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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる
21話
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ーー・ ・・ーー
凜乃はバイオリンの練習中に、ふと時計を見ると16時を過ぎていた。
もう3時間もぶっ通しで練習している事に気が付き、一息つきに屋敷に戻ろうと、防音室の扉を開いた。
その時、なんだかキナ臭い煙が、外に漂っていた。
何?煙草?凜乃はそう思いながら足を進めると、その煙がアトリエから出ているものだと気が付く。
「えっ?‥叔父様‥叔父様!!」
慌てて凜乃はアトリエに飛び込む。
中に入ると充満している煙と、奥の方でボウボウと勢いよく燃えている炎が見えた。
「叔父様!」
人影が見えたのが、煙で顔が見えない。
凜乃がそう叫ぶと、人物がこちらを振り向いた。
「‥凜乃‥」
驚いた表情を浮かべていたのは、豊成だった。
「おっ、お父様‥なにしてるの‥?」
口調が途切れてしまったのは、豊成が手に持っているキャンバスが、自分の裸体画だったから。
「‥凜乃‥ごめんな。父さん‥これ、全部‥‥燃やさなきゃ‥」
そう呟きながら、火の海へキャンバスを投げ入れる。
――嫌だ‥嫌だ‥やめて‥私と叔父様の大切な想い出を‥燃やさないで!!
凜乃はそう叫んだかどうか分からなかったが、次の瞬間には、豊成にしがみ付いていた。
「やっ‥やめて、お父様‥危ない‥逃げないと‥」
燃え盛る炎は、今にも自分達を呑み込んでしまいそうで、ドス黒い煙に囲まれている。
声を出すと喉がヒリヒリとして、逃げようと、手を引く凜乃に豊成は落ち着いた声で答える。
「凜乃‥父さん、ちゃんとやるから‥こめんな‥お前だけ、先に逃げてくれ‥」
そう言いながら、凜乃の手を振り払い、次々に絵を燃やしていく。
再び縋りつく凜乃を、力いっぱい振り払うと、豊成は背を向けた。
振り払われた凜乃は、何かに躓き後ろに転倒してしまう。
「お‥お父様!‥やめて!」
炎が凜乃の目の前までもう来ており、煙が充満し豊成の姿がもう見えない。
「いっ、やよ‥駄目!‥お父様!‥ダメ!!」
その時、どこからともなく、ブワッと風が流れた気がした。
そして、凜乃は意識を失った。
ー・ーー ・・ ・ー・ー・ ー・ー・ー ・・ ・ー
「その力は、感情の起伏で現れてしまうんだよ‥」
「‥感情の起伏‥」
「そう、例えば、さっきみたいに‥気持ちが昂ったり、落ち込んだり‥そんな時に、周りに火が点いてしまう。あの時、アトリエで凜乃さんは、火が怖い‥消えてって思ったでしょ?」
コクンと頷いた凜乃に、神代がゆっくりと分かりやすく説明をしている。
「だから、あの時は、火を消す力が働いていた。だから優紫君が、凜乃さんを助け出すことが出来た。‥でもね、それはなかなかコントロールが難しくてね‥」
神代はそう言って、立ち上がった。
「ちょっと、来てごらん‥」
中庭に置いてあるテーブルと椅子の場所に凜乃を連れて行くと、そこには豊成が使用していた、大きなガラスの灰皿があった。
そこに葉月が持っている手帳の切れ端を一枚丸めて放る。
「見ててごらん」
神代がそう言うと、紙切れに手を翳す。
すると、一瞬で火が点き燃え尽きてしまった。
「こんな感じ‥」
その不思議な光景に、周りが驚きの声を出す。
そして神代は凜乃の顔を真っ直ぐに見ると、掛けている眼鏡を外した。
