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3章
54話 彼女の成長
しおりを挟む俺とリュミエールは深夜の村を違和感に向かって進む。
「今度は村の中心部何ですか?」
「なんとなくな。こっちの様な気がする」
俺は彼女にそう返して、違和感のある方向に進む。
そして辿り着いたのは、集会所だった。
「ここ……ですか?」
「そうらしい。行くぞ」
「はい」
集会所の鍵はかかっていないらしく、俺達は中に入る。
そこは食料庫の3倍以上も広く、床にはそこかしこに人が寝かせられていた。
昼間に倒して寝かせた連中が、また何かあっては大変ということでここに寝かせているのだ。
まさかこんな所がそれになるとは思わなかった。
「因みに……どこに魔法陣があるんでしょうか……」
「そうだな……」
俺は部屋の中を見回して、違和感のある部分を探す。
すると、それは寝ている人の下にあるのを見付けた。
「……」
俺は無言でそこまで進み、ここだとリュミエールに示す。
彼女は驚いた表情をするけれど、小さな声で聞いてくる。
「どうしましょうか。これは……明日になってからの方がいいですか?」
「いや、明日になったらまた争いが起きるかもしれない。今からやるんだ」
「でも、人が……」
「こうする」
「んが!?」
俺は寝ている人を持ち上げる。
その拍子に起きてしまったらしい。
なのでもう一度寝かせる。
「『睡眠魔法』」
「ぐぅ……」
俺に持ち上げられながらも、彼は再び眠りについた。
彼を適当な所に下ろし、リュミエールの元に戻ってくる。
「よし。それじゃあ壊すぞ」
「あんまり大きい音を立てたら他の人も起きるんじゃ……」
「また寝かせる」
「そうでしたね……」
そうは言ってもわざわざ起こすのも悪いだろう。
俺は剣を抜き放ち、床を四角く切り刻んだ。
スパパ!
大きな音がすることもなく、床は俺に切り取られる。
そして、それを剣で突き刺し、持ち上げて横に置く。
「よし。これで行けるな」
「そんな……簡単に床を……いえ。そうですね。私は私のやることをやります」
俺達が下に降りると、さっきよりも1.5倍程はありそうな魔法陣が描かれていた。
しかも、それはオレンジ色ではなく、真っ赤な光を放っている。
「これは……さっきのとは違うのか?」
「そう……ですね。これは……」
「おっと」
スパッ!
俺は前回で学んだ通り、不意をついて来たトカゲを一瞬で切り裂く。
そして、一安心する訳もなく、
「まだいるよな」
スパパ!
今度は3体が同時に来たので全て切り落とす。
ちゃんと防衛設備も強化しているのだろう。
だが、その程度は簡単に読める。
「さて、この魔法陣がなんだった?」
「いえ……凄いですね。もう……対応しているとは……」
「人はそうやって成長して行く。リュミエール。お前も成長出来る。俺が保証するよ」
「……はい。それで、この魔法陣は負の感情を増幅するよりも、もっと強力な物。元々持っている負の感情を増幅させ、更に攻撃的にする物の様です」
「なるほど、さっきよりも強力な物か」
「はい。ですが……疑問があります。なぜわざわざ分けたのか? 最初からこれ1つでいいんじゃないのか? ということが分かりません」
2人で少し悩み、俺は考えを話す。
「それについてだが、仮説がある」
「仮説ですか?」
「ああ。恐らく……先ほどの魔法陣でも普通だったら十分なダメージを与えられるのだろう。だが、俺達の様に実力者がいれば解除は出来る。そんな者達が1つの魔法陣を解除させたという事で油断させ、次の魔法陣で確実に止めをさせるようにしたのではないだろうか」
「なるほど……」
「という訳だ。早い所この魔法陣を解こう。でなければ朝になった時にどうなるか分からない」
「……はい。今度こそ……私に任せて下さい」
「リュミエール。お前なら出来る。最強の俺が認めたお前なんだ。絶対に出来る」
「……はい!」
俺はそう言って彼女を励ますと、彼女は力強く頷いて魔法陣の方に降りて行く。
彼女がそれからずっと……じっと魔法陣を見つめて、頭を働かせ続けている。
俺はそれを階段の上に座り込んでじっと待った。
「ここがこう……で、あれは……? でもじゃあさっきはなんで……?」
ぶつぶつと言っているけれど、それも彼女なりの集中している証拠なのだろう。
俺は彼女を見守り続けた。
「それだったら……そうか! こっちがこっちとあっちにも連動しているんだ! だとしたらあそこも……」
彼女はじっと魔法陣を見つめてそれから時刻は刻一刻と過ぎて、時刻的にはそろそろ朝になろうかという感じになる。
木窓の隙間からは朝日が部屋の中に入って来ていた。
けれど、俺は何をするでもなく、リュミエールの行方を見守った。
彼女は額に汗をかきながらもじっくりと魔法陣の解読を進め、そして大声で叫ぶ。
「ここだ! ここを……消して……。それから……ここを……消す! 出来た!」
リュミエールが魔法陣の線を2本ほど切断した。
模様を切断しただけなのだけれど、それでも魔法陣は効果を失ったのか赤い光が消えていく。
「出来たか?」
「はい! これでこの魔法陣はもう意味を為しません! それに、ここが消えることで他の所に行くはずだった力も消しました!」
「よくやった。リュミエール」
彼女は顔に凄い疲労感を滲ませながらも、嬉しそうに笑いかけてくる。
「シュタルさんが信じて下さったからです。でも……。流石に疲れ……ました」
「おっと」
俺は立ち上がってすぐに倒れる彼女を抱きとめる。
「ゆっくり寝ろ。今はそれが一番いい」
俺は彼女を宿まで運び、ベッドに寝かせる。
そして『結界魔法』を張ると、俺に出来る事をするべく宿から飛び出した。
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