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2巻
2-1
しおりを挟む第一章
僕の名前はエミリオ。エミリオ・バルトラン。男爵家の次男として生まれ、十四年になる。僕は生まれてから、自分の部屋から出たことがなかった。一流の回復術師でも治療できない病に体を侵され、寝たきりの生活を余儀なくされていたためだ。
庭で楽しそうに遊ぶ三つ上の兄、ロベルトと七つ下の妹、エカチェリーナ――リーナを、自室の窓から眺めるだけの毎日。二人のことを羨ましく思い、なんで僕は生きているのだろうと自問しながら生き続けていた。そんな生活を続けていたある日、母さんが読んでくれた物語に、僕は衝撃を受けた。
それは、怪我を負った英雄が、自身の体に回復魔法を使い、怪我を癒すというものだった。
回復魔法を使えれば、僕の病気も治せるかもしれない。僕はすぐ母さんに、回復魔法を教えてほしいと頼んだ。
それから一ヶ月ほどして、マスラン先生という回復術師が、僕を指導してくれることになった。
最初は普通の魔法から習得していった。そして、先生の指導と、僕自身の才能のおかげで、僕は普通の人よりも桁違いに強い魔法が使えるようになっていったのだ。
そうした魔法の力で、僕は少しは歩き回れるようになった。また、その力を使って屋敷に攻めてきたミノタウロスと呼ばれる強力な魔物を討伐した。
そんな中、大貴族のゴルーニ侯爵家の長女、ヴィクトリア・ゴルーニ――ヴィーが顔に大火傷を負った状態で、バルトラン男爵領に療養に来た。なぜヴィーがここに来たのか分からなかったけれど、それは警備が手薄なうちの屋敷に、彼女を殺そうとした者をおびき寄せるためだった。
そしてヴィーの思惑通り暗殺者はやってきたのだけれど、彼女の護衛と僕が魔法を使うことで彼女を救った。
その後、僕は、国一番の回復術師でも治療できないと言われていた彼女の火傷を治し、復讐に燃えていた彼女の顔を再び笑顔にすることができた。
僕が回復魔法を使えば、多くの人を助けることができる。そう思っていた。でも、僕の回復魔法の力は、あまりにも強大すぎたのかもしれない――
******
「う……ううん」
僕は三階の自分の部屋の窓の隙間から入ってくる日差しに起こされる。ゆっくりと目を開くと、そこには見慣れた天井があった。
「いつもの……天井。僕の……部屋」
いつもの空間をしっかりと感じて、嬉しく思う。数日前にあったヴィーを狙った屋敷の襲撃事件を思うと、この何も変わらない日常がとても懐かしい。
「と……起きないと」
今日はマスラン先生の魔法の授業はない。でも、ずっと寝続けるよりも、起きて行動していたい。
例えば、屋敷から少し出ても良いかもしれない。屋敷の中を歩き回れるんだから、それくらいしても……でも外は魔物が出るって言うし……
コンコン。
「はい⁉」
外に出るか悩んでいたところに部屋のドアがノックされて、僕は驚いてしまった。
「エミリオ。少し良いか?」
ドアをノックしてきたのはロベルト兄さんだったらしい。ドアの向こうからそう訊いてきた。
「ロベルト兄さん……良いよ。どうしたの?」
こんな朝早くに兄さんが僕の部屋を訪ねてくるなんて珍しい。最近の兄さんは、父さんと話をしたり、仕事を手伝ったりと、忙しそうにしていた。
というのも、これから父さんとヴィーは、襲撃事件の詳しい報告をしに、兄さんは貴族としての教養を身に付けるために、『中央』と呼ばれるこの国の政治や文化の中心都市に行くからだ。マスラン先生も、中央に用事があるらしく、父さんと一緒に出発してしまうらしい。
