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1か月後、ここに一人の仕事人間が出来上がった。
朝から晩まで仕事をこなし、残業など任せろ!と喜び会社に身を捧げている男は、人の1.5倍の仕事量をこなしているのだから、当然、無理をしていた。
「‥っ‥ゲホッ‥ゴホッ‥‥」
「オイ、鈴野‥早く帰れ!」
咳をしながらも会社へと身を捧げに来たというのに、周りから冷たい目で見られ、挙句には部長の田辺には帰ろと言われ、がっくりと肩を落とした静佳は、一気に熱が上がりそうになり机にうっ潰した。
「なんで、こんな状態で仕事に来るんだよ!」
はた迷惑と言っているような口調で蔑まれては、もう顔を上げる事も出来ない静佳は、そのまま意識がどんどんと遠のいていった。
「‥オイッ!鈴野?‥鈴野‥」
遠くで田辺の呼ぶ声が聞こえたが、静佳はあっさりと意識を手放した。
次に静佳が目を覚ますと、見慣れた部屋で眠っていた。あたりを見渡すと、そこが自分のマンションの寝室だと分かった。
あれ?どうして寝てるんだろう‥そんな事を考えていると、扉を隔てたリビングから物音がした。
ハッとそれに気が付くと、フラフラする足に何とか力を入れ、倒れそうになる身体を支え、勢いよく寝室のドアを開いた。
「‥柚!!」
ドアを開いた瞬間に、キッチンに居た人間が驚き目を瞠り、静佳を見た。
「‥どっ‥どうした‥?」
そう驚き声を上げたのは同期の源志だった。
「‥あっ‥げ、んじ‥‥そうだよな‥ははっ‥柚‥なわけ‥」
膝から崩れ落ちた静佳に慌てて近づくと、源志はその身体を支える。
「ほら、どうした?ベッドで寝てろ‥お前、会社で気を失ったんだぞ‥」
源志はそう言って静佳に肩を貸しベッドに寝かせると、布団を上から掛けた。
どうして柚だと思ってしまったのか‥もう1ヶ月も前に別れたというのに、心の中では、まだ柚を待っているのだと、今更、実感してしまい、静佳は目の奥が熱くなり、泣き出してしまいそうになる。
そんな姿を源志に見られたくなくて、静佳は腕で顔を覆った。
「‥よしよし‥辛いな。大丈夫‥すぐに良くなるよ‥」
泣いている事に気が付いているのか分からないが、源志はそう言うと、布団の上からポンポンと優しく叩く。
次に静佳が目を覚ますと、部屋の中はシンと静まり返り、カーテンの向こうは真っ暗だった。
どうやらグッスリ眠ってしまったようで、ゆっくりと身体を起すと、静佳の額に冷たいシートが貼られていた。
「あっ‥源志‥」
眠る前に源志がキッチンに居た事を思い出した。
ノソノソと立ち上がると、少しふらつきはするが歩けたので、そのまま寝室を出ると、もう誰もいなかった。
「‥居る訳ないか‥」
時計を見れば、午前1時を過ぎた頃。
喉の渇きを感じキッチンへ行き冷蔵庫を開くと、中には見慣れないモノがたくさん入っていた。水を手に取ると、テーブルに置いてあるメモ紙と薬に気が付いた。
『よく眠っているから、帰るわー。おかゆ作ったから、ちゃんと食べて薬を飲むように!明日は休めって部長が言ってたぞ。鍵はスペアキーがあったから、とりあえず借りてく。また明日来る。源志』
「‥勝手にスペアキーなんか持って行きやがって‥あいつ‥」
ぶつくさ言いながらも、キッチンに置いてある鍋を見ると、ちゃんとおかゆが作られていた。
静佳は、おかゆを温めると、テーブルに運び食べ始める。
思いのほか美味しいおかゆに、ふふっと笑いさえ出る。
半分食べた所で、薬を飲み、またベッドに潜り込んだ。
もう疲れたな‥。
そして静佳は目を閉じた。
ー・ーー ・・ ・ー・ー・ ーー・ー・ ・・
