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6章
137話 迎えと治療
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***ロベルト視点***
「ヴィ……ヴィクトリア様……」
扉を開けて入って来たのは、バルトラン家が所属する派閥のトップ、ゴルーニ家のヴィクトリア様だった。
彼女はいつもの様に包帯を巻いていて、隠していない右目は不自然なまでににこやかだ。
彼女は優しく口を開く。
「ロベルト。あなた。いつまでここにいるつもりですか?」
「そ、それは……」
「国王陛下の用意した女達と婚姻関係でも結ぶおつもりだったのでしょうか?」
「い、いや……そんな……ことは……」
怖い。
彼女の笑顔が怖い。
まるで猛獣にでもにらまれているかのような気持ちになる。
「なぜ後ずさるのですか?」
「そ、そんなことは……」
俺は気付かず下がっていたらしい。
彼女は笑顔のまま一歩近付いてきた。
ゾワッ
背筋をなにかが通り抜けた。
次の瞬間、彼女の目から光が消える。
「ロベルト、いい加減にしないと許しませんよ?」
「ま、待ってくれ! 殺さないで!」
「……殺しませんよ。私をなんだと思っているのですか」
「……」
今なにか口を開いたら取り返しがつかないことになる。
そんな直感が働いて口を閉ざす。
ヴィクトリア様は普通の瞳に戻り、ため息を吐く。
「……はぁ、まぁ……あなたに国王陛下を差し出した父も悪いところはあります。それに……彼のことについてはバレていませんね?」
「おそらく……大丈夫かと思います」
「ではよしとしましょう。舞踏会での経験もそれなりに積めたでしょうからね。それでは帰りますよ」
「陛下にはあいさつをしても?」
「……当然です。それをせずに勝手に帰るのは首を飛ばされても文句は言えません。行きますよ」
「はい……」
俺はヴィクトリア様に連れられて国王陛下の部屋に向かう。
途中、彼女から色々と教え込まれるが、命がかかっている気がして本気で取り組んだ。
そして俺達は国王と対面した。
「それで、ロベルト、なぜゴルーニの娘がおる」
「私もそろそろ王都に帰りたいと思っておりまして……それで、ご挨拶を……と」
「何を言う。まだまだ舞踏会には参加してもらわねば」
「ですがドルトムント伯爵様もお忙しい様子。私がいたのではそちらのやるべきこともできなくなりましょう。なので、そろそろ戻らせて頂きたいのです」
こういった流れをヴィクトリア様に教え込まれた。
ちゃんと受け答えを考えてくれているあたり流石ヴィクトリア様だ。
「そうか……では余も帰るとしよう。来る時と同じ船で帰るとするか。その方が安全であろう?」
「いえ……嬉しいお言葉ではあるのですが、私は少々勉強が足りておりません。なので、ゴルーニ家でしっかりと教育をしていただこうかと……。帰りの船でもやっていきませんと」
「教育? 別におかしいところなどほとんどなかっただろう?」
「陛下のお力で我がバルトラン家は爵位は上がりました。そのため、私は春には学院に通わねばなりません。ですが、最近はこちらでの……舞踏会での勉強をやり過ぎました。子爵家としての相応しい礼儀をまだ身に着けてはいないのです。陛下に賜ったこの爵位に恥じぬように、わが身を磨きたいと考えています。ですので、お許しいただけないでしょうか」
「むぅ……しかし、余の船でも礼儀を知っている者はいる」
「ですが、ゴルーニ侯爵様は私の教師をここにまで連れて来て下さったのです。その方から指導して頂いた方がよいかな……と」
「なるほど……のう。よい。ではそうするが良い」
「お許し頂きありがとうございます」
「気にする必要はない。これ以上言っても無駄だろうしな」
「……」
陛下はヴィクトリア様様を見るが、彼女は平然とした表情でそれを受け流している。