だから、兄さんがこうやって来てくれたことはすごく嬉しい。
僕の部屋に入った兄さんは、少し申し訳なさそうに口を開く。
「なぁエミリオ。今って……体調はどうなんだ?」
「体調? そうだね、結構良いかも。今なら屋敷の外に出られるかもしれないよ」
と軽く冗談めかして言ってみた。
今日はまだ『体力増強』――使った相手や自身の体力を増進させる魔法――を使っていない。使ったとしたら、本当に屋敷の外に出られるんじゃないか。
「なら……俺と一緒に外に行かないか?」
そんな僕の冗談を聞いて、兄さんは真剣な表情で言った。まさか兄さんがそんなことを言ってくるとは思わなかった。
「外といっても、部屋の外じゃない、屋敷の外だ」
「屋敷の……外……」
それは僕にとって未知の領域だ。僕の部屋から外を見ても、庭の向こうには一面に森が広がっているのみで、その中がどんなふうになっているのか全く分からない。
「マスラン先生の許可も取ってある。だから……行かないか?」
「……うん。兄さんが一緒なら心強いよ」
「そうか。それじゃあ三十分後にまた来る。それまでに支度をしておいてくれ」
兄さんは嬉しそうに口元を緩め、そして部屋から出て行った。
僕は兄さんが部屋から出て行くのを見送って、外出の準備に取りかかる。
『体力増強』を使い、クローゼットに掛けてあるよそ行きの服に袖を通す。
「ぴったり……」
こんな時のために母さんが準備してくれていたのかと思うと嬉しくなる。
それから、三十分ほどして、兄さんがまた部屋に入ってきた。
「行けるか?」
「うん。大丈夫だよ兄さん」
「それじゃあ行こう」
部屋を出た僕達は庭を一緒に歩いて屋敷の外へ向かう。僕は心臓がドキドキして、鼓動が今にも聞こえてきそうなほどだった。
屋敷の門は閉まっていたけれど、兄さんが少し力を込めるとすぐに開いた。僕は門を出る前に、気になっていることを聞いてみた。
「僕と兄さんの二人だけで行くの?」
「ああ、ダメか?」
「ダメじゃないけど……魔物が出るって聞くよ? 大丈夫?」
「何を言ってるんだ。屋敷の近くに出る魔物なんてほとんどいない。それにもしいたとしても、俺が倒してやるよ」
兄さんは腰にぶら下げた剣を見せながら笑ってくれる。
僕は兄さんの笑顔を見て安心した。
「分かった。兄さんを頼らせてもらうよ」
「ああ、エミリオ。俺に任せておけ」
「うん」
そんな会話の後、僕達は屋敷の門を出た。
すると、そこには左右を森に挟まれた真っ直ぐな道があった。
この道はどこに繋がっているのだろうか。
父が治める町に繋がっているのだとは思うけれど、それは実際に確かめないと分からない。僕は、今すぐにでもこの道を歩き出したい気持ちになってくる。
「そっちじゃない。こっちだ」
「え?」
しかし、その気持ちは儚くも一瞬で散った。
兄さんが門を出て、すぐ右の方に向かって歩いて行ったからだ。
僕も兄さんに続いて、屋敷の壁沿いを歩く。
こうやって屋敷の周りの森を見ているだけでも楽しいから、これはこれで良いかもしれない。
今までは遠くから見ているだけだった。それを、こんな手が触れられそうな距離で見られるなんて……
「兄さん、こうやって外に出るだけでも楽しいね」
「……そうだな」
兄さんは少し言い澱んだ後、それだけ言うと、スタスタと歩いて行く。どうしたのだろうか?