源志は、会社で倒れた静佳を抱き上げると、そのままタクシーに乗り込んだ。
なぜか同期だと言う事で、部長から連れて帰ってやれと指示があり、住所を聞き、意識のない静佳を抱き上げたが、ここ1ヶ月で細くなった様に感じていたが、その身体が本当に軽くて驚いた。
運転手に住所を告げると、30分程でマンションに着いた。再び静佳を持ち上げ、静佳のバックから鍵を取り出すと、申し訳ないが勝手に入り、ベッドへと寝かした。
少し迷ったが、スーツを脱がし、寝室にある収納からスェットを取り出すと、それに着替えさせる。その時も、こんなに細かったか?というくらい痩せて見え、源志は少し不安になる。
確か恋人がいて半同棲をしていると聞いていたが、部屋の中を見ても、そんな風には見えなかった。
もしかして、別れたのかな?‥そんな事を考えていた。
楽な格好に着替えさせると、布団を掛けた。
そのまま寝室を出ると、キッチンへ行き、何か食べさせた方が良いのだろうかと考えるが、こんな時は消化にいいものが良いだろうと思い、冷蔵庫を開くと、何も入っておらずビールと水しかなかった。
普段、何を食べているんだ?料理はしないのかもしれないと、キッチンを色々探ってみる。
その時、寝室のドアがバンッと勢いよく開き、中から静佳が飛び出してきた。
「‥柚!!」
ゆず?なに?
それが人の名前だと思わなくて、キョトンとしてる源志の顔を見ると、静佳は悲しそうな顔をした。ああ、それは恋人の名前だったのか‥そう気が付いた。
ガクンと崩れ落ちた静佳を抱きかかえ、再びベッドに戻すと、静佳の身体が震え泣き出しそうだった。
自分に見られたくないのか、腕で顔を隠している静佳が可哀そうで、慰めるようにポンポンと布団を叩く。
きっと、辛い事があったんだと、だから、こんなにも痩せて‥最近の静佳は仕事ばかりして、おかしかったのは、そのせいだったんだと、源志はそう理解した。
いつの間にか眠ってしまった静佳の腕を取ると、布団の中に入れた。そして目尻に付いている涙を指で拭うと頭を撫でる。
「‥早く、良くなれよ‥」
源志は寝室を出ると、そのまま鍵を持ち買い物に出掛けた。
ちょうど駅に向かう方角にスーパーとドラックストアがあったので、そこで買い物を済ませると、再び静佳のマンションへと向かった。
まず最初に、冷たいシートを手に取ると、寝室へ入り静佳の額にピタリと貼った。身体がポカポカと熱い気がしたので、これで少しは楽になればいいと思った。
そしてキッチンに戻ると、パックのご飯を鍋に移し、おかゆを作り始める。
買って来た物はすべて冷蔵庫にしまう。
その時、源志の携帯が音を立てて着信を知らせる。
「もしもし‥」
『源志?今どこ?』
「‥ああ、仕事が終わったところ‥」
『今日、会う約束してるの、忘れてないよね‥?』
「‥ああ‥勿論」
『源志の部屋で待ってるから‥早く帰ってきて‥』
「‥うん、わかった‥」
電話を切ると、源志は大きく息を吐く。
そうだ、すっかり忘れていた。今日は彼女が家に来ると言っていたんだ。源志は静佳にメモを残すと、すぐに自分の鞄を持ち、部屋を出て行った。
その時、ふと寝室から出てきた、切羽詰まった静佳の顔を思い出した。恋人の名を呼んでいた静佳は、僅かな期待をしている気持ちから、源志の顔を見た瞬間に絶望の顔になった。
悪い事したかな‥そう思ったが、心の中は別の意味で戸惑っていた。
自分は、あそこまで今の彼女の事を想っているのだろうか、もしも別れた時に、あのような絶望感を味わうほど、落ち込むだろうか‥そう考えると、自分の心にある気持ちが偽りのような気がして、ズキンと痛みを感じた。
「まっ、人それぞれだしな‥」
そう口にして、マンションを出ると、源志は自分のアパートに帰って行った。
