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5章

133話 人間と魔族の融和

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「やはり子供だったか……」
「当然だろう! 勇者がまだ子供なんだぞ? あたしも子供で悪いか!」
「いや、悪くない。それよりも戻るぞ」
「え? ちょ、ちょっと!?」

 俺は彼女を抱えて元の場所に向かって走る。
 その途中に、彼女は俺に聞いてきた。

「それで……シュタルよ」
「なんだ? ヴァニラ。喋りが変だぞ」
「うるさい! 今はこれで通してるんだ! 気にするな! と……お前の目的は本当は何なんだ。あたしは確かに屈服したが……。もし魔族を滅ぼすと言うのなら、刺し違えてでも……」
「俺の目的は人間と魔族の融和ゆうわだ」
「へ……」
「それが俺の願いであり、彼女の願いであり……。最強になっても、成し得ないかもしれないことだ」
「なるほど……ね。それであたしの意見とか色々と聞く前に戦ったんだ」
「そういう考えも出来るな」

 ヴァニラにすまきのように抱えられている。
 そのまま腕を組んでうんうんとうなったかと思うと、怒りだした。

「それを先に言ってくれれば協力出来たのに! 戦わなくてもすんだのに!」
「そうなのか?」
「そうなんだよ! むしろ、あたしはそう思っていたからゼラ以外の四天王は勝手にあたしの言うことを聞いていなかったんだよ!」
「まぁ、知っていたがな」
「はぁ!? ならなんで戦ったの!?」
「上下関係をハッキリと教えるためと、戦ってみたかったんだ」
「……そんな理由だったの?」
「ああ、俺は最強だからな。強いやつとはいくらでも戦う」
「そ、そう……面倒だから……いいや。それよりもあたし達の目的について話しましょう」
「いいぞ」

 彼女は諦めたのか話を切り替えた。

「まず、あたしたち魔族は……なんとか出来ると思う。これでも魔王にはなったから。その途中で言うことを聞かない連中はボコっておいた。でも、人間は……大きいんでしょ? 四天王のやつらが攻めた国とか……正直なんで隣国なの? っていうレベルで絶望してるんだけど」
「そこを何とか出来れば問題ないのか?」
「? そうでしょ? 確かそこが今一番強いって斥候せっこうとかの話ではなっているはず……。まぁ、こっちに出す被害も相当だからっていうのがあるのかもしれないけど……」
「その国なら問題ない」
「何が?」
「国王に会って言うことを聞かせることも可能だ」
「嘘でしょ?」
「本当だ。常識を教えてやったら言うことを聞くようになったぞ」
「あなたの口から常識なんて言葉が出てくるとは思わなかったけど……」
「まぁ、細かいことはいい。そろそろ着くぞ」
「あ、ちょっと待って! あたしの魔王の姿はあっちなの!」
「そうか。ではさっさとしろ」

 彼女が大人の姿になるのを待ち、俺達は先ほどの場所に戻る。

 戻ってすぐに、ヴァニラが実況からマイクを奪い、高らかに宣言をした。

『親愛なる魔族の者達よ! あたし、現魔王ヴァニラの名において宣言する。今後人間との戦闘は禁止! そして、これより人間達との融和を進める!』
「………………」
「………………」

 大会にいる者達は何が起きているのか理解していない。
 というか、いきなりどこかに飛んでいった魔王が、またいきなり帰ってきて人間と融和等と言いだしたら理解が追いつかないだろう。

『さて、文句のあるものもいるだろう。だが、それは意味を為さない。もしもそれに反対するのであれば、そこにいる男。シュタルを倒してみよ。因みに、あたしは敗北し、彼の軍門に下ることになった』
「!?」

 みなの視線が一気に俺に集まる。

 俺は皆に見せつけるようにして指輪を外した。

「人間だ! 人間がいるぞ!」
「殺せ! 息子のかたきだ!」

 俺が人間になった瞬間に、彼らは殺気立つ。

 でも、俺が最強だと示し、そして、この状況であれば、きっと……俺の言葉は通じるだろう。

「お前……息子の仇……そう言ったな?」

 俺は先ほどの叫んだ男を指さし、近付いていく。

「そ、そうだ! 息子はお前達人間に殺されたんだ!」

 彼は少し怯んだものの、そう言い返してくる。

 俺はアストリアの元に向かい、指輪を取らせる。

「アストリア。お前が言ってくれるか?」
「うん……。ボクはね。大切な仲間を……殺されたよ。君たち魔族に」
「!?」
「本当は……お前達を殺した方がいいんじゃないのか。そう思った時もある。でも、そんなことを繰り返しても……一生……殺し合いを続けるだけになってしまう。そして、そういう時に死ぬのは弱い人。ボクは……そんな弱者を救いたい。それが……本来の勇者だと思うから」
「勇者だと!?」
「殺せ! そうしたら当分は安泰あんたいだ!」
「それは俺がさせんよ」
「!?」
「いいか? お前達。これまで……何度殺し殺されを繰り返してきた? そして……また同じことを繰り返して行くつもりか?」
「……」
「これはどこかで終わらせなければならない。それが出来なければ、お前達の子や孫も……いつかはその犠牲ぎせいになる」
「……」
「だが! お前達人間がその気が無ければ意味がないじゃないか!」

 その中の1人がそう叫ぶ。
 この言葉は……必ず応えなければならない。

「安心しろ。俺が人間達を説得する。国王には伝手がある」
「どうやって融和する気だ!」
「まずは……お互いの事を知るのがいいと思う」
「知る……?」
「最初は選別されたメンバーをお互いに交換し、お互いを知っていく。最初は上手くいかないだろう。だが、それでも……やらないよりは……マシだ」

 これが……俺が考えることだった。
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