「ほら、小さくても力を使うと、どうしても瞳が赤くなる。これが何故起こるのか分かんない。さっき、凜乃さんの瞳も赤くなってたから、同じだと思う」
その言葉に、コクンと頷く。
「前も、赤くなって‥驚いたことがあります‥」
「そう‥あとは、コントロールだね‥それは自分で練習するしかないんだけど‥」
「‥‥神代さんも、同じ力?」
「うん、俺も同じ‥。大丈夫、俺達の他にもいるし、上手にコントロール出来れば怖くないから、やってみる?」
神代はそう言うと、葉月からもう一枚紙を貰い、丸めて灰皿に落とす。
「うーんとね、感情が爆発したら体中が熱くなって、抑えきれなくなるでしょ?‥それを、こんな風に手を翳して‥手から小さな火種がポンッて出てくるイメージ‥出来る?」
神代に誘導されるように、凜乃は手を伸ばし灰皿に向ける。
暫く待っただろうか、いきなりボウッと火が点き、紙が燃え尽きた。
「そうそう、上手!いいね」
褒められて嬉しいのか、ふわっと笑った凜乃の頭を神代がクシャリと撫でる。
「そして、次ね‥」
再び紙を落とし、神代が手を翳す。
すると今度はボッと燃えた瞬間に、シューッと消えた。
紙は少し色が変わったくらいで、燃えていない。
「これが火を消す方法、こっちの方が難しいかな‥さっき、凜乃さんが自分を炎で包んだ時、俺は優紫君に掛かる火を消すように力を使った。凜乃さんが出し続ける炎は消すことが出来ないけどね。自分で出した火は、自分を焼くことは無いから、自分は火傷はしない。他の人は火傷しちゃうから気を付けて。‥この力は誰かを傷付ける力でもある。だから不用意に使わない方が良いのは確かだから‥。これも練習してみる?」
「‥はい」
神代が紙を再び灰皿に置くと、凜乃が手を翳し‥しばらくするとボッと火が点き燃え始める。
シューッと火が消えたのは、半分以上燃え尽きた頃だった。
「うん。上手いよ‥上出来。これから、少しずつ練習すれば、すぐにコントロールできるし、感情も気持ちが溢れるくらい溜め込まないで‥家族に何でも相談して。凜乃さんには、大切な家族がいるからね‥練習する時は、気を付けて、誰かと一緒の時にやる様に‥」
優しく諭すように話す神代に、凜乃は、はにかんだ笑顔を見せた。
その笑顔を見て、神代はもう大丈夫だと確信した。
大切な人を、こんな形で失ってしまったが、それでも支えてくれる家族がいる。
その事に、神代も安心するように、微笑んだ。
凜乃はバイオリンの練習中に、ふと時計を見ると16時を過ぎていた。
もう3時間もぶっ通しで練習している事に気が付き、一息つきに屋敷に戻ろうと、防音室の扉を開いた。
その時、なんだかキナ臭い煙が、外に漂っていた。
何?煙草?凜乃はそう思いながら足を進めると、その煙がアトリエから出ているものだと気が付く。
「えっ?‥叔父様‥叔父様!!」
慌てて凜乃はアトリエに飛び込む。
中に入ると充満している煙と、奥の方でボウボウと勢いよく燃えている炎が見えた。
「叔父様!」
人影が見えたのが、煙で顔が見えない。
凜乃がそう叫ぶと、人物がこちらを振り向いた。
「‥凜乃‥」
驚いた表情を浮かべていたのは、豊成だった。
「おっ、お父様‥なにしてるの‥?」
口調が途切れてしまったのは、豊成が手に持っているキャンバスが、自分の裸体画だったから。
「‥凜乃‥ごめんな。父さん‥これ、全部‥‥燃やさなきゃ‥」
そう呟きながら、火の海へキャンバスを投げ入れる。
――嫌だ‥嫌だ‥やめて‥私と叔父様の大切な想い出を‥燃やさないで!!
