見ていられる。
そして、朝陽が佐藤佑二と出会い、付き合い始めた時は、大学時代は嫌いだったが、朝陽がきちんと一人と向き合い付き合っている事に、少しだけ安堵していた。
そんな生活をしている朝陽を見ていると、葵は自分の存在が何故あるのか、分からなくなってくる。
神様がいるのなら、これは自分の試練なんだろうか‥自分の居ない世界を、誰にも気付かれない世界を、ずっと見続ける事は、試練じゃないのなら、何と呼べばいいのか分からない。
そして、朝陽のその安定した生活は、僅か3年で終了した。
さらに月日が流れ、朝陽がカフェを始めた時、自分の名前を付けてくれた時、葵は嬉しくて久しぶりに涙を流した。
『ありがとう‥朝陽‥』
二人で約束したジャズを流し、ずっと自分を想ってくれている様子の朝陽に、葵は感謝していた。
もう試練は終了で、成仏してあの世に行ってもいいのでは?‥そう思うようになっていく。
そして、あの日‥葵の気持ちがグラリと揺れた。
カフェの入り口を入ってくるなり、『ワンワン!!』と犬の鳴き声がし、そして視線を向けた葵の姿を捉え、バンッと扉にぶつかる男。
ワンワンと吠えていた犬は、葵の足元に駆け寄ると、クゥーン‥クゥーンと嬉しそうに鳴いた。
『ビル!ビルじゃないか!ああ‥‥お前どうしたんだ?』
白い毛並みにクリクリの大きな瞳。
間違いなくビルが、カフェに訪れたのだが、朝陽はビルに反応しない。
当然だった‥よく見ると、ビルも透けて見えるのだから‥。
『ビル‥よくここまで来たな~』
それでも葵は嬉しかった。
ビルの頭を撫でようと手を伸ばすと、ビルの舌がペロリと葵の手を舐めた。
ああ‥触れる‥その事に、葵は驚く。
『ああ‥ビル‥触れる‥‥』
そう言って、ビルを抱き寄せると、ワシャワシャと頭を撫でる。
ビルも負けじと、ワンワンと嬉しそうに吠え、シッポがはち切れそうな程振っていた。
ビルと喜びを分かち合っていると、隣から視線を感じ、葵は顔を上げた。
カフェに入ってすぐ、目が合った男は、先程から葵とビルの再会を、ずっと微笑みながら見ていた。
「‥良かったな‥」
ビルにそう小さな声で呟き、温かい視線を向けた時、葵は大きな声を出した。
『オイッ!!お前!見えるのか‥?』
葵の言葉に、焦った様に目を逸らす男は、明らかに動揺していた。
『見えるんだろ?‥オイッ!!』
葵の悲痛な声に、男は小さく頷き、額に浮き出る汗を袖で拭った。
自分が見える人が居るって事だけで、葵は歓喜の声を出す。
伝えたい‥朝陽に、自分の言葉を伝えたい‥。
そして、男に願った。
自分を助けてくれと‥。
口下手な男‥橘凛太朗が何とか葵の気持ちを伝えた時、朝陽の感情が、未だに自分に向けられている事に気が付いた。
ずっと傍に居たのに、気が付かなかった想いが嬉しくて、凛太朗の身体に自分を押し込むようにして借りる。
そして、触れた朝陽の身体は、何年も前の記憶が、昨日の様に蘇る程、愛しくて堪らないものだった。
昂る感情がグイっと現実に戻り、凛太朗の身体を離れると、自分の中にある虚無感に苦しんだ。
触れたいものが目の前にあるのは、今までも同じだったが、触れる事が出来ると分かった時、それは自分の執着となる。
その数日後、葵はふいにグルンと視野が歪み、どこかの山奥に立っていた。
周りを見渡すと、大勢の警察官が地面を掘り返していた。
その隣に両手を手錠で繋がれている男が立っており、その男の顔を見た瞬間、葵は叫んだ。
『おっ‥お前!!』
何も考えられず、衝動的に胸倉を掴み殴り倒したいと、手を伸ばしたが、その欲求が叶う事は無かった。
『クッ‥クッソ!!』
触れる事すらできず、いつになく汚い言葉が出てしまうほど、自分が惨めだった。
葵が睨みつけている中で、警察官たちは淡々と業務をこなしているように見えた。
そして、掘り出されたモノが視野に入ると、それが己の身体だと気が付いた。
気が付いたのは、その人間らしき物体が、今の自分の姿と同じ服を着ているからだ。
土に塗れ腐り服と呼べるものでは無かったが、僅かに残っている色合いや形に、目が釘付けになる。
警察官が広げたビニールシートに、拾い上げたモノを並べていく。
それは、奇妙な光景に見えた。
醜く残酷なパズルが完成するかのような‥そんな奇異な場面。
そして、朝陽と共に実家へも行き、両親にも別れを告げる事が出来た。
もう本当に思い残すことは無いと、自分の人生を顧みる。
ああ、良い人生だったとは、決して言えないが、人を愛し愛された人生だったと、自分を納得させていた。
その日、身体が薄くなり、もうすぐ成仏しそうなビルと触れあっている時、そいつはやってきた。
徐々に元気になっていく朝陽に、嬉しさを感じる。
他に行く場所もなく、ただ漫然と朝陽の傍に付いている自分の未練を、葵は理解できずにいた。
あのアパートを引き払い、マンションへ引っ越し、就職する。
