122 / 137
5章
121話 準々決勝
しおりを挟む翌日。
俺はまたしても武闘大会の舞台の上に立っていた。
目の前にはレイピアを持った剣士。
彼は全身真っ白な服を着ていて、俺をかなり警戒している。
そして、昨日と同じように実況が叫ぶ。
『さてそれでは武闘大会準々決勝! 今回の対戦カードはこちら! 今までの移動距離は0! 全てその場で一切動くことなく敵を倒してきた不動の最強! シュタル! 彼を一歩でも動かせる者はいるのか!』
俺の紹介をしているらしい。
そうか。
確かに昨日もずっと同じところから動くことはなかった。
今回こそは動かして欲しいものだが。
実況は相手の説明も始める。
『そしてそんな最強に挑むのは魔族の星! あらゆる困難を乗り越え、そしていつも笑顔で帰ってくる! 素晴らしいのは人望だけではない! その全てを持って人々の星となる男! レイナード! それでは早速行きましょう! レディ……ファイト!』
実況が開始の合図をすると同時に、レイナードが突っ込んで来る。
そして、一瞬で距離の半分を詰め、レイピアを抜き放ち突き込んできた。
「そこそこか」
俺は呟きながら体をくねらせてかわす。
「! これなら!」
「甘いな」
奴はレイピアをしならせ、ほとんど動かすことなく攻撃してくる。
細くて曲がるレイピアだからこそ出来る芸当だろう。
だが、それ故の欠点もある。
ガン、パキン
俺は拳でレイピアをさらに横から殴りつける。
すると、レイピアは簡単に真っ二つに折れた。
「くっ!」
奴は後ろ飛びで俺から距離を開けて、新たなレイピアを取り出した。
そして、俺を警戒しながら話しかけてくる。
「君……本当に何者? 信じられないくらいに強くない?」
「実況が最強だと説明しただろう? それ以外に何がある」
「いや、最強って何者かを現すのとは違くない?」
「違わないぞ」
「どういうこと?」
「最強とは俺のことを表す言葉だ。だから違いはない」
「すご……その自信はどこから来るの?」
「……貴様に言う必要はない。それよりも来ないのか?」
「いやぁ……どこに打ち込んだらいいのか……ね。ちょっと……考える時間くらい頂戴よ」
「……別に構わん。俺が勝つことに変わりはない」
俺はのんびりと奴が打ち込んで来るのを待つ。
ただ、油断している訳ではない。
それからしばらくして、レイナードは動く。
「ふっ!」
「ほう」
さっきよりも早い。
1.3倍といったところだろうか?
及第点を上げてもいい。
踏み込みも十分、普通の相手だったら反応したころには串刺しだろう。
「俺にはまだ届かんがな」
俺は顔に向かってくるそのレイピアの一撃をつかんだ。
「は……!?」
しかし、奴はその程度ではへこたれない。
瞬時にレイピアを手放し、飛びのく。
「ちょっと……ほんと……どうしていいんだろう……これ」
「もう終わりか? 終わりなら……こっちから行くぞ」
「っ!」
ヒュン
俺は拳圧を飛ばして奴の腹に叩き込む。
そして、そのまま場外に飛んでいった。
『決着ぅぅぅぅぅ!!! 魔族の新星も最強の前では無力だったぁ! しかも無傷! 実力者はここにも隠れていたぁあああああ!!!』
「きゃー! 結婚してー!」
「私たちの村にきてくれー!」
「魔王様の為に頑張ってくれー!」
観客たちの声が俺の耳に届く。
なるほど、魔王もそれなりに支持は得ているのかもしれない。
そんなことを思いながら控室に戻る。
「お帰りなさい! シュタルさん!」
「お帰りシュタル!」
「ああ、ただいま」
俺は2人に挨拶をして、控室の中に入っていく。
「ねぇ、シュタル。あの……さっきの人の一撃、見えてたの?」
「当然だろう?」
「本当? ボクは全く見えなかったよ……。あんな突きがあるんだ……って勉強になったくらいだもん」
「そうだな。そういう意味ではお手本としてもいい様な実力ではあったのかもしれないな」
「でも、ボクだって負けてやるつもりはないもんね」
「その心意気だ」
俺がアストリアにそう言うと、リュミエールも話しかけてくる。
「シュタルさん。回復はいりますか?」
「ありがとうリュミエール。必要ないぞ」
「分かりました」
俺達はそんな事を話しながら次の試合が始まるのを待つ。
すると、10分もしない内に係員が案内に来た。
「シュタル様。準備をお願いいたします」
「ああ、分かった」
俺は返事をして舞台に向かう。
すると、相手は魔族の魔法使いだった。
ただ、服装は魔法使いの物ではなく、狩人等に近いと思う。
そして、彼女は……俺のことを憎しみの瞳で見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
俺が追放した役立たずスキルの無能女どもが一流冒険者になって次々と出戻りを希望してくるんだが……
立沢るうど
ファンタジー
誰もが憧れる勇者を目指す天才冒険者『バクス』は、冒険者パーティーのメンバーである無能少女三人に愛想を尽かせ、ある日、パーティーリーダーとして追放を決意する。
一方、なぜ自分が追放されるのかを全く自覚していない彼女達は、大好きなバクスと離れたくないと訴えるも、彼にあっさりと追放されてしまう。
そんな中、バクスのパーティーへの加入を希望する三人が、入れ替わりで彼の前に現れ、その実力を見るために四人でモンスター討伐の洞窟に向かう。
その結果、バクスは三人の実力を認め、パーティーへの加入で合意。
しかし、それも長くは続かなかった。モンスター討伐を続ける日々の中、新加入三人の内の一人の少女『ディーズ』が、バクスとの冒険に不安を訴えたその翌日、なぜか三人共々、バクスの前から忽然と姿を消してしまう。
いつの間にかディーズに好意を寄せていたことに気が付いたバクス。逆に自分が追放された気分になってしまい、失意に暮れる彼の元に、追放したはずの『コミュ』が出戻り希望で再アタック(物理)。
彼女の成長を確認するため、自分の気持ちを切り替えるためにも、バクスが彼女と一緒にモンスター討伐に向かうと、彼女は短期間でとんでもない一流冒険者に成長していた……。
それを皮切りに他の二人と、かつての『仲間』も次々と出戻ってきて……。
天才冒険者の苦悩と憂鬱、そして彼を取り巻く魅力的な女の子達との笑顔の日常を描くハートフル冒険者コメディ。是非、ご一読ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる