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列伝
蓮也伝『エウリディーチェとの恋』
しおりを挟む蓮也は舞踏会でエウリディーチェと会った。そして、それからというもの、舞踏会に出ると決まってテラスで一人外を見ているが、エウリディーチェが話しかけてくるのを心待ちにしていた。
エウリディーチェ
「蓮也様、先日は失礼致しました」
蓮也
「気にすることはない」
エウリディーチェ
「今日もずっとこちらで?」
蓮也
「ああ、悪いか?ああいうのは性に合わない」
エウリディーチェ
「私も同感ですわ。しかし、人間って面倒なものですね。こうして何事も演じなければいけないなんて。けど、私自身も思っている私そのものも演じているのかもしませんわね」
蓮也
「あなたの言っていることが私には理解できない」
エウリディーチェ
「人には魂ってものがあって、私とは別のものだと思うの。私自身には嫉妬とか執着ってのがあるわ。けど、それは魂を覆っているだけだと思うの。それを演じさせられているか、自ら演じているかの違いなのかも、と思いますの」
蓮也
「この前は宇宙の星々の話で、今度は魂の話か」
「エウリディーチェ、あなたは変わっている」
と言いながら、蓮也は少し微笑んだ。
エウリディーチェ
「蓮也様の微笑むお顔をはじめてみましたわ」
「それでは、これで失礼いたします」
エウリディーチェも蓮也に微笑みかけ、一礼してその場を去って行った。
そう言われて思い返してみると、蓮也は自分が最後に何時笑ったり微笑んだか記憶になかった。
その次の日、宮廷の薔薇園で薔薇を見ていた。
その薔薇園は先王がつくり、その時は真紅の薔薇園であった。それを蓮也の義理の母が引き継ぎ、ピンク色の薔薇も植えられるようになったと伝わっている。ちなみに、この義理の母親は、舞也の実母であるが、舞也・蓮也を分け隔てなく可愛がったらしい。しかし、蓮也が5歳の頃に、この義理の母は亡くなっている。
そこへロータジア国の最高位・白金騎士ゼイソンが通りかかる。
王国随一と言われる存在であり、高齢ではあるが、未だ現役で職務をこなしている。
ゼイソン
「若君、いつになくボンヤリとされておられますが、どうなされましたか?」
蓮也
「ああ、爺か。何でもない、休憩しているだけだ」
ゼイソン
「先王様も、この薔薇を見るのがお好きでした」
ゼイソンは蓮也の幼少時からの教育も兼務していた。
ゼイソン
「・・・おや」
「さては、恋でもなされましたな」
蓮也
「・・・爺、恋とは何か?」
ゼイソン
「巷の定義では、特定の異性に想いを寄せることですかのぅ」
蓮也
「ふむ」
ゼイソン
「しかし、エネルギーレベルでは少し違う説明になります」
「人体には七つのチャクラがあり、その真ん中のハートチャクラは通常は緑のオーラを放っていますが、それが誰かに想いを寄せるとピンクになります。それを「恋」と呼んでおりまする。そして、そのエネルギーが相手のハートと繋がりあったことを「愛」と呼んでおりまする」
つまり、ゼイソンの説明では、「恋愛」とは、エネルギーレベルの変容であり、その変容した者同士の感応である、と言う。
蓮也
「それで、私の胸のチャクラはそのようになっているのか?」
ゼイソン
「いかにも。ちょうど、このピンク色の薔薇のようなお色ですぞ」
蓮也
「爺は恋をしたことがあるのか?」
ゼイソン
「さあ、どうでしたかのぅ。そんなこともあったかもしれませぬが、遠い昔のことですわぃ」
蓮也
「爺は、その人とは一緒にならなかったのか?その人は今、どうしているのだ?」
ゼイソン
「さぁて、どうでしょうなぁ。しかし、きっと、どこかできっと幸せに暮らしていると信じておりまする」
蓮也
「爺は、その人のことを自分のものにしたいとは思わなかったのか?」
ゼイソン
「若い頃は、そのようなことも考えましたかのぅ」
蓮也
「で、手に入れなかったのか?」
ゼイソン
「若い頃、「恋」をした時はそう考えたかもしれませぬが、それが「愛」になると、人はそう思わなくなるのかも、ですじゃ」
蓮也
「そんなものなのか」
ゼイソン
「まあ、昔のことですのでのぅ、ほっほっほ」
恋が愛になり、愛が永続して穏やかなものになると、相手そのものの幸せを祈る状態になるのかもしれない。それはピンク色のハートチャクラが再びグリーンへと戻るのであるが、そのグリーンは更に深い輝きを放つものであろう。
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