凜乃はそう叫んだかどうか分からなかったが、次の瞬間には、豊成にしがみ付いていた。
「やっ‥やめて、お父様‥危ない‥逃げないと‥」
燃え盛る炎は、今にも自分達を呑み込んでしまいそうで、ドス黒い煙に囲まれている。
声を出すと喉がヒリヒリとして、逃げようと、手を引く凜乃に豊成は落ち着いた声で答える。
「凜乃‥父さん、ちゃんとやるから‥こめんな‥お前だけ、先に逃げてくれ‥」
そう言いながら、凜乃の手を振り払い、次々に絵を燃やしていく。
再び縋りつく凜乃を、力いっぱい振り払うと、豊成は背を向けた。
振り払われた凜乃は、何かに躓き後ろに転倒してしまう。
「お‥お父様!‥やめて!」
炎が凜乃の目の前までもう来ており、煙が充満し豊成の姿がもう見えない。
「いっ、やよ‥駄目!‥お父様!‥ダメ!!」
その時、どこからともなく、ブワッと風が流れた気がした。
そして、凜乃は意識を失った。
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「その力は、感情の起伏で現れてしまうんだよ‥」
「‥感情の起伏‥」
「そう、例えば、さっきみたいに‥気持ちが昂ったり、落ち込んだり‥そんな時に、周りに火が点いてしまう。あの時、アトリエで凜乃さんは、火が怖い‥消えてって思ったでしょ?」
コクンと頷いた凜乃に、神代がゆっくりと分かりやすく説明をしている。
「だから、あの時は、火を消す力が働いていた。だから優紫君が、凜乃さんを助け出すことが出来た。‥でもね、それはなかなかコントロールが難しくてね‥」
神代はそう言って、立ち上がった。
「ちょっと、来てごらん‥」
中庭に置いてあるテーブルと椅子の場所に凜乃を連れて行くと、そこには豊成が使用していた、大きなガラスの灰皿があった。
そこに葉月が持っている手帳の切れ端を一枚丸めて放る。
「見ててごらん」
神代がそう言うと、紙切れに手を翳す。
すると、一瞬で火が点き燃え尽きてしまった。
「こんな感じ‥」
その不思議な光景に、周りが驚きの声を出す。
そして神代は凜乃の顔を真っ直ぐに見ると、掛けている眼鏡を外した。
「ほら、小さくても力を使うと、どうしても瞳が赤くなる。これが何故起こるのか分かんない。さっき、凜乃さんの瞳も赤くなってたから、同じだと思う」
その言葉に、コクンと頷く。
「前も、赤くなって‥驚いたことがあります‥」
「そう‥あとは、コントロールだね‥それは自分で練習するしかないんだけど‥」
「‥‥神代さんも、同じ力?」
「うん、俺も同じ‥。大丈夫、俺達の他にもいるし、上手にコントロール出来れば怖くないから、やってみる?」
神代はそう言うと、葉月からもう一枚紙を貰い、丸めて灰皿に落とす。
「うーんとね、感情が爆発したら体中が熱くなって、抑えきれなくなるでしょ?‥それを、こんな風に手を翳して‥手から小さな火種がポンッて出てくるイメージ‥出来る?」
神代に誘導されるように、凜乃は手を伸ばし灰皿に向ける。
暫く待っただろうか、いきなりボウッと火が点き、紙が燃え尽きた。
「そうそう、上手!いいね」
褒められて嬉しいのか、ふわっと笑った凜乃の頭を神代がクシャリと撫でる。
「そして、次ね‥」
再び紙を落とし、神代が手を翳す。
すると今度はボッと燃えた瞬間に、シューッと消えた。
紙は少し色が変わったくらいで、燃えていない。
「これが火を消す方法、こっちの方が難しいかな‥さっき、凜乃さんが自分を炎で包んだ時、俺は優紫君に掛かる火を消すように力を使った。凜乃さんが出し続ける炎は消すことが出来ないけどね。自分で出した火は、自分を焼くことは無いから、自分は火傷はしない。他の人は火傷しちゃうから気を付けて。‥この力は誰かを傷付ける力でもある。だから不用意に使わない方が良いのは確かだから‥。これも練習してみる?」
「‥はい」
神代が紙を再び灰皿に置くと、凜乃が手を翳し‥しばらくするとボッと火が点き燃え始める。
シューッと火が消えたのは、半分以上燃え尽きた頃だった。
「うん。上手いよ‥上出来。これから、少しずつ練習すれば、すぐにコントロールできるし、感情も気持ちが溢れるくらい溜め込まないで‥家族に何でも相談して。凜乃さんには、大切な家族がいるからね‥練習する時は、気を付けて、誰かと一緒の時にやる様に‥」
優しく諭すように話す神代に、凜乃は、はにかんだ笑顔を見せた。
その笑顔を見て、神代はもう大丈夫だと確信した。
大切な人を、こんな形で失ってしまったが、それでも支えてくれる家族がいる。
その事に、神代も安心するように、微笑んだ。
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