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3章
72話 サラスの領主
しおりを挟むメディは嫌そうに呟く。
「領主様……」
メディの言葉を聞いた領主は大げさな手振りで口を開く。
「おいおい愛しのメディ。そんな反応はないだろう? お前が帰って来たと聞いてわざわざ来てやったんだぞ?」
「……何の御用ですか。私は客人のもてなしで忙しいのですが」
「わたしも客人だろう?」
「……我が一族が大変な時に何もしてくれなかった貴方よりも、今助けて下さった彼らの方が大切な客人です」
メディはそうハッキリと言い切る。
領主はそんなメディの視線の先にいる俺達をチラリを一瞥する。
それから、ため息をつくように返した。
「そんな冒険者より、わたしの方が色々と出来る。それくらい分からない君ではないだろう?」
「だからなんですか。私が貴方なんかより、彼らを大切にしたい。そう思っているだけです。今日は忙しいのでお帰り下さい」
メディはそう言って彼に背を向ける。
すると、領主は俺達の方に向く。
「貴様らは帰れ。いや、即刻この街から出て行くがいい。わたしが許す。さて、メディ。これで邪魔者は居なくなったぞ?」
「貴方! この街を救ってくれた人達になんて事を!」
「何を言う。冒険者等またすぐに集まってくる。問題などないさ」
「問題ないって……何を言っているの? 少し前まで、この街が一体どんな状態だったと思っているの?」
「ちょっと荒れていただけ……さ。湖だって天候で波が立つこともあるだろう? そういう事だよ」
「だからって……だからってそんな……そんなこと……」
俺達は何も言えずに2人の会話を見守っていると、領主が再び俺達の方に視線を向ける。
「貴様ら。まだいたのか? いいからサッサと消えろ。この街の領主であるわたしが言っているのだぞ?」
「皆……ごめんなさい。私では……どうすることも……」
メディはそう言って凹んでいる。
その様子を見て満足そうに領主が更に言う。
「ほら、とっとと行け。たく……ここまで言っても動かんか。お前達、こいつらを連れ出せ」
「はっ!」
そう言って騎士達が連れ出そうとするのを、俺は止める。
むしろ、こちらに迫ってくる奴らを全員土に埋めこむ。
ズボォ!
いつぞやの再来だ。
俺がそうすると、驚いた領主が大声で怒鳴ってくる。
「き、貴様! 何をしたか分かっているのか! この、サラスの街の領主であるわたしに歯向かったのだぞ!」
「そうだが? 何か問題でもあるのか?」
「問題……あるに決まっているだろう! わたしのこの街での力を知らない等とは思わない事だ! これから少しして王都から兵士達が帰ってくる。そして、国王ともわたしは懇意にしているのだ。そのわたしに歯向かったこと。後悔するぞ」
「ほう。面白い。ではどう後悔するのか……教えてもらおうか」
「いいだろう。わたしとメディの再会の場だったが……そこまで言うのであれば……お前達! 入って来い!」
領主が叫ぶと、屋敷の中にわらわらと兵士が入ってくる。
そんな彼らは、不思議そうな顔をして領主を見ていた。
「領主様。それで、いかがなさいました?」
「こいつらを捕らえて外に放り出せ。多少手荒に扱っても構わん」
「彼らですか?」
そう言ってくるこちらを向いてくる先頭の男。
かなり質のいい鎧をまとっていて、こちらを見る視線も油断がない。
彼は、俺からゆっくりと隣にいるリュミエールに向けると、目をむいて驚く。
「あの……貴方は……光の巫女様ではございませんか?」
「ええ。そうですよ」
彼はリュミエールの言葉を聞き終わると、グリンと視線を俺に向けてくる。
ちょっと怖い。
「あの……では、貴方様は……シュタル様……だったりしませんか?」
「そうだ。良く知っているな?」
「! お前達! ここでシュタル様に出会えたぞ!」
「何だって! あの俺達を皆助けてくれた!?」
「俺達の為に道中の村に食料を残しておいてくれたあの!?」
先頭の男らしき男の声で後ろから次々に声が上がる。
「なんだ。良く知っているな」
「それはもう……! 我々の命の恩人ですから! 王都では我々を助けてくださり、ここに来るまでも食料を残してくださいました。本当にありがとうございます。それで……どうして領主様と対立をなさっておいでなのですか?」
「ああ、それはな」
俺はそれからこの街で何があったのかを説明する。
「……シュタル様。ありがとうございます。そしてメディ様」
「な、何?」
彼女はこれだけ多くの兵士がいるのに驚いているのか、リュミエールの後ろに隠れている。
「先ほどの話……全て本当ですか?」
「本当よ。守り神様も今は湖の中央でゆっくりされているわ」
「領主様。貴方は……何もしてこなかった。それも本当ですか?」
「ち、違う! わたしはお前達兵士がいきなり出て行くからほとんど何も出来なかったんだ! 部下たちが勝手に冒険者と協力して水賊の討伐に乗り出し失敗するし……。どうする事も出来なかったんだ!」
「では……それが終わった後に、その功労者の彼らにこんな仕打ちをするのが……貴方のやり方ですか?」
「う……そ、それは……」
「元々好きではありませんでしたが……やはり貴方に仕え続ける事は出来ません。辞めさせて頂きます」
「な! 何を言っている! わたしの元から勝手にいなくなるなど許さんぞ! それに、わたしは国王と親しいのだ! それがどういう意味をもつか、知らない訳ではあるまい?」
そういう領主は冷汗を流しながらも切り札とでも言う様に誇ってくる。
なので、折角なら俺もそれにのってやることにした。
「奇遇だな。俺も国王とはそれなりに仲がよくな。先日もこれをもらったんだ」
別に仲がいい訳ではないけれど、こう言っておく方が効果的だろう。
それと同時に、俺は『収納』から国王にもらった短剣を出す。
「そ……それは……」
領主の目玉が飛び出るんじゃないかと思うほどに見開かれていた。
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