朝から晩まで仕事をこなし、残業など任せろ!と喜び会社に身を捧げている男は、人の1.5倍の仕事量をこなしているのだから、当然、無理をしていた。
「‥っ‥ゲホッ‥ゴホッ‥‥」
「オイ、鈴野‥早く帰れ!」
咳をしながらも会社へと身を捧げに来たというのに、周りから冷たい目で見られ、挙句には部長の田辺には帰ろと言われ、がっくりと肩を落とした静佳は、一気に熱が上がりそうになり机にうっ潰した。
「なんで、こんな状態で仕事に来るんだよ!」
はた迷惑と言っているような口調で蔑まれては、もう顔を上げる事も出来ない静佳は、そのまま意識がどんどんと遠のいていった。
「‥オイッ!鈴野?‥鈴野‥」
遠くで田辺の呼ぶ声が聞こえたが、静佳はあっさりと意識を手放した。
次に静佳が目を覚ますと、見慣れた部屋で眠っていた。あたりを見渡すと、そこが自分のマンションの寝室だと分かった。
あれ?どうして寝てるんだろう‥そんな事を考えていると、扉を隔てたリビングから物音がした。
ハッとそれに気が付くと、フラフラする足に何とか力を入れ、倒れそうになる身体を支え、勢いよく寝室のドアを開いた。
「‥柚!!」
ドアを開いた瞬間に、キッチンに居た人間が驚き目を瞠り、静佳を見た。
「‥どっ‥どうした‥?」
そう驚き声を上げたのは同期の源志だった。
「‥あっ‥げ、んじ‥‥そうだよな‥ははっ‥柚‥なわけ‥」
膝から崩れ落ちた静佳に慌てて近づくと、源志はその身体を支える。
「ほら、どうした?ベッドで寝てろ‥お前、会社で気を失ったんだぞ‥」
源志はそう言って静佳に肩を貸しベッドに寝かせると、布団を上から掛けた。
どうして柚だと思ってしまったのか‥もう1ヶ月も前に別れたというのに、心の中では、まだ柚を待っているのだと、今更、実感してしまい、静佳は目の奥が熱くなり、泣き出してしまいそうになる。
そんな姿を源志に見られたくなくて、静佳は腕で顔を覆った。
「‥よしよし‥辛いな。大丈夫‥すぐに良くなるよ‥」
泣いている事に気が付いているのか分からないが、源志はそう言うと、布団の上からポンポンと優しく叩く。
次に静佳が目を覚ますと、部屋の中はシンと静まり返り、カーテンの向こうは真っ暗だった。
どうやらグッスリ眠ってしまったようで、ゆっくりと身体を起すと、静佳の額に冷たいシートが貼られていた。
「あっ‥源志‥」
眠る前に源志がキッチンに居た事を思い出した。
ノソノソと立ち上がると、少しふらつきはするが歩けたので、そのまま寝室を出ると、もう誰もいなかった。
「‥居る訳ないか‥」
時計を見れば、午前1時を過ぎた頃。
喉の渇きを感じキッチンへ行き冷蔵庫を開くと、中には見慣れないモノがたくさん入っていた。水を手に取ると、テーブルに置いてあるメモ紙と薬に気が付いた。
『よく眠っているから、帰るわー。おかゆ作ったから、ちゃんと食べて薬を飲むように!明日は休めって部長が言ってたぞ。鍵はスペアキーがあったから、とりあえず借りてく。また明日来る。源志』
「‥勝手にスペアキーなんか持って行きやがって‥あいつ‥」
ぶつくさ言いながらも、キッチンに置いてある鍋を見ると、ちゃんとおかゆが作られていた。
静佳は、おかゆを温めると、テーブルに運び食べ始める。
思いのほか美味しいおかゆに、ふふっと笑いさえ出る。
半分食べた所で、薬を飲み、またベッドに潜り込んだ。
もう疲れたな‥。
そして静佳は目を閉じた。
ー・ーー ・・ ・ー・ー・ ーー・ー・ ・・
源志は、会社で倒れた静佳を抱き上げると、そのままタクシーに乗り込んだ。
なぜか同期だと言う事で、部長から連れて帰ってやれと指示があり、住所を聞き、意識のない静佳を抱き上げたが、ここ1ヶ月で細くなった様に感じていたが、その身体が本当に軽くて驚いた。
