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37話 高位貴族会議
しおりを挟む「さて、それでは揃ったな」
そこには数十人にものぼる年配の男性と数人の女性が円卓について座っていた。
ここは王都にある高位貴族会議を行なわれるためだけの場所だ。
席に着いている者は皆侯爵家以上の当主のみ。
護衛も各人2人までと決められている。
空席はあるけれど、それは仕方のないこと。
全員が王都に居る訳ではないからだ。
最後席についたのはクラッツィオ公爵で、彼が席に着くと直ぐにバレンティア侯爵の話が始まる。
「今回お呼びしたのは他でもない。ヴァルダー・リ・ワルド・レングバルド第一王子が暗殺されたからだ」
そこにいる者達に動揺はない、全員がここに来るまでに話を聞かされていたからだ。
1人はバレンティア侯爵の続きを促す。
「それで?」
「それで……とは……。ヴァルター様が暗殺されたのだぞ? どうしてそう平気な顔をしていられる」
バレンティア侯爵は少し崩れた髪型を直しながら周囲をねめつける。
大事な王子が死んだのにどうしてその様にどっしりとしていられるのかと。
しかし、各々は好きに言う。
「何を言っている。今の王家にはそこまでの力はない。我らは我らの為に動くのみだ。第一、今の国王……陛下ですら容体がすぐれないのに手を打つこともない。その様な状況で王子が死んだ所で……。そこまで気にしないのではないか?」
「左様、フレイアリーズ家が残っていればまだ違ったかも知れないが……。なくなってしまったからのう」
「嗅ぎまわって厄介であったわ。王子暗殺等怖くて出来る気がせんが、それでもよくやったものよの」
他の高位貴族達は好き放題にいい。
毒を盛られて臥せっている国王に対する尊敬の念も全くない。
彼らにあるのは自分たちの利益のみ。
それが守られる限り彼らは従う。
「いい加減にしていただきたい! この国で……。もっとも権威ある者の息子が亡くなったのだぞ! それを気にする事ではない……。どう考えてもあり得ぬだろうが!」
バレンティア侯爵が吠えるけれど、近くの者達が耳を塞ぎ面倒そうに見るだけだった。
「まぁまぁ、バレンティア侯爵。そこまで声を荒げないで下さい。ワシの様な年寄りには響く」
「クラッツィオ公爵殿……」
「その様に怒りたくなる気持ちも理解致しますが、それでも、そんなことをここでやる必要はないと思うのですが?」
「だが……」
「他の方々もきっと心を痛めているのでしょう。ただ、この様な場ではそれを明らかにすることが出来ないだけ。お分かりですかな?」
「……そういうことにしておこう」
バレンティア侯爵は直ぐに引き下がる。
それは当然だ。
彼らは仮にもこの国のトップに君臨する高位貴族。
無意味に揉めるのは望むところではない。
「そんなことはよろしいでしょう。問題は次の王は誰にするかと言うことだと思いますが?」
2人の会話が終わったと感じたのか、女公爵が声を上げる。
それに返すのはバレンティア侯爵だ。
「誰……とは? 生憎、儂は候補を1人しか存じませんが」
「その候補とはあのバカの事かしら? 今までは割と大人しくしていたのに、最近になって有名になっているわよ? 王子の肩書を使って遊びまくっているバカがいると」
「ですが、あの方以外に候補はおられません」
「そうは言うけれどね。あんなバカに国を任せてみなさい。我らにまで被害が及ぶかもしれないのよ? 今の何も出来ないただの置物であることが一番我らにとってはいい。変える可能性も考えるべきではなくって?」
「そんな玉座につくものをその様に扱う訳には……」
バレンティア侯爵が苦言を言うけれど、女公爵は考えを変えるつもりはないようだった。
仲裁するかのように1人の若い侯爵がいう。
「ボクも正直やめて欲しいかな。あのバカ、ボクの所に来て小遣いを要求したんだよ? どうして? と聞いたら女に与えるためだって。笑っちゃうよね。自分で稼いだ訳でも、奪い取った訳でもない。与えられた金で貰った物を女に与えようとしているなんて、そんな愚かな者が王になって頭を下げるなんて虫唾が走るよ」
「そんなことまで……」
「ここで嘘をついても仕方ないからね。本当にボクの所に来て金の無心だったよ。一体王子様が来られるから何用かと思ったらさ。こっちの都合も考えて欲しい物だね」
「それが出来ていればこうはなっておらん。というか、なぜ今更になってそうなったのだ?」
新たな侯爵が疑問を放つ。それに返すのは女公爵だ。
「決まっているでしょう? 婚約者が愚か者に変わったからに決まっているじゃない」
「ん? 前は誰だったのだ?」
「貴方……幾らなんでも興味がなさすぎるでしょう……。まぁいいわ。元はフレイアリーズ家の娘と婚約していたはずよ。あのことがあって以来は婚約を解消して新しい方と婚約されたのよね?」
女公爵はクラッツィオ公爵に目線を送る。
しかし、答えたのは若い侯爵だった。
「ああ! あの大バカ女の! 顔とスタイルに全てを注ぎ込み過ぎて頭にはノミ位しか詰まっていないって言われているあの子か」
「親の前でそれを言うのはどうかと思うけれど……」
「だって本当の事じゃないか。ボクだって言いたいことはあるんだよ? この前に収穫祭。まさかあんなことになるなんてね? どうなっているのかな? 普通に考えて仕事をしていたは思えなかったんだけれど?」
「だとしても……よ」
「そっか、じゃあこれ以上言うのはよしておこうかな」
そう言って若い侯爵は口を噤む。
今更ではあるかもしれないけれど。
本来の高位貴族で会議であっても彼のようなものいいはするべきではない。
けれど、彼はそれに反論をして来る相手を叩き潰すだけの力があった。
若くして当主になり、この国一番の金額を稼ぎだせるほど、彼の才能は類まれな物だったからだ。
そんな彼に向かって提案をする者がいた。
クラッツィオ公爵だ。
「親として申し訳ない。ですが安心して頂きたい。2人のことについてはワシも危惧しておるのだ。これからのことを考えてしっかりと教育させて頂く」
「今まで出来なかったのに今から出来るなんて言える自信がよくあるね! ボクも見習いたいよ」
「……」
クラッツィオ公爵は見かけは彼に対して何も言わなかったけれど、いつか潰す。
いや、ロンメルが国王になり、自分が実権を握ってからは絶対に潰す。
心の中で誓っていた。
そんな会議をする者達の前に、珍客が現れる。
「これはこれは、御大層なメンツだな」
「ええ、貴方の戴冠を祝う為に集まっているのでは無くって?」
「な……! お前達! どうしてここに!?」
いつもの好々爺然とした表情は消え失せ、クラッツィオ公爵の顔は引き攣っていた。
彼の目線の先にいたのは、ロンメル・ラ・ワルド・レングバルド第2王子とレティシア・クラッツィオ公爵家令嬢だった。
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