さっきまで話した事も話の流れも全てヴィクトリア様が考えて下さったこと。
ここまで読んでいるのというのは流石2つ名持ちだ。
俺は後は出て行くだけだと気を緩める。
「では、失礼します」
「ああ。ただ、余が呼んだ時には是非とも舞踏会に来てくれ」
「え? はぁ。かしこまりっ!?」
俺は思い切りヴィクトリア様に足を踏まれ、言葉が止まる。
忘れていた。
そのような事はできるだけぼかしておけと言われていたんだった。
「善処いたします」
「……ではな」
「はい。ありがとうございます」
こうして、俺は何とか国王陛下から帰る許可をもらった。
部屋から出て、ヴィクトリア様に最後の確認を取る。
「あの……最後にエミリオに挨拶をしてもよろしいでしょうか?」
「……しょうがありません。あいさつだけですよ」
そういうヴィクトリア様は、少し期待した目をしていた。
******
「何を勝手に話を終わらせている。まだ……やることがあるだろう?」
そう話す師匠の瞳には強い力が宿っていた。
「師匠? やること……ですか?」
僕は不思議に思って聞くけれど、師匠が怒ったように話してくる。
「お前がそれでどうする。今回、お前はどんな魔法を覚えた?」
「え? 『水の解析』ですか?」
「それでどんなことができた」
「どんなこと……体の記憶を読み取る事ができましたけど……」
「なら、それを使えば、お前の体に擬態している。病の原因を特定できるのではないか?」
「……! そういえば!」
今まで人にしか使って来なかったけれど、確かに、師匠の言う通りそれができるかもしれない。
「早速やってみます!」
「あ、待て!」
僕は集中し、魔法を使えるようにする為に意識を深めていく。
そして、魔法を発動させるための詠唱を開始した。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ『水の解析』」
対象範囲は僕自身。
そして、僕の体をくまなく……これでもかと言うほどに調べる必要もなく、それはあった。
「これは……」
僕の体には、プルモーに似た……タコのようなものがいた。
それも、かなりの数だ。
こいつらが……こいつらが僕を……。
僕はこいつらを滅ぼす。
その為に、まずは意識を戻して……。
「エミリオ!」
「!? 師匠!?」
僕はこれからすることを考えようとすると、師匠に大声で呼ばれて驚いた。
「ど、どうしたんですか? やっと……敵が分かったのに」
「エミリオ。お前、今どんな状況か忘れたのか?」
「状況……?」
僕は師匠にそう言われて、周囲を見回す。
ベッドに寝ていて、サシャが心配そうな表情で僕の事を見つめていた。
「あ……」
「エミリオ様。3日も眠っておられたのです。今は……無理をしないで下さいませんか?」
サシャをよく見ると、目の下にクマができている。
「サシャ……」
「エミリオ様。今すぐに倒したい気持ちは私も分かっているつもりです。ずっと……部屋のベッドの上で……いつもロベルト様とエカチェリーナ様を見つめていらしゃったこと……見ていました。でも、だからと言って今無理はなさらないで欲しいのです。お願いいたします。どうか……聞き入れて頂けませんか」
「サシャ……」
僕はサシャの気持ちを察して、彼女に謝る。
「ごめんね、サシャ。自分を治療するのは止める。師匠が許可を出してくれるまで、休む。約束するよ」
「ありがとうございます。エミリオ様」
サシャはそう言って微笑んでくれる。
「ううん。サシャのお陰でちゃんと思い出すことができたよ。ずっと……14年も付き合ってきたんだから、数日じゃ変わらないよね」
「はい……私がずっとお側にいますから。無理をなさらないで下さい」
「うん。ありがとう。サシャ」
僕はサシャに微笑み返す。
すると、師匠が話しかけてきた。
「おい。いい話風にまとめるな」
「え?」
「確かにエミリオはできないかもしれない」
「はい」
「だが……おれたちはできるぞ。そして……お前の為に力になる者ができたんじゃないのか?」
