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4章

92話 アストリアvs剛腕

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***アストリア視点***

 ボクは奴を許さない。
 【魔陣】を許さないのはもちろんだけれど、直接ヴェーリとテンダー大事な仲間2人を殺したのは【剛腕】だからだ。

「はぁぁぁあああああ!!!」

 ボクは奴に向かって突進する。
 先手必勝。
 それに、奴の攻撃を受けたら幾らボクでも厳しいかもしれない。
 だからやられる前にやる。

「おで、お前とは戦いたい」
「何を!」

 ボクは聖剣を引き抜き、奴に向かって切りかかる。

「死ね!」

 しかし、ボクの一撃は簡単にかわされた。

「お前、弱い。殺せる」
「くっ!?」

 ボクの攻撃を躱されたその隙間に、奴は拳を叩きつけてくる。
 何とか聖剣で受けるけれど、思い切り吹き飛ばされて建物に叩きつけられた。

「がっは!」
「おで、もっとお前と、戦う」
「く、願うところだ!」

 ボクは奴に向かって再び突撃をする。
 ボクは弱い。
 ダンジョンに潜る中で、そのことをシュタルに嫌というほど教えられた。
 だけど、弱いからこそ、戦う気持ちで負けてはいけない。
 絶対にやつに勝つという気持ちで負けてはいけないんだ。

「お前は……絶対に許さない!」
「お前、弱い。おでに、勝てない」
「そんな事はない!」

 そんな気持ちとは裏腹に、ボクの攻撃は再び奴にかわされる。

 奴は拳を握り、ボクに向かって叩きつけてきた。

「!?」

 ズドン

 ボクは横に転がって、何とか躱すことに成功する。
 でも、奴は甘くはなかった。

「甘い」
「ぐふっ!」

 奴の蹴りがボクの頭に強烈きょうれつに入り、意識を飛ばしながら転がっていく。

「ぐ……うぅ……」
「おで、もっと……戦う」

 ボクは起き上がる事が出来ない。
 そんな中で、少し思う。

 ボクはまた死ぬのか。
 ダンジョンであれだけ死んで、主も倒して……。
 それなのに……また死ぬ……のかな。

「死……ぬ……?」

 ボクが……また死ぬ……?

 死ぬほど厳しい特訓を受けたのはなぜ?
 こいつを倒すためだ。
 こいつに勝つ。
 大事な仲間のかたきを討つ。
 そう決めたはずだったのに……。

 そんな時に、シュタルの言葉が思い浮ぶ。

『集中しろ。敵の動きを見切り、そして、どこなら攻撃が通じるか考えろ』

 ボクは忘れていた。
 集中する。
 とても大事なこと。
 あいつを殺す。
 その事は絶対に成しとげる。
 でも、その怒りで我を忘れてしまっては良くない。

 ダンジョンの主であるドラゴンを倒した時の事を思い出せ。
 ボクはどうやって戦っていた?
 ボクは……どうやって敵を殺していた?

「おで、お前と、もっと戦う。もっと……お前の大事な人間を殺す」
「!!!???」

 ボクはいつの間にか近寄って来ていたゴライアスの拳を後ろに跳んで躱す。
 そして、奴に注意を払いながらも、深呼吸を始めた。

「すぅ……はぁ……」
「そんなこと。無駄。お前、弱い。また、死ぬだけ。それで、連れて行く」
「……そんなことないよ。ボクは……もう……前のボクとは違う」
「……」

 ボクは意識を奴にしっかりと向け、奴の動き全てに集中する。
 すると、驚くべきことに気付く。

「……」

 奴の話し方や、攻撃からかなり頭が弱いのかと思っていたけれど、奴はしっかりとボクを見て警戒している。
 しかも、少しずつ小刻みに動いていて、都合のいい様な立ち位置に移動していた。

 もしかしたら、あの鉄仮面も視線を隠すためのものかもしれない。

 そう考えると、あの見た目もある意味理由があるのかも。
 少し落ちついただけで、奴が魔王四天王であることを察する事が出来た。

「でも……もう……じっくりと戦う。時間がかかってもいい。一撃じゃなくてもいい。ボクは……奴に勝つために最善を取る」
「来ないなら。こっちから行くぞ」
「!」

 奴はいきなり流暢りゅうちょうに話しだし、突っ込んできた。

 でも、ボクは奴を警戒する。
 ボクはそうやってダンジョンの奥に潜ってきた。
 生き残れたのもそうやって来たからだ。

「……」

 奴は振りかぶり、拳を叩きつけてくる。

 ボクはそれを少し余裕を持ってかわす。
 ギリギリの回避はしない。
 敵の限界を知らないから。
 何かあっても多少の余裕を持って回避出来るように。

 その次の瞬間、驚くべきことが起きた。

「ぐふ!!!???」

 ボクは完璧にかわしたと思っていた奴の拳に、殴り飛ばされていた。
 そのまま近くの建物に勢いよくぶつかり、動きを止める

 何が起きたのか分からない。

 でも、このままでは!

 ボクが痛みを抑えて何とかその場から飛びのく。
 次の瞬間にはボクの居た場所が爆散した。

「!?」

 何とか避けて、ゴライアスを見ると、なんと彼の腕が4本もあったのだ。

「なんだって!?」
「無力化出来なかったか。仕方ない。一度殺してこの街が終わった後にやってやる」

 奴はそう言いながら突っ込んで来る。

 奴が服を着ていなかった理由というのは、きっとあの腕のせいだろう。
 スキルだとは思うけれど、奴の肉体にはまだ何か秘密があるのかもしれない。

 油断できない。
 常に全力を出してくるダンジョンの敵とは違う。
 力を隠し、殺し切れる所で力を使ってくる。
 これが……殺し合い。

 でも、だからこそ、ボクにも出来る事がある!

「今度はこっちの番だ」

 ボクは奴にこちらから詰め寄り、奴に致命傷を与えないような軽い攻撃を繰り出す。
 どれが本命かは悟らせない。
 これがボクの戦い方だ。

「く……ちまちました戦い方を……。そんなのではおれを殺すことは出来んぞ?」
「出来るよ」
「っち……」

 奴はその巨体ゆえ、大ぶりな一撃は得意だが、小回りの効いた攻撃には対処のしようがない。
 だから、奴は更に動くはず。

「のんびり出来んか」

 奴は想像通り、周囲まとめて攻撃をして来る。
 攻撃の余波で周囲全てにダメージを与えられるような、大振りな攻撃を仕掛けてきた。

「待っていたよ。その瞬間」
「何!?」

 ボクは最高速で奴に近付き、奴の首に聖剣を突き込む。
 しかし、ボクの攻撃は奴の筋肉にとめられる。

「残念だったな」
「そうでもないよ。『雷の槍ライトニングランス』!」
「ぐああああ!!??」

 奴が大振りを振り切る前に、魔法で止めを刺す。
 力を隠し、必要な時に使う。

「見事……」

 奴はそのまま崩れ落ち、二度と動くことはなかった。

「やったよ……仇は取ったよ。皆……」

 ボクは……込み上げてくるものを抑え、他の人を助ける為に向かった。
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