安定した日々を送っているように見えたが、週末には出会いを求め彷徨っている朝陽の姿を見ても、葵には、その現実を受け入れるしかなかった。
初めて朝陽が自分と違う男に抱かれているのを見た時は、気が狂うかと思うくらい朝陽の名を呼び続けた。
だけど、それも今では冷静に見ていられる。
そして、朝陽が佐藤佑二と出会い、付き合い始めた時は、大学時代は嫌いだったが、朝陽がきちんと一人と向き合い付き合っている事に、少しだけ安堵していた。
そんな生活をしている朝陽を見ていると、葵は自分の存在が何故あるのか、分からなくなってくる。
神様がいるのなら、これは自分の試練なんだろうか‥自分の居ない世界を、誰にも気付かれない世界を、ずっと見続ける事は、試練じゃないのなら、何と呼べばいいのか分からない。
そして、朝陽のその安定した生活は、僅か3年で終了した。
さらに月日が流れ、朝陽がカフェを始めた時、自分の名前を付けてくれた時、葵は嬉しくて久しぶりに涙を流した。
『ありがとう‥朝陽‥』
二人で約束したジャズを流し、ずっと自分を想ってくれている様子の朝陽に、葵は感謝していた。
もう試練は終了で、成仏してあの世に行ってもいいのでは?‥そう思うようになっていく。
そして、あの日‥葵の気持ちがグラリと揺れた。
カフェの入り口を入ってくるなり、『ワンワン!!』と犬の鳴き声がし、そして視線を向けた葵の姿を捉え、バンッと扉にぶつかる男。
ワンワンと吠えていた犬は、葵の足元に駆け寄ると、クゥーン‥クゥーンと嬉しそうに鳴いた。
『ビル!ビルじゃないか!ああ‥‥お前どうしたんだ?』
白い毛並みにクリクリの大きな瞳。
間違いなくビルが、カフェに訪れたのだが、朝陽はビルに反応しない。
当然だった‥よく見ると、ビルも透けて見えるのだから‥。
『ビル‥よくここまで来たな~』
それでも葵は嬉しかった。
ビルの頭を撫でようと手を伸ばすと、ビルの舌がペロリと葵の手を舐めた。
ああ‥触れる‥その事に、葵は驚く。
『ああ‥ビル‥触れる‥‥』
そう言って、ビルを抱き寄せると、ワシャワシャと頭を撫でる。
ビルも負けじと、ワンワンと嬉しそうに吠え、シッポがはち切れそうな程振っていた。
ビルと喜びを分かち合っていると、隣から視線を感じ、葵は顔を上げた。
カフェに入ってすぐ、目が合った男は、先程から葵とビルの再会を、ずっと微笑みながら見ていた。
「‥良かったな‥」
ビルにそう小さな声で呟き、温かい視線を向けた時、葵は大きな声を出した。
『オイッ!!お前!見えるのか‥?』
葵の言葉に、焦った様に目を逸らす男は、明らかに動揺していた。
『見えるんだろ?‥オイッ!!』
葵の悲痛な声に、男は小さく頷き、額に浮き出る汗を袖で拭った。
自分が見える人が居るって事だけで、葵は歓喜の声を出す。
伝えたい‥朝陽に、自分の言葉を伝えたい‥。
そして、男に願った。
自分を助けてくれと‥。
口下手な男‥橘凛太朗が何とか葵の気持ちを伝えた時、朝陽の感情が、未だに自分に向けられている事に気が付いた。
ずっと傍に居たのに、気が付かなかった想いが嬉しくて、凛太朗の身体に自分を押し込むようにして借りる。
そして、触れた朝陽の身体は、何年も前の記憶が、昨日の様に蘇る程、愛しくて堪らないものだった。
昂る感情がグイっと現実に戻り、凛太朗の身体を離れると、自分の中にある虚無感に苦しんだ。
触れたいものが目の前にあるのは、今までも同じだったが、触れる事が出来ると分かった時、それは自分の執着となる。
その数日後、葵はふいにグルンと視野が歪み、どこかの山奥に立っていた。
周りを見渡すと、大勢の警察官が地面を掘り返していた。
その隣に両手を手錠で繋がれている男が立っており、その男の顔を見た瞬間、葵は叫んだ。
『おっ‥お前!!』
何も考えられず、衝動的に胸倉を掴み殴り倒したいと、手を伸ばしたが、その欲求が叶う事は無かった。
『クッ‥クッソ!!』
触れる事すらできず、いつになく汚い言葉が出てしまうほど、自分が惨めだった。
葵が睨みつけている中で、警察官たちは淡々と業務をこなしているように見えた。
そして、掘り出されたモノが視野に入ると、それが己の身体だと気が付いた。
気が付いたのは、その人間らしき物体が、今の自分の姿と同じ服を着ているからだ。
土に塗れ腐り服と呼べるものでは無かったが、僅かに残っている色合いや形に、目が釘付けになる。
警察官が広げたビニールシートに、拾い上げたモノを並べていく。
それは、奇妙な光景に見えた。
醜く残酷なパズルが完成するかのような‥そんな奇異な場面。
そして、朝陽と共に実家へも行き、両親にも別れを告げる事が出来た。
もう本当に思い残すことは無いと、自分の人生を顧みる。
ああ、良い人生だったとは、決して言えないが、人を愛し愛された人生だったと、自分を納得させていた。
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