飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる

20話

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「‥それなのに‥親子?‥‥お父さん?‥‥どうして‥私の気持ちは‥どうなるの?‥消したくない‥‥私は‥あの人が‥‥」

凜乃の顔が泣き顔から歪み始める。
そして瞳が、まるで魂が抜けた様に空洞に見え、その瞬間、凜乃の身体がボウッと大きな音を立て、炎に包まれた。

「‥凜乃さん!!」

神代が叫び出すと同時に、凜乃の背後から誰かがガシッと、炎に包まれた凜乃の身体を抱き寄せた。

「プールに飛び込め!!」

悲鳴が飛び交う中、葉月の声が聞こえた時、その影が凜乃を抱き締めたままプールまで走り、ダイブする。
ジュッと大きな音がして炎が消えていく。

「ああ‥‥凜乃!!」

玖美子がプールに走り出した時、後ろから神代が声を掛けた。

「大丈夫です。出した炎は自分を焼くことは出来ませんから‥」

確信めいた言葉に、玖美子は神代を見上げると、その瞳の色に目を奪われた。
凜乃を背後から抱き寄せ助けたのは、優紫だった。
葉月がプールから救い出した二人の姿にホッとしていると、颯馬が再び声を上げた。
振り向くと、凜乃が立っていた場所から、カーテンに火が点き、チロチロと燃え広がっている。

「‥葉月!」

神代の声に、プールの傍に立っていた葉月が、はいはいと返事をしたと思えば、片手をプールに向け伸ばす。
するとプールの水がグンと何かに引っ張られている様に伸びると、燃えているカーテンに降り注ぐ。
そして火はすべて沈下した。
すぐに騒ぎを聞きつけたキヨが、大きなタオルを持ってくると、優紫が受け取り凜乃を包み込んだ。

「大丈夫‥もう大丈夫だ‥‥」

そう小さく凜乃に囁いているのが聞こえた。

屋敷の火が消えた事で、ポカンとしていた颯馬に、神代が歩み寄る。

「颯馬さん、先程の和弘さんが残した手紙を、凜乃さんに‥」

そう言われ、颯馬は凜乃に近づき、手紙を渡した。

「凜乃‥これ、和弘さんが残した、最後の手紙‥読んで‥」

その言葉に、凜乃はハッと颯馬を見上げる。
その瞳が赤く染まっており、それに一瞬驚いたが、颯馬は手紙を凜乃に握らせる。
震える手で手紙を掴むと、涙が溢れ文字が見えないのか、手で拭いながら読み進める。



 東条家の皆様へ

私、東条和弘は自ら命を絶つことをここに記します。
今思うと、私は産まれるべきではなかったのかもしれません。
沢山の罪を犯し、沢山の人を傷付けました。
私の死が、他の誰かの安らぎになるのであれば、喜んで身を捧げる事にしましょう。
もう、この世に未練はありません。

最後に、こんな私を愛してくれた人へ
どうか悲しまないで下さい。
私は、苦しみのない所に行くのですから。
あなたは自分の人生を、これから歩むでしょう。
私は信じています。
いつか辿り着くその先には、素晴らしい世界が待っていると。
必ず、その世界を見届けて下さい。
私も‥愛していました。
さようなら‥ 


何度も涙を拭い、嗚咽しながらも読み終えると、その手紙をギュッと胸に抱く。

「‥どうして‥っ‥‥叔父様‥‥」

凜乃の涙はずっと続いていた。
それでも、傍で肩を寄せてくれる人が居る。
自分を大切にしてくれる家族が居る事に、すぐに気が付くだろう。





カーテンが燃えてしまったから、キヨと颯馬が取り外しているのを見て、葉月も一緒に手伝う事にした。
神代は、相変わらずで、それを見ながらソファにグッタリと身を沈めている。
本当に体力がないんだな‥そんな事を思いながら神代を見ていた。

「申し訳ない‥葉月先輩にまで手伝ってもらって‥」
「いや、大丈夫だよ‥気にすんな‥」
「そう言えば、‥さっきのは何?‥マジック?」

思い出したかのように、颯馬が葉月に問いかける。

「まぁ、そんなもんかな‥」

そんな事を言っていると、応接室にシャワーを浴びてきた凜乃と優紫が入ってきた。

「凜乃‥優紫‥大丈夫か?痛い所は無いか?」

颯馬がすぐに駆け寄ると、凜乃の後ろから玖美子がやってきた。

「大丈夫よ。凜乃には火傷もないわ‥優紫は、手に少しだけ‥」

玖美子が代わりに答える。
優紫の手には包帯が巻かれていた。

「そうか‥良かった‥」

安心した颯馬に、凜乃が頷き返す。

「そうだ、凜乃さん‥少し話をしましょう‥」

神代がソファから立ち上がりもせずに、凜乃に声を掛けた。
その言葉に、皆が再びソファに腰掛ける。

「はい、これは颯馬さんが‥そして、これは凜乃さんが‥それぞれ持っていた方が良いでしょう‥」

神代がそう言いながら渡したものは、先程、颯馬が部屋から持って来た、和弘が描いた絵だった。
颯馬には、豊成とすみれの絵。
凜乃には自分のバイオリンの絵姿。

「凜乃さん、裏を見てごらん‥」

神代に言われるがまま、キャンバスの裏を覗くと、そこには『大切な娘』と書いてあった。
その事に、再び凜乃の瞳から涙が零れ落ちた。

「もう、この件は、これで終わりで良いかな?‥あれは、あるべき場所に必ず戻してくださいね」

神代は、視線を玖美子に合わせた。
玖美子は、すべて見通している神代に小さく頷いた。
玖美子が実家の病院から持って来たもの‥それは、青酸カリだった。
和弘に飲ませた後、自分も死んでしまおうと思っていた。
玖美子は、復讐に囚われそうになっていたのだ。

「‥よし、じゃあ‥あとひとつだけ、凜乃さんに言っとくね」

そう言うと、神代は凜乃の方を向き視線を合わせる。

「自分でも、気が付いているでしょ?‥その力‥」
「‥‥はい」

凜乃は涙を拭き、神代の顔を真っ直ぐに見つめた。

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