師匠がそう言うと、彼の隣にクレアさんが立った。
「ヴィ……ヴィクトリア様……」
扉を開けて入って来たのは、バルトラン家が所属する派閥のトップ、ゴルーニ家のヴィクトリア様だった。
彼女はいつもの様に包帯を巻いていて、隠していない右目は不自然なまでににこやかだ。
彼女は優しく口を開く。
「ロベルト。あなた。いつまでここにいるつもりですか?」
「そ、それは……」
「国王陛下の用意した女達と婚姻関係でも結ぶおつもりだったのでしょうか?」
「い、いや……そんな……ことは……」
怖い。
彼女の笑顔が怖い。
まるで猛獣にでもにらまれているかのような気持ちになる。
「なぜ後ずさるのですか?」
「そ、そんなことは……」
俺は気付かず下がっていたらしい。
彼女は笑顔のまま一歩近付いてきた。
ゾワッ
背筋をなにかが通り抜けた。
次の瞬間、彼女の目から光が消える。
「ロベルト、いい加減にしないと許しませんよ?」
「ま、待ってくれ! 殺さないで!」
「……殺しませんよ。私をなんだと思っているのですか」
「……」
今なにか口を開いたら取り返しがつかないことになる。
そんな直感が働いて口を閉ざす。
ヴィクトリア様は普通の瞳に戻り、ため息を吐く。
「……はぁ、まぁ……あなたに国王陛下を差し出した父も悪いところはあります。それに……彼のことについてはバレていませんね?」
「おそらく……大丈夫かと思います」
「ではよしとしましょう。舞踏会での経験もそれなりに積めたでしょうからね。それでは帰りますよ」
「陛下にはあいさつをしても?」
「……当然です。それをせずに勝手に帰るのは首を飛ばされても文句は言えません。行きますよ」
「はい……」
俺はヴィクトリア様に連れられて国王陛下の部屋に向かう。
途中、彼女から色々と教え込まれるが、命がかかっている気がして本気で取り組んだ。
そして俺達は国王と対面した。
「それで、ロベルト、なぜゴルーニの娘がおる」
「私もそろそろ王都に帰りたいと思っておりまして……それで、ご挨拶を……と」
「何を言う。まだまだ舞踏会には参加してもらわねば」
「ですがドルトムント伯爵様もお忙しい様子。私がいたのではそちらのやるべきこともできなくなりましょう。なので、そろそろ戻らせて頂きたいのです」
こういった流れをヴィクトリア様に教え込まれた。
ちゃんと受け答えを考えてくれているあたり流石ヴィクトリア様だ。
「そうか……では余も帰るとしよう。来る時と同じ船で帰るとするか。その方が安全であろう?」
「いえ……嬉しいお言葉ではあるのですが、私は少々勉強が足りておりません。なので、ゴルーニ家でしっかりと教育をしていただこうかと……。帰りの船でもやっていきませんと」
「教育? 別におかしいところなどほとんどなかっただろう?」
「陛下のお力で我がバルトラン家は爵位は上がりました。そのため、私は春には学院に通わねばなりません。ですが、最近はこちらでの……舞踏会での勉強をやり過ぎました。子爵家としての相応しい礼儀をまだ身に着けてはいないのです。陛下に賜ったこの爵位に恥じぬように、わが身を磨きたいと考えています。ですので、お許しいただけないでしょうか」
「むぅ……しかし、余の船でも礼儀を知っている者はいる」
「ですが、ゴルーニ侯爵様は私の教師をここにまで連れて来て下さったのです。その方から指導して頂いた方がよいかな……と」
「なるほど……のう。よい。ではそうするが良い」
「お許し頂きありがとうございます」
「気にする必要はない。これ以上言っても無駄だろうしな」
「……」
陛下はヴィクトリア様様を見るが、彼女は平然とした表情でそれを受け流している。
さっきまで話した事も話の流れも全てヴィクトリア様が考えて下さったこと。
ここまで読んでいるのというのは流石2つ名持ちだ。
俺は後は出て行くだけだと気を緩める。
「では、失礼します」
「ああ。ただ、余が呼んだ時には是非とも舞踏会に来てくれ」