「兄さん。もうちょっとペースを落としてくれない?」
「ああ、すまん」
兄さんはそう言って僕のペースに合わせてくれる。ただ、何かを考えているようだった。
僕は、そんな兄さんを後ろから見つめながら、周囲の景色を堪能して進む。
それからどれくらい歩いただろうか。やがて屋敷の壁がなくなり、僕達は自然の森の中を進んでいた。
森の中は楽しかった。綺麗な花が咲いていて、小動物の鳴き声も聞こえる。目の前を横切る昆虫や、時折肌を撫でる風、それら全てが僕にとっては新鮮で楽しく感じられた。
「兄さん。どこまで行くの?」
こんな楽しいことがずっと続いてくれれば良いのに。
僕はそんな想いから兄さんに尋ねた。
「まだ……目的地までは半分くらいだな」
「そっか。じゃあまだまだこの景色を楽しめるんだね」
「この景色って……ただの森だぞ?」
「そうなの? ただの森でもこんなにも楽しいんだから、きっと兄さんが連れて行ってくれる場所は、もっとすごいんだね!」
楽しさのあまり声がうわずってしまった。でも、兄さんならもっと素晴らしい場所に連れて行ってくれる、そんな確信があった。
「ああ、すごいぞ。一度見たら、二度と忘れられないくらいにはな」
「うん! 楽しみにしてる!」
「……」
それからまた僕達は黙って歩き始める。兄さんは何かを言いたそうにしているが、何があるのだろうか?
一時間ほどした頃だろうか。近くの茂みでガサゴソという音が聞こえてきた。
「エミリオ」
「ん? どうしたの?」
「静かにしていろ」
「分かった」
兄さんが声を落とせというので、僕は口を閉じて兄さんの後ろに付く。
兄さんは腰から剣を抜き、音がした方に向けて構えていた。
「ゲギャ!」
少しすると、茂みからゴブリンが現れた。
「死ね!」
「ゲギャギャ⁉」
兄さんが剣を振り、一太刀でゴブリンを斬り裂いた。
「兄さん! すごい!」
「はは、まぁこんなもんだ」
兄さんは僕の方を向いて得意げに言った。
すごい、たった一撃で魔物を倒してしまうなんて。僕は兄さんを尊敬の眼差しで見つめる。
すると、兄さんの顔が青ざめていく。
どうしたのだろうか? 僕がそう思っていると、兄さんは何かを言う前に、いきなり僕の腕を引っ張る。
咄嗟のことに対応ができず、僕は思わず前に倒れ込んでしまう。
「うわ!」
ザシュ!
僕の後ろで何かが切り裂かれたような音が聞こえた。そっと後ろを振り返ると、ゴブリンが兄さんを斬りつけているところだった。
「兄さん!」
「ゴブリン風情が!」
ズバッ!
「ゲギュギュ⁉」
兄さんは剣を振り抜き、ゴブリンの首を斬り飛ばした。
僕は慌てて兄さんに駆け寄る。
「兄さん大丈夫⁉」
「ああ、問題ない。まさか二体もいたとはな」
「兄さん……目が……」
兄さんはゴブリンに右瞼を縦に斬られていて、そこからは血が滴り落ちている。
「なに。この程度問題ない……」
「問題あるよ! すぐに治療しないと!」
「エミリオ、頼む」
「任せて!」
僕は強く言って、兄さんを地面に座らせる。傷を治す際は、『体力増強』で怪我人の体力を回復させてから、『回復魔法』で傷を塞ぐのが一般的だ。
僕は元の兄さんの顔を想像して魔法を使った。いつも僕に笑いかけてくれる兄さんの顔は、簡単に思い浮かべられる。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ。『体力増強』」
「おお、力が漲ってくる」
「まだだよ。ここからしっかりと治療するからじっとしていて。――根源より現れし汝の礎よ、かの者を呼び戻し癒せ。『回復魔法』」
僕は集中して、兄さんの傷を跡形も残らないようにして治した。
時間としては一分もかからず、兄さんの傷は綺麗に塞がった。
「ふぅ……良かった。兄さん、ゴブリンの攻撃から守ってくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうエミリオ。しかし、回復魔法ってこんなにも簡単に治せるんだな」
