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14話 祖父の元へ
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「う・・・ううん」
目が覚めると穴が開いた木の天井が目に入ってくる。視線を横に動かすと色とりどりの瓶が目の前で踊っていた。
私は暫しそれを見つめた後に上半身を起こす。私は茶色く汚れたシーツの上に寝かされていて、その上にはこれまた汚らしいタオルケットが掛けられていた。
私はそれを退けて立ち上がる。
「やっと目が覚めたかね?」
「貴方は・・・?」
「『風景屋』の主人だよ。ここの記憶までは取っていないはずだが・・・思い出せるかね?」
「ふうけいや?私、なんでそんな所に・・・?」
頭が割れるように痛い。それでも必死に思い出そうとする。
「何でここに来たんだっけ・・・?学校に行って・・・ぼんやりと授業を受けて・・・おじいちゃん?のことで何か悩んでいて・・・真島に会って・・・何でここにいるの?」
「ふむ、説明してほしいかね?」
「え、ええ」
良く思い出せないけど教えてくれるなら聞きたい。
「君は祖父の為に君の記憶を私にくれたのだよ。これで理解出来たかね?」
「祖父・・・おじいちゃんの為に?なんで?」
祖父、祖父は知っている。私の住んでいる家と祖父たちの家が近い為母が良く帰っているからだ。私と和也と父は行かないのですごく仲がいいという訳ではない。それどころかほとんど会っていないので最近見たベッドで横たわる老人が祖父だと始めて知ったレベルだ。
そんな祖父の為になぜ私が記憶をこの老人に渡さなければいけないのだろうか?
「それは記憶を無くす前の君が記憶をさし出すに相応しいと思ったからではないのかな?私は君のことを知らないらから、あくまで推測でしかないがね?」
「私が大事に思っている・・・」
全くピンとこない。私はずっと誰とも関わらずに生きて来たし、これからもそうやって一人で死んでいくのだと思っていた。でも何でそんなことを思っていたんだろうか?何かきっかけがあったんだろうか?
「まぁ君のことはどうでもいい。しかし、折角だから君も来るか?こんなことは中々ないからね。サービスで君にも見せてあげよう」
「はぁ・・・」
「気にはならないかね?君の記憶を使ってまで見ようとした祖父の風景だぞ?」
私の記憶を使った・・・。
「見る。見に行く。私が決断したのならそれでもいい。きっと私にとってそれだけの事だったんだから。でも見せてくれるっていうなら見に行きたい。私の行動の先を」
「くくく、良かろう。後悔しないとよいな」
そう言って老人は立ち上がりカウンターからこちらに出てくる。彼の背が低いと思っていたがスラリと高く180cmはあるだろうか。テレビで見るヨーロッパの老人みたいな恰好だった。茶色いベストに中には白のTシャツ下は黒のズボン、靴は革靴だった。
「それでは行こうか」
「はい」
私は彼に背を向けて歩き出そうとした所で呼び止められた。
「何処に行くんだね」
「え?祖父の所に行くんじゃないんですか?」
ここから行くのなら電車で乗り継ぐか・・・タクシーだろう。もしかしてタクシーを呼べということだろうか。
「失礼な事を考えていそうだが違う。こっちへ来たまえ」
彼はそう言って私に手を差し出す。
「どういうことですか?」
「知らなくともよい。さっさと手を取り給え」
不安はあるが私をどうにかしたいならさっき倒れていた時にやっているはずだ。何もされていないということは多分大丈夫だと思う。
私は警戒しながらゆっくりと手を伸ばす。そして彼の手のひらの上に私の手のひらをそっと重ねた。
「それでは行くかね」
パチン
彼が空いている方の左手を鳴らしたかと思うと一瞬で視界が変わった。そこはさっきよりも暗く何処かわかない。周囲を見回してみると受付から漏れ出ている光でここが祖父のいる病院だということが分かった。
入り口の明かりが既に落とされているところを見ると、時刻はかなり遅いのかもしれない。
「さ、案内しろ」
「え、うん」
彼はそう言って私に案内させる。