「え? はぁ。かしこまりっ!?」
俺は思い切りヴィクトリア様に足を踏まれ、言葉が止まる。
忘れていた。
そのような事はできるだけぼかしておけと言われていたんだった。
「善処いたします」
「……ではな」
「はい。ありがとうございます」
こうして、俺は何とか国王陛下から帰る許可をもらった。
部屋から出て、ヴィクトリア様に最後の確認を取る。
「あの……最後にエミリオに挨拶をしてもよろしいでしょうか?」
「……しょうがありません。あいさつだけですよ」
そういうヴィクトリア様は、少し期待した目をしていた。
******
「何を勝手に話を終わらせている。まだ……やることがあるだろう?」
そう話す師匠の瞳には強い力が宿っていた。
「師匠? やること……ですか?」
僕は不思議に思って聞くけれど、師匠が怒ったように話してくる。
「お前がそれでどうする。今回、お前はどんな魔法を覚えた?」
「え? 『水の解析』ですか?」
「それでどんなことができた」
「どんなこと……体の記憶を読み取る事ができましたけど……」
「なら、それを使えば、お前の体に擬態している。病の原因を特定できるのではないか?」
「……! そういえば!」
今まで人にしか使って来なかったけれど、確かに、師匠の言う通りそれができるかもしれない。
「早速やってみます!」
「あ、待て!」
僕は集中し、魔法を使えるようにする為に意識を深めていく。
そして、魔法を発動させるための詠唱を開始した。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ『水の解析』」
対象範囲は僕自身。
そして、僕の体をくまなく……これでもかと言うほどに調べる必要もなく、それはあった。
「これは……」
僕の体には、プルモーに似た……タコのようなものがいた。
それも、かなりの数だ。
こいつらが……こいつらが僕を……。
僕はこいつらを滅ぼす。
その為に、まずは意識を戻して……。
「エミリオ!」
「!? 師匠!?」
僕はこれからすることを考えようとすると、師匠に大声で呼ばれて驚いた。
「ど、どうしたんですか? やっと……敵が分かったのに」
「エミリオ。お前、今どんな状況か忘れたのか?」
「状況……?」
僕は師匠にそう言われて、周囲を見回す。
ベッドに寝ていて、サシャが心配そうな表情で僕の事を見つめていた。
「あ……」
「エミリオ様。3日も眠っておられたのです。今は……無理をしないで下さいませんか?」
サシャをよく見ると、目の下にクマができている。
「サシャ……」
「エミリオ様。今すぐに倒したい気持ちは私も分かっているつもりです。ずっと……部屋のベッドの上で……いつもロベルト様とエカチェリーナ様を見つめていらしゃったこと……見ていました。でも、だからと言って今無理はなさらないで欲しいのです。お願いいたします。どうか……聞き入れて頂けませんか」
「サシャ……」
僕はサシャの気持ちを察して、彼女に謝る。
「ごめんね、サシャ。自分を治療するのは止める。師匠が許可を出してくれるまで、休む。約束するよ」
「ありがとうございます。エミリオ様」
サシャはそう言って微笑んでくれる。
「ううん。サシャのお陰でちゃんと思い出すことができたよ。ずっと……14年も付き合ってきたんだから、数日じゃ変わらないよね」
「はい……私がずっとお側にいますから。無理をなさらないで下さい」
「うん。ありがとう。サシャ」
僕はサシャに微笑み返す。
すると、師匠が話しかけてきた。
「おい。いい話風にまとめるな」
「え?」
「確かにエミリオはできないかもしれない」
「はい」
「だが……おれたちはできるぞ。そして……お前の為に力になる者ができたんじゃないのか?」
師匠がそう言うと、彼の隣にクレアさんが立った。
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