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列伝
モロー伝『盗人から友へ』
しおりを挟むロータジア王国では盗みが横行していた。しかし、それは単なる盗みではなく、盗まれた金品は貧しい人たちの家の中に投げ込まれるというものであった。そうしたことから、その盗人を神「盗神(とうじん)」と崇める人々もいた。その盗神の動きは異常なほど素早いため、誰も、その姿を見るものはいなかった。そのため盗神は「神速様」とも言われていた。
その盗神が最近狙っているのがロータジア城の宝物庫である。ここには金品や通貨が多く保管されている。量があまりにも多く、一度には運びきれないため、何度も盗みにやってくる。これにはロータジア王・泰斗王も頭を抱えていた。
蓮也
「兄上、宝物庫の警護、私にお任せください。必ずや、盗人を捕らえてみせます」
舞也
「今、そのことで問題になっていたところだ。デネブ将軍が本来は警護職なのだが、現在、彼は練兵の命令が下されているため、どうするか迷っていた。蓮也、お前がやってくれるなら心強い。王には口添えしておく故、待機していてくれ」
蓮也の兄、舞也は元帥職であり、兄を通して蓮也は王である父に自分の意見を述べることが多かった。
王族は政治・外交面を行うが、平和になり、王国が退廃気味になると、夜の舞踏会などが王族の仕事となる。ここでどの貴族を外戚とするか、貴族側はどの王族の外戚となるかの政治の場となっている。蓮也は、この舞踏会への出席が性に合わないため、今回の夜の宝物庫警備の任務を進んで受けることとした。もちろん、舞踏会に出席するよりも、警備の方が王国のためにもなると思ってのことである。そして、盗神がどのような者なのかも少しだけ興味があった。
その夜。
城には警備兵が完璧に配置されているが、音も立てず、闇に紛れ、目にも留まらぬスピードで駆け抜けるため、全ての警備網を盗神はすり抜けていった。
宝物庫の鍵を盗神が解除する。
盗神は既に数回、忍び込んでいるため手慣れた感じで、解錠に1分もかかっていない。
宝物庫の中は広いホールとなっており、中央に黄金の像があり、壁側に貨幣や財宝がある。
中に入り盗神が物色し始めたところ、潜んでいた蓮也が剣を抜き背後を取る。
蓮也
「私が配置したすべての警備兵を潜り抜け、ここまで来るのは褒めてやろう」
「お前は何者だ?」
盗神
「生まれてはじめて背後を取られたなぁ」
「・・・って凱旋パレードかなんかで見かけたけど、アンタ王子様かよ・・・!」
「そして、単なる人間ではないな」
蓮也
「私の質問に答えよ」
盗神は身を翻して短刀で斬りかかる。
一つ目の斬りを蓮也はかわせたが、二つ目・三つ目の斬りは掠った。
盗神はその天性のスピードを最大に活かすために、短刀を駆使する。その剣は三回の斬りを一拍子で行うため、後に神速剣と言われた。盗神は仮面を被っているため、顔はわからない。
蓮也
(なるほど、速いな・・・)
盗神
「逃げな・・・、次は目から頸動脈を狙う。これでも加減しているが、次は本気でやる。これ以上関わると死ぬことになるぞ」
蓮也
(逃げろだと?この者は、相手を殺傷できる力が十分あるが、それをしないというのか)
この時、蓮也は単なる盗人ではないと感じた。
蓮也
「いいだろう、私も本気になろう」
盗神
「本気だと?」
蓮也はマントと鎧を一瞬で脱ぎ去る。
地面に落ちた鎧の金属音から、相当の重量であることが伺われる。
蓮也
「潜在運動系・・・解放!」
蓮也の周囲から螺旋状のオーラが立ち昇る。
盗神
「なるほど、どうやら口だけじゃあねーよーだな」