私は鈍く光る非常灯の明かりを頼りに祖父の病室へ向かう。その途中で複数の足音が近づいてくるのが分かった。
「どうしよう。見つかっちゃまずいよね?」
私は何処かに隠れるところはないかと思っていると。
「無視でいい。儂達には気付かない」
「ホントに?」
「ああ、いいから行け」
「分かった」
私は彼に言われるままに進んだ。正面からは医師と看護師が数名向かってくる。私は通路ぎりぎりに移動するが彼は廊下の真ん中を堂々と歩いている。これはバレてしまったかと思い、なんと言い訳をしようか考える。しかし、それは杞憂に終わった。
「それでこの患者の件ですが」
「ああ、それはこっちの処置をしておいてくれ」
そんな会話をしながら進んでくるが私たちに気付く気配はない。すれ違う時もあちらから当たらないように避けてくれてそのまま何事もないかのように歩いて行った。
「ホントに気付かなかった」
「だから言っただろう」
私はそれからさっさと歩き、いつものルートでエレベーターに乗った。
「これがエレベーターか時代は進化する物だな」
「乗ったことないの?」
「ここまで性能のいいのはないな」
このエレベーターって普通のだと思うんだけど・・・。しかし聞いても答えてくれないと思うので気にしないことにした。
そんなことを思っているとエレベーターが開き私たちは外に出る。
そして祖父の病室の前に立った。
「そのまま開けてもいいの?」
「ああ」
私はがらりと扉を開けると中にはベッドで寝ている祖父と椅子に座っている母がいた。
母は扉が開いたのに気付かず祖父を時々見つめたり本を読んだりしている。
「何だか覗きをしてるみたいでちょっと悪い気がする」
「ふむ」
彼はそう言って パチン と指を鳴らすと母がベッドへとうつぶせに倒れこんだ。
「え?何したの?母さん!」
私はいきなり倒れこんだ母に近寄り肩を揺すったりするが母が目を覚ます様子はない。
「心配せずともよい。少しの間眠ってもらっただけだ」
「本当に?」
「こんなことで命を奪うほど倫理観は壊れていないつもりだがね」
「本当かしら・・・」
「嫌われたものだな」
「少なくとも好きにはならないと思うのだけれど・・・」
「そうか?どうでもよいが老人が目を覚ましているぞ?」
「え?おじいちゃん・・・?」
目が覚めると穴が開いた木の天井が目に入ってくる。視線を横に動かすと色とりどりの瓶が目の前で踊っていた。
私は暫しそれを見つめた後に上半身を起こす。私は茶色く汚れたシーツの上に寝かされていて、その上にはこれまた汚らしいタオルケットが掛けられていた。
私はそれを退けて立ち上がる。
「やっと目が覚めたかね?」
「貴方は・・・?」
「『風景屋』の主人だよ。ここの記憶までは取っていないはずだが・・・思い出せるかね?」
「ふうけいや?私、なんでそんな所に・・・?」
頭が割れるように痛い。それでも必死に思い出そうとする。
「何でここに来たんだっけ・・・?学校に行って・・・ぼんやりと授業を受けて・・・おじいちゃん?のことで何か悩んでいて・・・真島に会って・・・何でここにいるの?」
「ふむ、説明してほしいかね?」
「え、ええ」
良く思い出せないけど教えてくれるなら聞きたい。
「君は祖父の為に君の記憶を私にくれたのだよ。これで理解出来たかね?」
「祖父・・・おじいちゃんの為に?なんで?」
祖父、祖父は知っている。私の住んでいる家と祖父たちの家が近い為母が良く帰っているからだ。私と和也と父は行かないのですごく仲がいいという訳ではない。それどころかほとんど会っていないので最近見たベッドで横たわる老人が祖父だと始めて知ったレベルだ。
そんな祖父の為になぜ私が記憶をこの老人に渡さなければいけないのだろうか?
「それは記憶を無くす前の君が記憶をさし出すに相応しいと思ったからではないのかな?私は君のことを知らないらから、あくまで推測でしかないがね?」
「私が大事に思っている・・・」
全くピンとこない。私はずっと誰とも関わらずに生きて来たし、これからもそうやって一人で死んでいくのだと思っていた。でも何でそんなことを思っていたんだろうか?何かきっかけがあったんだろうか?
