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第3章 聖女は依頼をこなす
192話 染みる
残りの時間、私は必死に料理を続けた。これの量はこれくらいか。それとも増やした方がいいか?
考えながらのぶっつけ本番だけどやるしかない。
「手伝うことはあるか?」
「キリルさん、ありがとうございます。何かあったらお願いします」
「分かった」
それから時間ギリギリまで色々調整して、何とか完成した。
「出来た!」
「そこまで! クロエ。皆に料理を配って頂戴?」
ギルドマスターは凛々しく言うが、口の横にパンがついているのであまり威厳はない。
私は食器を取り出して、スープをよそっていく。
「ほう。いい色のスープじゃないか。だが、そんな物で俺達のスープを超えられるかな?」
「無理だろうなぁ。俺達の魚介を使ったスープは並大抵の味じゃあ打ち負けるんだ」
「それでも作るって言ったんだい。楽しみにさせてもらおうじゃないかい」
私はドキドキしながら器によそい終わる。
「フリッツさん。キリルさん。一緒に配って頂けますか?」
「勿論だ」
「ああ」
3人でそれぞれに配り終える。皆一様に中を覗き込んで首を傾げていた。
「具材が何も入ってない?」
「透き通るように綺麗……見ているだけでもいいわ」
「ですが先ほどの料理と比べると……」
皆は同じ気持ちなんだろう。あれだけ大量の料理を食べてしまえば、それこそ、もう何も入らないと思うくらいには食べたはずだ。
誰か最初に食べてくれないだろうか。
「ずず……」
誰かが啜る音がする。この場に居る者達は皆が一様にしてそちらを見た。そこにいたのは……。
焔使いのジャンだった。
私たちは彼の反応を固唾を飲んで見守る。彼の反応次第で、他の人が飲むかどうかが変わってくるだろうから。
彼はそっとスプーンを器の中に戻し一言。
「あぁ……染みるだで……」
彼の表情は恍惚としており、とても幸せそうだ。彼の飲んだスープが全身に行きわたるのを待つかのように、じっとそのスープの味にただ身を任せている。
そんな彼の様子を見た人達がスープを飲み始めた。
「これは……」
「何という優しさ……」
「がつんとした料理の後に出されたのはさっきまでとはまるで違う……」
相手の人達も飲んでいた。
ファルさんとギルドマスターの会話が聞えていた。
「これは……素晴らしいですね」
「ええ、さっきまではガツンとした。これだけで食べなさい。他に食事なんて要らない。私たちのさえ食べていればいいという物だった」
「ですが、これは違う。そこまで主張せず、しかし、中には芯の様な、しっかりとした物が柱としてある」
「だけど、その柱も受け入れてくれるように優しくて、もしそれが合わないと思っても優しく、じゃあこっちはどう? っと変えてくれる」
「あれだけの食事をした後だから分かるこの優しさ。包容力の高さ。そして体全体に染みわたる味……」
「これ一つだけでは完成しない料理。でも、彼らの料理を埋めるような形で出されるこのスープ。最初の狂気の刃とこのスープで完成されるような料理」
「お互いだけでは足りない。2つ合わさってこその料理だと今ならハッキリと分かります。しかし……」
「ええ、これは勝負。どちらかが優れている。その答えを出さなければなりません」
「それは……何とも重たい決断でしょうか……。これほどどちらも素晴らしい料理なのに」
「ええ、ですが、それが審査員になった者の責務。我々が心に決めた答えを出さなければいけません」
「分かりました……しかし、もう暫く時間をください。このスープの味をしっかりと味わわねば……。ああ、故郷の姿が見える」
ファルさんは大丈夫かな……。
「これは……クロエの優しさが伝わる味だな……」
「ふぇ?」
言われた方を見ると、そこにはフリッツさんがスープを飲み干していた。
「クロエ、お代わりしてもいいか?」
「いいですけど……。お腹大丈夫ですか?」
さっきめちゃくちゃ食べていたから心配なんだけれど……。
「大丈夫だ。クロエの料理は俺が一番食べたいんだ」
「……分かりました」
私はフリッツさんから器を貰い、追加のスープを入れる。多めに作ってあるので問題は無い。
彼はゆっくりと味わうようにスープを飲んでくれる。
「ああ、やっぱり美味い」
「ありがとうございます」
良かった。他の人も喜んでくれているようだけど、フリッツさんにそう言って貰えるのが一番嬉しいかもしれない。
パンパン
私は音がした方をみると、ギルドマスターが手を叩き周囲の注目を集めていた。
「さて、我々での話し合いが終わりました。『狂気の刃』の料理の方が良かったと思う者は青の札を。クロエさん達の料理が良かったと思う者は赤の札をあげなさい。いいですね?」
「はい」
「わかったんだで」
彼らの前には木製の札が2本ずつ置いてある。あれで勝負が決まってしまうんだろう。
「それではどっち!」
ばっ!
