56 / 137
3章
55話 サラス
しおりを挟む「遠くに見えるあれがサラスだな」
「すごいですねぇ……大きいです……」
俺とリュミエールが村を出発して数日。
ついにサラスに到着した。
日はまだ高く、暖かくなり始めてきた所だ。
視線の奥にはまるで城と間違える程大きな建物が目に飛び込んで来る。
「ああ、最初はただの中州の街だったが、発展するにつれて水賊が出るようになり、それから身を守るために城壁まで築かれたらしい」
「それなら水賊を討伐してしまえばよかったのでは?」
「何度もやったらしいが、魔族領も近いからそこまで完璧に出来ない。それに、もしも魔族に攻められるのなら、いざという時の為に立ててしまおう。という事らしい」
「そんな理由があったんですね」
「あそこの橋を渡り切ったらサラスの中に入れるぞ」
「橋もかかっているんですか……」
「当然だ。あれほどの規模を船だけでは維持できん。そら、行くぞ」
俺達は橋の前に立っている門番の所に向かう。
彼らは騎士の鎧をまとっているけれど、肩が下がりどことなくやる気を感じられない。
というか、彼らの前に並んでいる人も少なく、検査もかなり適当だ。
「よし。次……お前は?」
「あ、商売で……」
「そうか。次」
「え? あ、はい」
そんな感じで検査と思われないような程に適当なのだ。
俺達の番もすぐに訪れる。
「お前達の目的は?」
「通り抜けるだけだ。この先のダンジョンに興味がある」
俺がそう言うと、騎士は俺に迫ってきてガシっと両肩を掴んだ。
「なんだいきなり」
「お前……あそこに挑むほどの実力者なのか?」
「当然だ。俺は最強だぞ」
「最強……?」
「そうだ」
「頼みがあるんだ!」
騎士はそう言って俺に頭を下げる。
「何があった」
「それが……と、ここでする話ではないな。案内するついでに街の中に入ろう」
そう言って彼は他の騎士に仕事を代わってもらうと、俺達の案内をしてくれる。
なんだか乗せられている気がしないでもないけれど、街を救うためであれば少しくらいはいいだろう。
「綺麗……」
俺達は10人が並んで歩ける程の大きな橋を徒歩で渡る。
中州にあるサラスに到着するまでは10分以上歩かなければ到着しない。
それほどにアルガル川というのは大きな川なのだ。
そして、その上流にあるミネスト湖もまた同様に大きい。
彼女がのんびりとそんな光景を眺めている間、俺は騎士と話をする。
「それで、他に誰もいなくなったが……これで話してくれるんだろうな?」
「ああ、数か月前に、ここの兵士達や男衆がいなくなったのは知っているか?」
「……操られていて、少し経ってから王都に向かったという事か?」
「……そうだ。知っているのなら話は早い。その時にここの兵士達がいなくなり、兵士が減ってしまったせいで水賊がかなり暴れまわっているんだ」
「王都でも問題は解決した。その兵士達が帰ってくれば問題ないんじゃないのか?」
その為に先日の村に食料をそれなりの量を置いて来た。
サラスもセントロの様に大きな街だ。
ミリアムに狙われていた可能性は高い。
そして、今の話を聞く限り、ミリアムに操られていた者達はいたはずだ。
なら、その者達が帰って来たらそれで問題はないと思うのだが……。
「それが簡単な問題でもない。今の水賊は一味違うんだ」
「褒めるようにいう必要はないと思うが……」
「褒めてなどいない! ……失敬した。ただ、奴らは何を思ったか守り神の巣を自由に行き来出来るらしい」
「何だと!?」
ちなみに、ここでいう守り神とはミネスト湖の中心部に住む巨大な水亀だ。
この街で暮す巫女の一族が語りかけることにより交流をしていると聞いていたけれど……。
なので、普通だったら水賊の仲間をするような事なんてないと思うのだが。
「巫女は何と言っている?」
「……いなくなった」
「何? いなくなった?」
「ああ……多くの者が操られ、どこかに消えて行く時に、その一族も何者かの襲撃を受けて多くが殺され、数名が行方不明の状態だ」
「では……守り神は……」
「誰も会話できる者がいない。それに……水賊の中に、行方不明になった巫女の一族がいたとの話も聞いている」
「それは……不味いだろう」
「……ああ。だから……これを解決してはくれないだろうか」
「なぜわざわざ俺に?」
「……正直誰でも良かった。強そうな者であれば誰にでも声をかけている。それほどに危機的な状況なのだ」
「お前達騎士は何をしている?」
「それは……。これから分かる」
「?」
騎士はそれから無言になり、彼の後をついて行く。
そして、サラスが近付いて来るとなんとなく分かる。
「おっきいですね~」
リュミエールはのんきに見上げているが、俺には嫌な雰囲気がひしひしと伝わってきた。
サラスは純白の城壁に守られた都市だ。
中央には小さな城の様な物があり、戦時下ではそこが司令塔になる。
先ほど見えていたのもこれだ。
そして、その都市の中は普通に栄えた場所であるはずだ。
以前きた時は魚を買わせようと賑わっていたものだ。
しかし今は……。
「逃げるなクソ共!」
「殺せ! 人の獲物取ったカスは殺して魚のエサにしろ!」
「びえええええええ!!!」
「よしよし。静かに、静かにしてね」
「うっせーぞクソガキ! 殺されてーか!」
「すいません。すいません」
「これは……」
俺達が街の中に入った途端、怒号が響き渡り、赤子は泣き、母は静めようと頭を下げる。
中には手に武器を持ち、攻撃できる相手がいないかと周囲に喧嘩を売るものもいた。
そんな状況を見せて、騎士は話す。
「これが……今のこの街、サラスの状況です。我々は……この街の治安維持で精一杯なのです」
そう話す騎士の目は諦めに満ちていた。
1
あなたにおすすめの小説
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
俺が追放した役立たずスキルの無能女どもが一流冒険者になって次々と出戻りを希望してくるんだが……
立沢るうど
ファンタジー
誰もが憧れる勇者を目指す天才冒険者『バクス』は、冒険者パーティーのメンバーである無能少女三人に愛想を尽かせ、ある日、パーティーリーダーとして追放を決意する。
一方、なぜ自分が追放されるのかを全く自覚していない彼女達は、大好きなバクスと離れたくないと訴えるも、彼にあっさりと追放されてしまう。
そんな中、バクスのパーティーへの加入を希望する三人が、入れ替わりで彼の前に現れ、その実力を見るために四人でモンスター討伐の洞窟に向かう。
その結果、バクスは三人の実力を認め、パーティーへの加入で合意。
しかし、それも長くは続かなかった。モンスター討伐を続ける日々の中、新加入三人の内の一人の少女『ディーズ』が、バクスとの冒険に不安を訴えたその翌日、なぜか三人共々、バクスの前から忽然と姿を消してしまう。
いつの間にかディーズに好意を寄せていたことに気が付いたバクス。逆に自分が追放された気分になってしまい、失意に暮れる彼の元に、追放したはずの『コミュ』が出戻り希望で再アタック(物理)。
彼女の成長を確認するため、自分の気持ちを切り替えるためにも、バクスが彼女と一緒にモンスター討伐に向かうと、彼女は短期間でとんでもない一流冒険者に成長していた……。
それを皮切りに他の二人と、かつての『仲間』も次々と出戻ってきて……。
天才冒険者の苦悩と憂鬱、そして彼を取り巻く魅力的な女の子達との笑顔の日常を描くハートフル冒険者コメディ。是非、ご一読ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる