飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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火を恋う青蛾は焔に焼かれ

16話

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響が眠った後、病室で二人の男と白衣を着た医者が話をしていた。
この二人の男は、獅道のマンションの前に待機し、あの場所から響を助けた男達だった。

「たびたび目を覚ましますが、すぐに眠ってしまいます」
「そうですか‥今は麻酔も効いているでしょうから、無理に起さなくても大丈夫です。それと、体中にある打ち身や傷なども酷い状態ですが、ペニスはかなり長い時間、血流が滞っていましたし、もう少し遅ければ大変な事になっていました。肛門の裂傷も酷く、10針ほど縫いました。やれるべき治療は行ったので、あとは回復を待つしかありません。ただ、体は元に戻っても、ここまで酷く暴行された場合は、精神的にもフォローが必要です。今はまだ意識も朦朧としているでしょうが、おそらく時間が経つほどダメージが大きくなるでしょう。目が覚めたら、一度カウンセリングを受ける事をお勧めします」

医師はそう言うと、病室を後にした。
はぁ~と大きく溜息を付くと、二人の男は備え付けのスツールに腰を下ろした。

「大石さん‥俺‥限界っす」

20代の男の方が頭を抱え弱音を吐くと、大石と呼ばれた男が、チラリと視線を投げ立ち上がると、慰めるようにポンポンと肩を叩いた。
響を助け出し、この病院に連れてきたが、何一つ予定通りにいかなかった事に憤りを感じていた。

「まぁな、俺も、ここまで厄介な事になるとは思わなかった‥。葉月‥お前にも迷惑掛けて悪いな」

大石は、目の前で眠っている響に近づくと、その顔を覗き込んだ。

「こんな可愛い顔してんのに‥なんでヤクザもんと一緒に居たがるんだか‥どうして、親は簡単に子を捨てられんだ?」

独り事のように語られる言葉に、悲しみと慈しみを感じ、葉月と呼ばれた男は、両手で顔を覆った。

「悔しいっす‥自分が‥情けない‥」

話を聞いた時は、簡単な事だと思っていた。
ある組織から抜けさせたい人が居る、手伝ってくれと先輩の大石から話を聞いた時、葉月は何の躊躇いもなく承諾した。
マンションから出てくる男をピックアップし、その後、更生させる。
ただそれだけの事だと思っていた。
タイミングが悪かった‥そう言えば簡単な話だが、自分の出来る事があまりにも少なくて、あの時、響を救い出した瞬間、自分の浅はかさと無力さをひしひしと感じ、思わず権守にもあんな態度で手を振り払ってしまった。
再び大石の手が葉月の頭に伸び、ポンポンと優しく触れた。

「ごめんな‥お前は悪くない‥こんな事を頼んだ俺が悪い」

こんな年にもなって慰めを必要とするなんて‥頭に触れる大石の手が優しくて、葉月は湧き上がる涙を両手で拭った。





若い体は回復が早かった。
始めは殆ど眠っていた響だったが、3日後にはすでに起き上がり歩き出していた。
食事を残すことなく食べ、早く体を動かした方が良いと看護師に言われ、歩く練習もして、どんどんと回復してくると、看護師と話す時には笑顔も見れるようになった。
カウンセリングも開始し、担当医によると、殆ど自分の事は話さず、夜は眠れないのか、入眠剤を処方されているそうだ。
再び、大石と葉月が見舞いに来た時は、響は窓辺に立ち外の景色を眺めていた。

「初めまして‥黒須響さん」

こちらに背を向けていた響が振り返り、ガタイの良い男がスーツを着て並んでいるのを見ると、怪訝そうな顔をした。

「‥誰?」

二人は意識のある響に会うのは初めてだったし、自分達の姿を見て、こんな反応してくる人も多く慣れていた。

「ああ、自己紹介するね。私は、五谷警察署の大石啓司おおいしけいじです」
「私は、同じく五谷警察署の永井葉月ながいはづきです」

二人は胸ポケットから警察手帳を取り出し、中の証明を見せながら挨拶をする。
警察と聞いて、一気に響の顔が歪み警戒色が出る。

「‥警察の方が、何の御用ですか?」

響は自分を助けた人だと分かっていないから、当然の対応だ。

「いえ、少しお話を‥お時間よろしいですか?」

大石が遠慮がちに、いつもの愛想全開で話をするが、響の眉間の皴はなくならない。

「まぁ、座って下さい‥少し話が込み合っていますから‥」

大石はそう言いながら、響をベッドに誘導する。
大石の差し伸べた手を一瞥したが、それに触れることなく、響はベッドに戻り用意してあるドーナツ型のクッションの上にゆっくりと座った。

「‥なんでしょう?」

響の顔に緊張がこびり付く。
二人は近くのスツールを引き寄せそれに座ると、大石がゆっくりと話し始めた。

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