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1章
15話 聖女
しおりを挟む僕は朝にダンジョンへの道を歩いていた。
流石にローバー先生に借りた本は持っておらず、ダンジョン探索用の装備にしている。
といっても、食料だとか寝袋だとかの基本的な物しかないのだけれど。
《初心の迷宮》はちょっとしたピクニックと言われてもいいくらいだ。
「誰と一緒なのかが問題だよね……」
補講を受けるということで基本的に……その……微妙な人が集まってしまうこともあるのだ。
言葉を一切話さない人だったり、逆に一切聞かない人だったり様々だ。
グレーデンの奴から身を隠すためとはいえ正直一人で行かせて欲しかったとすら思う。
(どうせなら聖女様みたいな素晴らしい人でありますように……)
僕は今一番組みたい人ナンバーワンの人を考えながら待ち合わせの場所として学園長に指定された場所に行く。
指定と言ってもダンジョンの入り口だけれど。
「あれ……来ない……?」
僕は時間の5分前に到着して待っていた。
けれど、それから30分待っても来ない。
「どうしようかな……」
このまま待つのか。
それとも面倒だからいっそのこと一人で行くのか……。
1人で行きたい所ではあるけれど、学園長からは一緒に行ってくれと頼まれている。
ちゃんと正当に辿り着いたのか判別する魔道具も渡されているし、何より僕の為になるから。
そう言われてしまったので1人で行くわけにもいかない。
迷っていると、2人の少女が僕の方に歩いて来る。
1人は昨日学園長室の前で見た美しいライトグリーンのロングヘアーをした少女だ。
青の瞳に合う白調を基調としたスラリとした神官服を着ていて、その手には持っているロッドはかなりの力を秘めているように感じた。
首からは教会の聖印である白鳥のペンダントを下げている。
もう1人はまさに護衛と言った感じの鎧をまとっていて、一応スカートが学園指定の物なので生徒であると分かる。
真紅の髪を後ろで巻き上げていて、その瞳は茶色がかった黒目だった。
ただし、目が吊り上がっていて、すごく気が強そうに感じる。
護衛の彼女はかなり僕の事を警戒していて、先ほどの少女を守るように歩いて来た。
「貴様がクトーか」
護衛の少女が僕に問いかけてくる。
「そうですけど……貴方は……」
僕が嬉しさを抑えながら話そうとすると、護衛の少女に遮られる。
「貴様の発言は求めていない。こちらにいらっしゃる方を誰だと思っている? 次期聖女様と名高いレイラ・ウェスター様だ。貴様ごとき平民が気軽にしゃべりかけていい方ではないのだ」
「……ああ、はい……それで……」
「貴様……頭も下げないつもりか?」
「アルセラ、いいのです」
「しかし、レイラ様」
いきなり強い言葉をかけられて驚いていた僕に業を煮やしたのか、剣を抜きかけているアルセラと呼ばれた騎士。
まさか学園内で頭を下げないだけで剣に手をかけられるとは。
しかし、聖女様であろう少女はアルセラを止める。
ただしゃべっているだけなのに歌っているかのような声は聞いていてとても心地よい。
「アルセラ。いいと言ったはずですが?」
「……申し訳ございません」
「クトーさん。貴方が今回一緒に潜って下さる方ですね?」
「あ、はい……そうです」
これは……僕も思わず聖女様! と膝をつきそうになる。
それほどに、何というか……。素晴らしい感じを持たせてくれる何かがあった。
騎士の子に言われなくても膝をついて頭を下げてもいいかもしれない。
「今回のダンジョン探索。よろしくお願いしますね?」
彼女が少し頭を下げると、護衛の騎士が悲鳴を上げる。
「レイラ様! この様なタコにそんな頭を下げる必要などありません!」
「何を言うのですかアルセラ。2人で潜らなければならないのです。出来る限り誠意ある対応をしなければならないことは知っているでしょう?」
「それは……そうですが……いえ、やはり今から学園長の所に行って我々も一緒に……」
「断られたでしょう? それに、学園長にクトーさんは信頼出来る方とお聞きしていますよ? ですから問題ないでしょう」
