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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる
27話 ≪最終話≫
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「あちーよー」
そう言いながら首に掛けたタオルで、額に浮かぶ汗を拭った葉月は、すぐ隣のパラソルの下でアウトドア用のチェアに座り、涼し気に座りながらビールを飲んでいる神代を羨ましそうに睨みつけた。
「オイッ!‥手伝えよ!‥朱雀!」
葉月が握っているのは、バーベキューに使っているトングで、一生懸命に目の前の肉や野菜を焼いていた。
その隣では、大石が皿を出し、焼けた肉を奪っていく。
チラリと葉月と大石に視線を送ると、神代は面倒臭そうに口を開く。
「えーやだ‥暑いから‥」
その言葉の通り、今日は晴天。
5月に入り世間はGWの真っ最中で、神代達は、事務所のあるビルの屋上でバーベキューコンロを出し、男三人で楽しい時間を過ごしていた。
先程から、葉月が焼き手で、神代は座ったまま動かない。
「ほら、神代‥焼けたぞー」
大石がそう言って、焼けた肉や野菜を皿に乗せ持って来た。
神代はサンキュと言って受け取ると、大石は正面のチェアに腰掛け、持って来たビールをグイッと喉を鳴らし飲んでいく。
「はぁ~旨いな~昼間っから、酒が飲めるって幸せ~」
嬉しそうに笑う大石に、神代が鼻を鳴らして笑う。
「‥‥弟が、来たんだって‥?」
焼けた肉を摘まみながら、大石がさり気なく口にする言葉に、神代は一瞬手が止まるが、すぐにビールを口に運んだ。
「‥あいつ、おしゃべりだな‥」
焼き手を担っている葉月の背を睨みつけるように放った神代の言葉に、今度は大石が含み笑いをする。
「‥いや、あいつじゃねぇよ‥」
「‥‥じゃあ、誰だよ!」
睨みつけた神代に、大石は動じない。
「ふふっ‥まぁ、知る方法はいくらでもあるって事だ。‥で?どうした‥?‥家に帰りたくなったか?」
「フンッ!‥誰が!‥そもそも、俺は、もう黒須響じゃない。過去は捨てた‥」
「そっか‥ならよかった‥」
バーベキューコンロで肉を焼きながら、ブツブツ言っている葉月を見て大石はフフッと笑う。
「まぁ、お前は一人じゃないからな‥あいつが居るから、安心してるんだ‥」
大石はそう言うと、立ち上がり葉月の方へ歩いていく。
ブツブツ言う葉月と二言三言話すと、葉月がトングを大石に渡し、肉を乗せた皿とビールを持ちながら神代の隣に来た。
「食ってるか?」
チェアに座るなりビールを喉に流し込んでいる葉月に、ああ‥と頷く神代。
眩しすぎる太陽と、梅雨前の爽やかな気温に、心地よくて、つい笑顔になる。
酔っているのか神代の頬が赤く染まっていた。
「‥お前さ‥なんで警察、辞めたの‥?」
何度も聞こうと思っていながら聞けなかった事。
探偵事務所を開業したいと大石に話をした時、神代の許可も得ずに早々に警察を退職し、押しかけ女房の様に居座ってしまった。
「‥んっ?‥‥なんで?」
キョトンとした顔をして質問に質問を返され、神代はイラッとする。
「だから、なんで辞めたんだって聞いてんだよ‥」
「んー、まぁ、強いて言えば‥お前の傍に居たかったから‥かな?」
可愛く首を傾げながら言われても‥神代は持っていたビールを飲み干した。
「‥っ‥‥お前は、いつもあざとい!!‥まったく、可愛くないんだ‥‥」
「はいはい‥ほら、もっと食えよ‥」
ケラケラと笑いながら、まだ肉や野菜が沢山残っている神代の皿に、新しく肉を乗せた。
「‥まだあるし!」
眉を潜めそう言った神代に、もっと沢山食わないと‥と嬉しそうに笑う。
――ああ、楽しい‥こんな日が、ずっと続けばいいのに‥。
神代は、そう思いながら、葉月を見て笑った。
5月中旬――。
凜乃は喪服のまま和弘の部屋に来ていた。
今日は、和弘の四十九日法要だった。
久しぶりに嗅ぐ絵の具の匂い‥そして、愛する人の匂いに、凜乃の瞳に膜が張る。
ここに来るのは久しぶり‥いや、和弘が亡くなってからは一度も来ていなかった。
この部屋に入ると、和弘が居ない事を認めてしまいそうで、足が遠のいていた。
凜乃は歩きながら、机‥椅子‥本棚‥と指を這わせ、和弘への想いを馳せる。
そのうち、瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
「‥叔父様‥」
そして、イーゼルに乗っているキャンバスに視線がいく。
海辺に昇る真新しい太陽。
オレンジと黄色の輝きが、一本の筋となり海へと差し込み、その光の中で砂浜を歩いている一人の女性のシルエット‥その女性が指さす方には、小さな少女が楽しそうに走っている。
綺麗な絵‥。
凜乃はふと思いつき、キャンバスを持ち上げ、裏を見てみた。
そこに書いてある和弘の字を見て、凜乃は微笑んだ。
「‥叔父様‥大好き」