そう聞かれて、確かに兄さんには詳しい説明をしていなかったと思い出す。
そこで僕は、兄さんに改めて僕が使う回復魔法のことを話した。
「僕の回復魔法は相当すごいらしいんだ。だから、結構な傷があっても治せるみたい」
「……そうか。お前は……やっぱり特別だったんだな。この前、ミノタウロスに襲われた時も……」
「兄さん?」
兄さんはそれからすっと立ち、また歩き出す。
「行こう」
「え? で、でも、戻った方が……」
「大丈夫だ。もう着く」
「う、うん……」
なぜか有無を言わせない兄さんに連れられて、僕は森の中を歩いて行く。
辿り着いた先は、大きな水たまり、いや、湖だった。
「わぁ……」
僕は初めて見たその美しさに、さっきまでのことは忘れてしまう。すごい綺麗だ。どうやってこんなものができたのだろう。
色々と考えていたら、兄さんに呼ばれた。
「エミリオ、こっちだ」
「?」
兄さんは小舟の上に乗っていた。僕にも乗れと言うので、僕は素直に従った。
兄さんが漕いでくれて、湖の中央辺りに着く。
僕は言葉を失っていた。周囲の景色は言葉では言い表せないほどに素晴らしいものだったからだ。
「すごいだろ? この眺め」
「うん……」
遠くには高い山々が綺麗な山脈を連ねている。その頂上は雪で真っ白に染まっていて、下に降りてくるにつれて紅葉の赤色が濃くなっていた。
この景色は、決して忘れられそうにない。
「すごいだろ? この景色が見られるのはこの季節だけなんだ。俺はこれが大好きでな……貴族として、この景色をずっと守っていきたいと思っている」
「貴族として? うん、兄さんならできるよ」
僕は兄さんの言葉に返しながらも、じっとそれらを見つめ続ける。
心の中で思っていたのは、もっとこんな景色が見たい、ということだった。
「エミリオ。お前も、ここが好きか?」
「うん。すごく……すごく好き。もっと早くここに来たかったよ」
「……そうか。この景色を守ってくれるか?」
「? うん、僕は絶対ここを壊させたりしないよ」
「そうか……それを聞いて安心した」
「うん。兄さんなら絶対守れるよ」
「……ああ。そうかもな」
僕は景色に夢中だった。だから、兄さんが伝えたいことを、この時の僕は理解していなかったんだ。
******
兄さんと湖を見に行ってから少し時間が経った。その間、屋敷にいる皆は相変わらずとても忙しくしていた。父さん達が中央に行く日が近付いており、その準備が佳境を迎えていたからだ。
ヴィーは中央に、事件の簡潔な報告を送っているし、父と母は屋敷の修理やいつも通りに町の管理をしていた。
ロベルト兄さんは、執事長のノモスに中央の舞踏会の知識を詰め込まれていたし、僕は妹のエカチェリーナの相手でとても忙しかった。
そんな忙しい日々の中、少しでも時間を見つけて家族で一緒にいたけれど、ついに父さんと兄さん、それにヴィーが中央に行く日が来てしまった。
そんなわけで僕は今、屋敷の前で別れの挨拶をしている。門の前には、中央に行くための馬車が八台用意されていた。
僕は兄さんだけではなく、中央に付いて行く使用人ともそれぞれと軽い挨拶を交わしていた。
そんな僕の前に、ヴィーが挨拶に来てくれた。
「エミリオ……私、またすぐに帰ってこられるように頑張ります。なので、待っていてください」
「うん。僕ももっとヴィーと一緒にお話をしたいし、ずっと待っているよ」
「エミリオ……」
ヴィーは嬉しそうに目を細める。
「ヴィーも無茶はしないでね。また会いに来てね。これは約束だから、破ったらダメだからね?」
僕はヴィーに一応釘を刺しておく。
彼女はとても優しいし、頭が良い。けれど、自分を囮にして【消炭】という二つ名を持つ暗殺者のマーティン達を炙り出すなんて危険なことをしてしまったのだ。流石にそれは友人として認められない。
ヴィーは僕の言葉を分かってくれたのか、深く頷く。
「ええ、もちろんです。私も、もうあんな危険なことはしませんよ。それよりも、エミリオこそお体に気を付けてくださいね? 今は元気でも、こうして外に長時間いたら、また体調が悪くなるかもしれないんですから」