「ぐぬぬ……」
アルセラと呼ばれた騎士は僕を睨みつける。
それから、
「レイラ様に手を出して見ろ……白の神に誓って貴様を許さんからな……」
「しないですよ。そんなことは」
僕はサナを治療するというこの世で最も大事な目的があるのだ。
いくら聖女様が綺麗だとはいえ、サナよりは下。
そんな相手に手を出すなんてあり得ない。
(口に出したら大変なことになりそうだから言わないけど……)
「誓って?」
「誓って」
「ではその証明をする為に……」
「アルセラ。いい加減にしなさい」
「レイラ様……」
「心配してくださるのは嬉しいですが、しつこいのは好みではありません。それではクトーさん。行きましょうか」
「はい……分かりました」
レイラは護衛騎士2人の間をスッと通り抜けるとさっさとダンジョンに向かって行ってしまう。
僕は呆然としているアルセラを置いて聖女様を追いかける。
「あの人、大丈夫なんですか?」
「ええ、彼女は心配し過ぎるのでこれくらいが丁度良いのです。それよりも早く行きましょう」
「分かりました」
それから2人でダンジョンに入り、僕が前にでる。
そのまま道案内をしながら少しした所で、聖女様が話しかけてきた。
「はぁー! 疲れたー。ねぇクトーだっけ? あたしの代わりに一人でダンジョン攻略してくれない?」
「………………」
僕は美しい声がした方を見ると、そこには聖女様がいた。
確かに聖女様だ。
でもその聖女様からさっきのダルそうな……聖女様らしくない感じの声が聞こえた気がした。
幻聴だろう。
そう決めつけて歩き出そうとすると、またしても声がする。
「ちょっと何で無視すんのよ。この聖女様のお願いよ? 聞けないの?」
「え……?」
僕は足を止めると彼女もそれに合わせて足を止める。
じっと見つめると、彼女はなんだというように眉をひそめた。
「何よ。何か言いなさいよ。もしかして耳悪いの?」
「悪くなったかもしれない」
そう信じたくなるほど、聖女様の……いや、レイラの態度の豹変ぶりはすさまじかった。
というか信じられない。
「何よそれ、『聖なる祈りよ届け』」
聖女様が僕の両耳に向けて回復魔法を放つ。
僕の耳が白い光に包まれる。
「これでどう? あたしが言っていること分かった?」
「え……いや……え? 本当に……? さっきと同じ人?」
治った耳を触って目をパチクリさせながら彼女を見ると、当然と言ったような顔をしている。
「そうよ。っていうか男って皆ちょろいわね。あんな姿の聖女がいいの?」
「いや……どっちでもいいけど……。びっくりした」
「……そう。っていう訳で、あたしの代わりにダンジョンの奥まで行ってくれない? 面倒なのよね。お風呂も入れないし」
「いやいや、ダメでしょ。魔道具でバレるって」
「何とかしなさいよ。あたしの回復魔法受けたんでしょ? 本当だったら教会の許可がないと受けられないすごい事なのよ? 分かってる?」
「ええ……。いや……というか、それが素だったり……?」
「当たり前でしょ。あんなザ・聖女。みたいなやつ居る訳ないでしょうが」
そう言って彼女は面倒そうに腕を組んで背中をダンジョンに預ける。
「そう……だったの……。でも、ダンジョンは潜らないとダメだよ。っていうか補習になったのって……」
「前回も適当な男子に頼んで行ってきてもらったわ。結局バレてやり直しだったけど」
「だからだよ! またやっても絶対にバレるから」
「それを何とかするのが貴方の仕事でしょう?」
「そんな仕事受けた覚えはないよ」
全くなんて人なんだ。
聖女様がこんな人だとは思わなかった。
「仕方ないわね。その代わり道中のことは全部やりなさいよ?」
「出来る限りはね……」
「はぁ……さっさと行きましょう。こんなカビ臭い所はサッサとでたいのよ。ああ、もうバラのお風呂に入りたいわ……」
彼女が壁から背中を離し歩き出す。
僕は大変なことになったと思いながらも彼女より前に行くのだった。
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