考えながらのぶっつけ本番だけどやるしかない。
「手伝うことはあるか?」
「キリルさん、ありがとうございます。何かあったらお願いします」
「分かった」
それから時間ギリギリまで色々調整して、何とか完成した。
「出来た!」
「そこまで! クロエ。皆に料理を配って頂戴?」
ギルドマスターは凛々しく言うが、口の横にパンがついているのであまり威厳はない。
私は食器を取り出して、スープをよそっていく。
「ほう。いい色のスープじゃないか。だが、そんな物で俺達のスープを超えられるかな?」
「無理だろうなぁ。俺達の魚介を使ったスープは並大抵の味じゃあ打ち負けるんだ」
「それでも作るって言ったんだい。楽しみにさせてもらおうじゃないかい」
私はドキドキしながら器によそい終わる。
「フリッツさん。キリルさん。一緒に配って頂けますか?」
「勿論だ」
「ああ」
3人でそれぞれに配り終える。皆一様に中を覗き込んで首を傾げていた。
「具材が何も入ってない?」
「透き通るように綺麗……見ているだけでもいいわ」
「ですが先ほどの料理と比べると……」
皆は同じ気持ちなんだろう。あれだけ大量の料理を食べてしまえば、それこそ、もう何も入らないと思うくらいには食べたはずだ。
誰か最初に食べてくれないだろうか。
「ずず……」
誰かが啜る音がする。この場に居る者達は皆が一様にしてそちらを見た。そこにいたのは……。
焔使いのジャンだった。
私たちは彼の反応を固唾を飲んで見守る。彼の反応次第で、他の人が飲むかどうかが変わってくるだろうから。
彼はそっとスプーンを器の中に戻し一言。
「あぁ……染みるだで……」
彼の表情は恍惚としており、とても幸せそうだ。彼の飲んだスープが全身に行きわたるのを待つかのように、じっとそのスープの味にただ身を任せている。
そんな彼の様子を見た人達がスープを飲み始めた。
「これは……」
「何という優しさ……」
「がつんとした料理の後に出されたのはさっきまでとはまるで違う……」
相手の人達も飲んでいた。
ファルさんとギルドマスターの会話が聞えていた。
「これは……素晴らしいですね」
「ええ、さっきまではガツンとした。これだけで食べなさい。他に食事なんて要らない。私たちのさえ食べていればいいという物だった」
「ですが、これは違う。そこまで主張せず、しかし、中には芯の様な、しっかりとした物が柱としてある」
「だけど、その柱も受け入れてくれるように優しくて、もしそれが合わないと思っても優しく、じゃあこっちはどう? っと変えてくれる」
「あれだけの食事をした後だから分かるこの優しさ。包容力の高さ。そして体全体に染みわたる味……」
「これ一つだけでは完成しない料理。でも、彼らの料理を埋めるような形で出されるこのスープ。最初の狂気の刃とこのスープで完成されるような料理」
「お互いだけでは足りない。2つ合わさってこその料理だと今ならハッキリと分かります。しかし……」
「ええ、これは勝負。どちらかが優れている。その答えを出さなければなりません」
「それは……何とも重たい決断でしょうか……。これほどどちらも素晴らしい料理なのに」
「ええ、ですが、それが審査員になった者の責務。我々が心に決めた答えを出さなければいけません」
「分かりました……しかし、もう暫く時間をください。このスープの味をしっかりと味わわねば……。ああ、故郷の姿が見える」
ファルさんは大丈夫かな……。
「これは……クロエの優しさが伝わる味だな……」
「ふぇ?」
言われた方を見ると、そこにはフリッツさんがスープを飲み干していた。
「クロエ、お代わりしてもいいか?」
「いいですけど……。お腹大丈夫ですか?」
さっきめちゃくちゃ食べていたから心配なんだけれど……。
「大丈夫だ。クロエの料理は俺が一番食べたいんだ」
「……分かりました」
私はフリッツさんから器を貰い、追加のスープを入れる。多めに作ってあるので問題は無い。
彼はゆっくりと味わうようにスープを飲んでくれる。
「ああ、やっぱり美味い」
「ありがとうございます」
良かった。他の人も喜んでくれているようだけど、フリッツさんにそう言って貰えるのが一番嬉しいかもしれない。
パンパン
私は音がした方をみると、ギルドマスターが手を叩き周囲の注目を集めていた。
「さて、我々での話し合いが終わりました。『狂気の刃』の料理の方が良かったと思う者は青の札を。クロエさん達の料理が良かったと思う者は赤の札をあげなさい。いいですね?」
「はい」
「わかったんだで」
彼らの前には木製の札が2本ずつ置いてある。あれで勝負が決まってしまうんだろう。
「それではどっち!」
ばっ!
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