「まぁ君のことはどうでもいい。しかし、折角だから君も来るか?こんなことは中々ないからね。サービスで君にも見せてあげよう」
「はぁ・・・」
「気にはならないかね?君の記憶を使ってまで見ようとした祖父の風景だぞ?」
私の記憶を使った・・・。
「見る。見に行く。私が決断したのならそれでもいい。きっと私にとってそれだけの事だったんだから。でも見せてくれるっていうなら見に行きたい。私の行動の先を」
「くくく、良かろう。後悔しないとよいな」
そう言って老人は立ち上がりカウンターからこちらに出てくる。彼の背が低いと思っていたがスラリと高く180cmはあるだろうか。テレビで見るヨーロッパの老人みたいな恰好だった。茶色いベストに中には白のTシャツ下は黒のズボン、靴は革靴だった。
「それでは行こうか」
「はい」
私は彼に背を向けて歩き出そうとした所で呼び止められた。
「何処に行くんだね」
「え?祖父の所に行くんじゃないんですか?」
ここから行くのなら電車で乗り継ぐか・・・タクシーだろう。もしかしてタクシーを呼べということだろうか。
「失礼な事を考えていそうだが違う。こっちへ来たまえ」
彼はそう言って私に手を差し出す。
「どういうことですか?」
「知らなくともよい。さっさと手を取り給え」
不安はあるが私をどうにかしたいならさっき倒れていた時にやっているはずだ。何もされていないということは多分大丈夫だと思う。
私は警戒しながらゆっくりと手を伸ばす。そして彼の手のひらの上に私の手のひらをそっと重ねた。
「それでは行くかね」
パチン
彼が空いている方の左手を鳴らしたかと思うと一瞬で視界が変わった。そこはさっきよりも暗く何処かわかない。周囲を見回してみると受付から漏れ出ている光でここが祖父のいる病院だということが分かった。
入り口の明かりが既に落とされているところを見ると、時刻はかなり遅いのかもしれない。
「さ、案内しろ」
「え、うん」
彼はそう言って私に案内させる。
私は鈍く光る非常灯の明かりを頼りに祖父の病室へ向かう。その途中で複数の足音が近づいてくるのが分かった。
「どうしよう。見つかっちゃまずいよね?」
私は何処かに隠れるところはないかと思っていると。
「無視でいい。儂達には気付かない」
「ホントに?」
「ああ、いいから行け」
「分かった」
私は彼に言われるままに進んだ。正面からは医師と看護師が数名向かってくる。私は通路ぎりぎりに移動するが彼は廊下の真ん中を堂々と歩いている。これはバレてしまったかと思い、なんと言い訳をしようか考える。しかし、それは杞憂に終わった。
「それでこの患者の件ですが」
「ああ、それはこっちの処置をしておいてくれ」
そんな会話をしながら進んでくるが私たちに気付く気配はない。すれ違う時もあちらから当たらないように避けてくれてそのまま何事もないかのように歩いて行った。
「ホントに気付かなかった」
「だから言っただろう」
私はそれからさっさと歩き、いつものルートでエレベーターに乗った。
「これがエレベーターか時代は進化する物だな」
「乗ったことないの?」
「ここまで性能のいいのはないな」
このエレベーターって普通のだと思うんだけど・・・。しかし聞いても答えてくれないと思うので気にしないことにした。
そんなことを思っているとエレベーターが開き私たちは外に出る。
そして祖父の病室の前に立った。
「そのまま開けてもいいの?」
「ああ」
私はがらりと扉を開けると中にはベッドで寝ている祖父と椅子に座っている母がいた。
母は扉が開いたのに気付かず祖父を時々見つめたり本を読んだりしている。
「何だか覗きをしてるみたいでちょっと悪い気がする」
「ふむ」
彼はそう言って パチン と指を鳴らすと母がベッドへとうつぶせに倒れこんだ。
「え?何したの?母さん!」
私はいきなり倒れこんだ母に近寄り肩を揺すったりするが母が目を覚ます様子はない。
「心配せずともよい。少しの間眠ってもらっただけだ」
「本当に?」
「こんなことで命を奪うほど倫理観は壊れていないつもりだがね」
「本当かしら・・・」
「嫌われたものだな」
「少なくとも好きにはならないと思うのだけれど・・・」
「そうか?どうでもよいが老人が目を覚ましているぞ?」
「え?おじいちゃん・・・?」
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