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列伝
蓮也伝『エウリディーチェとの出会い』
しおりを挟むこれは神代と言われる太古の時代の話である。
ロータジアという王国での王宮で舞踏会。
王宮では豪華な食事が振る舞われ、人々は煌びやかに着飾り、美しい音楽に合わせて踊りを楽しんだ。
そこにロータジア国第二王子である蓮也(れんや)も出席していた。
蓮也の髪はプラチナのように輝き、容姿は華のように美しかった。
それ故、世の女性は、彼の美しさや第二王子夫人の地位目当てで近寄ってくることも多々あった。それに対して蓮也はウンザリしていた。そのため、舞踏会場から少し離れたテラスで外の空気に触れていた。
蓮也
(王族故、ここに出席せねばいけないのだが、何と窮屈なことか。それに、人間は煌びやかに着飾っていても、やがては朽ちていく。それに比べて、この夜空の星々は永遠の輝きを放ち続ける。それらを眺めていた方が性に合っている)
そこに兄の舞也(まいや)が話しかける。
舞也
「蓮也、相変わらずだな」
蓮也
「兄さん、私は兄さんのように愛想を振りまくことは苦手で」
舞也
「わかっている。無理にとは言わない。だが、この人たちもこの国の大切な民だ。民と交流することも王族の仕事であり、国を良くすることの一つだ。それにお前は、その相から古代の蓮也王の生まれ変わりだともされている。本来、次期王はお前がなるべきかと私は考えている」
蓮也
「私は国王には向きません。それに、その話は伝説でしょう」
「もし私が王になるとわかったら出家(しゅっけ)しますよ」
「まあ、第一王子が国王を継承すると国法で決まっているので安心ですが」
ロータジア国では、ある時期に跡目争いが起こったことから、第一王子が国王を継承するようになったらしい。
舞也
「お前に出家されたら困る。この国は、まだ人材が不足している」
「だから、この国のために働いてほしい」
蓮也
「大丈夫です。必ずこの国のために働き、兄さんをお守りしますよ」
蓮也の兄・舞也は人望厚く、智勇に優れていたため、次期国王への呼び声が高かった。蓮也はこの兄の事を心から尊敬していた。
舞也がその場から立ち去り、再び蓮也は一人夜風に吹かれる。
蓮也に話しかけようとする者はいない。なぜなら、話しかけても蓮也は心ここに在らずの返事しかしないためである。それは前述したように、蓮也はこの舞踏会自体にウンザリしているからである。
と、そこに一人の美しい女性が蓮也に話しかける。
名前をエウリディーチェと言い、富豪の娘である。父親が貴族株を買うことで貴族の地位となったばかりなので、基本的な貴族の知識はない。
エウリディーチェ
「お一人ですか?具合が悪いのですか?」
蓮也
「具合が悪そうに見えるか?」
エウリディーチェ
「何か思い悩んだようにもされていますし、どうされたのかなと思いまして」
蓮也
「あなたには関係のないことだ」
エウリディーチェ
「私はですね、この宇宙は全て繋がっていると思うんです。この美しい星々を見ていると、それぞれの瞬きが共鳴しあっていて、私たちの心もその共鳴に同調し合っているのかなと感じますの。そして、皆さんが楽しんでいるのに貴方様が悲しい表情をされていると、つい心配でお声をかけたくなってしまい」
蓮也
「私に話しかけるのに宇宙の遠い星々を持ち出すとは、変わったお方だ」
「しかし、ここの者たちは一見美しく着飾っているが、中身はそうではない。貴方が言うような、その星々と共鳴するようなものではないであろう」
エウリディーチェ
「私はどのような人にも、一人一人、美しい魂の輝きがあるのを信じていますの」
蓮也
「ならば、悪人にも罪人にも、その魂の輝きがあると言うのか?」
エウリディーチェ
「はい、ありますとも。ですから、どのような人にも幸せを願うことにしていますの」
蓮也
「悪人や罪人にも幸せを願うというのか?」
エウリディーチェ
「はい。悪人も罪人も、もし幸せであるならば、悪事や罪は犯さないはずです。ですから悪人や罪人が幸せになることが、よい世の中をつくることだと思っていますの」
「そして、生きとし生ける全てのものが幸せでありますように、と祈るの」
「始祖女神・木花咲耶姫様の心の灯火やまつらいの精神にも通じると思います」
「私は、始祖女神様をとても尊敬しています」
【楽曲『小さな光-Mentalightness-』】
https://youtu.be/6yZW0qMabO0
蓮也
「木花咲耶姫か・・・」
「なるほど、あなたが言うことは頭では理解はできる」
これが蓮也とエウリディーチェの言葉を交わした最初であった。
このことを蓮也は後年、聖典『ロータスートラ』に書き残している。
エウリディーチェ
「ですから、そんなふうに見ていただけたらと思いますわ」
蓮也
「心に留めておこう」
エウリディーチェ
「お話ができてよかったですわ。それでは、私はこれで」
蓮也
「名前は何と言う?」
エウリディーチェ
「名前も名乗らずに失礼しました。私はエウリディーチェ と申します。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
蓮也
「私は蓮也だ」
エウリディーチェ
「えっと・・・、確か第二王子の・・・蓮也様・・・!これは大変失礼致しました!ご無礼をお許しください・・・」
蓮也
「いや、気にしなくていい。貴方の言われることももっともだ。私も学びとなったところがある。感謝する」
蓮也は今まで舞踏会で殆ど話すことはなかったが、この時は違った。
そして、なぜなのかは、このときはわからなかった。
舞踏会へは貴族の娘たちが出席するが、大抵は政略的なことが関係し、娘たちは王族・貴族の顔と名前を覚えるのが仕事みたいなものであるが、エウリディーチェはそうしたところがなかった。そうしたところが好感が持てたのかもしれない。
これが蓮也とエウリディーチェの最初の出会いであった。
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