「うん。分かってる。でも、ヴィーとはしばらく会えないし、今くらいは許してほしいな」
「もう……それはずるいと思います」
「そうかな?」
「ええ、でも……嫌ではないです。と、あまり私ばかりが話をしていてはいけませんね。代わります」
「うん。元気で」
「ええ。エミリオも」
そう言ってヴィーは横にスッとずれる。
次に僕の前に来てくれたのは父さんだった。よそ行きの良い服を身にまとっていて、最近の疲れからか目の下にはクマができていた。
「いってらっしゃい。父さん」
「ああ、行ってくる」
「気を付けてね」
「もちろんだ。エミリオ。お前も自分の体を大切にしろよ? 必要があったらアンナに一緒に寝てもらえ。きっと喜んで寝てくれる。アンナは寂しがり屋で、昔も一緒に寝てほしいと何度も……」
「旦那様」
父さんの言葉を遮り、僕の隣にいた母さんが父さんの耳を引っ張る。
「な、何をするアンナ!」
「それは私のセリフです。子供の前で一体何を言うつもりだったのですか?」
「ご、誤解だ。私はただアンナの可愛さを知ってもらおうと……」
そう言いながら父さんはどこかに引きずられていった。まぁ……いつものことだから仕方ない。
「エミリオ。次は俺だな」
「ロベルト兄さん……」
兄さんはいつもより元気のない笑顔を向けてくる。
ノモスの指導がきついからか、父さんよりも濃いクマを作っていた。
「エミリオ。俺から言うことはない。まぁ……元気でいろ。それくらいだ」
兄さんの方が元気あるの?と聞きそうになるけれど、ぐっと堪えた。兄さんが頑張っているのは知っているから。
「うん。それが兄さんらしいよ」
「まぁな。俺も……中央でやらなければならないこともあるし、貴族相手の情報収集は任せろ。中央にロベルトあり、そう言わせてやる」
兄さんは、先の襲撃事件の黒幕について調べるのと同時に、僕の病を治すための手掛かりを、中央で探してくれるのだ。
「期待してるよ、兄さん。兄さんならきっとできるから!」
兄さんはすごいんだ。だから、きっと中央でもすごい活躍をしてくれるに違いない。そう思っていたら、兄さんは微笑んで、耳を疑うようなことを言い出した。
「任せておけ。ヴィクトリア様の食べたパンの数から、その日の健康状態に至るまで、逐一送ってやるからな」
「……何を言っているの、兄さん?」
僕は首を傾げる。ちょっと言っていることの意味が分からなさすぎる。隣にいるヴィーもかなり引いてた。彼女の表情から強い拒絶感が見てとれる。
「何って、エミリオ、ヴィーの様子が気になるだろう? 毎日便箋二十枚分は書くからな?」
「「やめてください」」
僕と、まだ近くにいたヴィーの言葉が被る。どう考えてもおかしい。
ヴィーの様子は気になりはするが、そんなことまで書いて送ってこられても困る。
「そうか? 枚数が多すぎるのか? 確かに、あんまりあっても読み切れないか」
「そういう意味じゃないです」
僕は即座に否定するけれど、兄さんは分かってくれているのだろうか。
ちなみに、ヴィーは身の危険を感じたのか、「やめてください」と言った後、すぐに馬車に入っていて、カチャリと鍵をかけていた。
「そうなのか?」
「はい。ロベルト兄さんは、ヴィーのことはそんなに気にしないで、自分のやらなければいけないことを考えてよ。あと、元気でいてね」
僕はちょっと寝不足で頭がおかしくなっているであろう兄さんに微笑む。少し時間をおけば、きっと元の兄さんに戻ってくれるだろう。
「……そうだな。ちょっと自分で何を言っているのか分からなくなってきた。そうするよ」
「うん。また帰ってきたらいっぱい中央の話をしてよ。僕、待ってるから」
「ああ、立派な貴族になって帰ってくる。元気でな」
「うん」
兄さんはそれだけ言うと、フラフラとしながら馬車に向かって歩いて行く。
最後に挨拶に来てくれたのはマスラン先生だ。
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