凜乃はキャンバスを元に戻すと、微笑んだまま部屋を後にした。
キャンバスの裏面に書かれていた文字――。
『 Mon soleil 』
~ おしまい ~
そう言いながら首に掛けたタオルで、額に浮かぶ汗を拭った葉月は、すぐ隣のパラソルの下でアウトドア用のチェアに座り、涼し気に座りながらビールを飲んでいる神代を羨ましそうに睨みつけた。
「オイッ!‥手伝えよ!‥朱雀!」
葉月が握っているのは、バーベキューに使っているトングで、一生懸命に目の前の肉や野菜を焼いていた。
その隣では、大石が皿を出し、焼けた肉を奪っていく。
チラリと葉月と大石に視線を送ると、神代は面倒臭そうに口を開く。
「えーやだ‥暑いから‥」
その言葉の通り、今日は晴天。
5月に入り世間はGWの真っ最中で、神代達は、事務所のあるビルの屋上でバーベキューコンロを出し、男三人で楽しい時間を過ごしていた。
先程から、葉月が焼き手で、神代は座ったまま動かない。
「ほら、神代‥焼けたぞー」
大石がそう言って、焼けた肉や野菜を皿に乗せ持って来た。
神代はサンキュと言って受け取ると、大石は正面のチェアに腰掛け、持って来たビールをグイッと喉を鳴らし飲んでいく。
「はぁ~旨いな~昼間っから、酒が飲めるって幸せ~」
嬉しそうに笑う大石に、神代が鼻を鳴らして笑う。
「‥‥弟が、来たんだって‥?」
焼けた肉を摘まみながら、大石がさり気なく口にする言葉に、神代は一瞬手が止まるが、すぐにビールを口に運んだ。
「‥あいつ、おしゃべりだな‥」
焼き手を担っている葉月の背を睨みつけるように放った神代の言葉に、今度は大石が含み笑いをする。
「‥いや、あいつじゃねぇよ‥」
「‥‥じゃあ、誰だよ!」
睨みつけた神代に、大石は動じない。
「ふふっ‥まぁ、知る方法はいくらでもあるって事だ。‥で?どうした‥?‥家に帰りたくなったか?」
「フンッ!‥誰が!‥そもそも、俺は、もう黒須響じゃない。過去は捨てた‥」
「そっか‥ならよかった‥」
バーベキューコンロで肉を焼きながら、ブツブツ言っている葉月を見て大石はフフッと笑う。
「まぁ、お前は一人じゃないからな‥あいつが居るから、安心してるんだ‥」
大石はそう言うと、立ち上がり葉月の方へ歩いていく。
ブツブツ言う葉月と二言三言話すと、葉月がトングを大石に渡し、肉を乗せた皿とビールを持ちながら神代の隣に来た。
「食ってるか?」
チェアに座るなりビールを喉に流し込んでいる葉月に、ああ‥と頷く神代。
眩しすぎる太陽と、梅雨前の爽やかな気温に、心地よくて、つい笑顔になる。
酔っているのか神代の頬が赤く染まっていた。
「‥お前さ‥なんで警察、辞めたの‥?」
何度も聞こうと思っていながら聞けなかった事。
探偵事務所を開業したいと大石に話をした時、神代の許可も得ずに早々に警察を退職し、押しかけ女房の様に居座ってしまった。
「‥んっ?‥‥なんで?」
キョトンとした顔をして質問に質問を返され、神代はイラッとする。
「だから、なんで辞めたんだって聞いてんだよ‥」
「んー、まぁ、強いて言えば‥お前の傍に居たかったから‥かな?」
可愛く首を傾げながら言われても‥神代は持っていたビールを飲み干した。
「‥っ‥‥お前は、いつもあざとい!!‥まったく、可愛くないんだ‥‥」
「はいはい‥ほら、もっと食えよ‥」
ケラケラと笑いながら、まだ肉や野菜が沢山残っている神代の皿に、新しく肉を乗せた。
「‥まだあるし!」
眉を潜めそう言った神代に、もっと沢山食わないと‥と嬉しそうに笑う。
――ああ、楽しい‥こんな日が、ずっと続けばいいのに‥。
神代は、そう思いながら、葉月を見て笑った。
5月中旬――。
凜乃は喪服のまま和弘の部屋に来ていた。
今日は、和弘の四十九日法要だった。
久しぶりに嗅ぐ絵の具の匂い‥そして、愛する人の匂いに、凜乃の瞳に膜が張る。
ここに来るのは久しぶり‥いや、和弘が亡くなってからは一度も来ていなかった。
この部屋に入ると、和弘が居ない事を認めてしまいそうで、足が遠のいていた。
凜乃は歩きながら、机‥椅子‥本棚‥と指を這わせ、和弘への想いを馳せる。
そのうち、瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
「‥叔父様‥」
そして、イーゼルに乗っているキャンバスに視線がいく。
海辺に昇る真新しい太陽。
オレンジと黄色の輝きが、一本の筋となり海へと差し込み、その光の中で砂浜を歩いている一人の女性のシルエット‥その女性が指さす方には、小さな少女が楽しそうに走っている。
綺麗な絵‥。
凜乃はふと思いつき、キャンバスを持ち上げ、裏を見てみた。
そこに書いてある和弘の字を見て、凜乃は微笑んだ。
「‥叔父様‥大好き」
凜乃はキャンバスを元に戻すと、微笑んだまま部屋を後にした。
キャンバスの裏面に書かれていた文字――。
『 Mon soleil 』
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