運転手に住所を告げると、30分程でマンションに着いた。再び静佳を持ち上げ、静佳のバックから鍵を取り出すと、申し訳ないが勝手に入り、ベッドへと寝かした。
少し迷ったが、スーツを脱がし、寝室にある収納からスェットを取り出すと、それに着替えさせる。その時も、こんなに細かったか?というくらい痩せて見え、源志は少し不安になる。
確か恋人がいて半同棲をしていると聞いていたが、部屋の中を見ても、そんな風には見えなかった。
もしかして、別れたのかな?‥そんな事を考えていた。
楽な格好に着替えさせると、布団を掛けた。
そのまま寝室を出ると、キッチンへ行き、何か食べさせた方が良いのだろうかと考えるが、こんな時は消化にいいものが良いだろうと思い、冷蔵庫を開くと、何も入っておらずビールと水しかなかった。
普段、何を食べているんだ?料理はしないのかもしれないと、キッチンを色々探ってみる。
その時、寝室のドアがバンッと勢いよく開き、中から静佳が飛び出してきた。
「‥柚!!」
ゆず?なに?
それが人の名前だと思わなくて、キョトンとしてる源志の顔を見ると、静佳は悲しそうな顔をした。ああ、それは恋人の名前だったのか‥そう気が付いた。
ガクンと崩れ落ちた静佳を抱きかかえ、再びベッドに戻すと、静佳の身体が震え泣き出しそうだった。
自分に見られたくないのか、腕で顔を隠している静佳が可哀そうで、慰めるようにポンポンと布団を叩く。
きっと、辛い事があったんだと、だから、こんなにも痩せて‥最近の静佳は仕事ばかりして、おかしかったのは、そのせいだったんだと、源志はそう理解した。
いつの間にか眠ってしまった静佳の腕を取ると、布団の中に入れた。そして目尻に付いている涙を指で拭うと頭を撫でる。
「‥早く、良くなれよ‥」
源志は寝室を出ると、そのまま鍵を持ち買い物に出掛けた。
ちょうど駅に向かう方角にスーパーとドラックストアがあったので、そこで買い物を済ませると、再び静佳のマンションへと向かった。
まず最初に、冷たいシートを手に取ると、寝室へ入り静佳の額にピタリと貼った。身体がポカポカと熱い気がしたので、これで少しは楽になればいいと思った。
そしてキッチンに戻ると、パックのご飯を鍋に移し、おかゆを作り始める。
買って来た物はすべて冷蔵庫にしまう。
その時、源志の携帯が音を立てて着信を知らせる。
「もしもし‥」
『源志?今どこ?』
「‥ああ、仕事が終わったところ‥」
『今日、会う約束してるの、忘れてないよね‥?』
「‥ああ‥勿論」
『源志の部屋で待ってるから‥早く帰ってきて‥』
「‥うん、わかった‥」
電話を切ると、源志は大きく息を吐く。
そうだ、すっかり忘れていた。今日は彼女が家に来ると言っていたんだ。源志は静佳にメモを残すと、すぐに自分の鞄を持ち、部屋を出て行った。
その時、ふと寝室から出てきた、切羽詰まった静佳の顔を思い出した。恋人の名を呼んでいた静佳は、僅かな期待をしている気持ちから、源志の顔を見た瞬間に絶望の顔になった。
悪い事したかな‥そう思ったが、心の中は別の意味で戸惑っていた。
自分は、あそこまで今の彼女の事を想っているのだろうか、もしも別れた時に、あのような絶望感を味わうほど、落ち込むだろうか‥そう考えると、自分の心にある気持ちが偽りのような気がして、ズキンと痛みを感じた。
「まっ、人それぞれだしな‥」
そう口にして、マンションを出ると、源志は自分のアパートに帰って行った。
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