「なら、こちらも」
「神速走行、発動!」
盗神の足から黄金の光がエンチャントされる。
盗神
「神速三段斬り!」
盗神の神速三段斬りが蓮也に襲いかかる。
それを正確に全て剣で受ける。
そして盗神の神速剣はスピードを増し、四段・五段と続き、乱れ切りとなっていくが、それも蓮也は全て剣で弾く。
盗神
「速いな・・・しかも、短刀を剣で躱すとは、お前も神速術の使い手なのか・・・?」
蓮也
「私は早いのではない、最小の力・最小の軌道で動いているだけだ。そして、お前の気を感じて動いている」
短刀の方が軽く剣の方重いため、スピード面では剣は劣る。しかし、蓮也は剣を自然法則に則して操っているため、そのスピードはほぼ互角となる。
神速剣が効かないとわかると、盗神は一瞬で身体を反転させ逃げ出したが、扉が閉まっている。蓮也は、中から物音や声が聴こえたら密かに部下に外から鍵を再び鍵をかけるように命じておいた。第二王子である蓮也を盗神と一緒に閉じ込めることになるので、部下は一度は反対したが、命令ということで同意した。
盗神は再び斬りかかるが、今度は蓮也の剣が強烈に短刀を弾き、短刀は盗神の手から吹っ飛んでいった。
盗神
「あー、もー、観念してやるよ!」
盗神は、武器を失ったため、その場に座り込み覚悟を決めたようだ。
仮面を脱ぎ捨てて蓮也に対して言い放った。
盗神
「煮るなり焼くなり好きにしろってんだ!」
顔を見ると目鼻立ちがくっきりとしており、やや童顔であった。
年齢は蓮也と同じくらいであろうか。
蓮也
「お前はなぜ盗みをする?」
盗神
「そんなの聞いてどうするんだぃ」
蓮也
「いいから答えろ」
盗神
「この王国の役人が腐っているからだよ。貧しい者から不正に取り立てたり、特定の商人からは賄賂を受け取って優遇して、貧富の差は広がるばっかりだ。だから俺が、そいつらから金を盗んでやって、貧しい奴らにバラまいてやっているだぜぃ」
蓮也
「だからと言って盗みをやっていいということにはならないだろう」
盗神
「・・・まぁ、そうなんだけどな」
蓮也は盗神が言っていることに、あるレベルでは理解していた。彼には彼の論理と正義がそれなりにある、と感じた。
そして、この時、エウリディーチェからの言葉も思い出していた。
(悪人も罪人も幸せであれば・・・か)
蓮也
「私の配下にならないか?」
盗神
「は?アンタ、王子様だろ?盗人(ぬすっと)の俺を配下にって大丈夫か?」
蓮也
「その才能を正しいことに使わないか、と言っている」
盗神はしばらく考えたが、
盗神
「んー、俺には王宮の水は合わねぇ。合わねぇ水飲むくらいなら死んじまった方がいいや。それに人の下につくってのが嫌だね」
蓮也
「奇遇だな、私も王宮ってのは性に合わない」
盗神
「はぁ?」
蓮也
「なら、・・・これならどうだ?」
「・・・私の友にならないか?そして、友としてその力を私に貸してくれないか?」
「それならいいだろう?私の下につくわけではないし、王宮に使えるわけではない。私とお前は対等な立場だ」
盗神
「王子様のお友達だって?ちょっとアンタ、変わりすぎているぜ?」
蓮也はこの言葉を聞いて、自分がエウリディーチェ に言った言葉を思い出した。
(私がエウリディーチェに以前、「あなたは変わっている」と言ったが、私もそうかもな・・・)
盗神
「わかったよ!変わり者の王子様!ツレになってやらぁ!」
と言って、ゲラゲラと笑いだした。
モロー
「俺はキュリアス・モローって言うんだ、よろしくな!」
蓮也
「私は蓮也だ。この宝物庫の中に神酒がある。我が友よ、それを飲んで宴としよう」
神酒は王国の祭祀の時以外は使用を禁止されていた。その禁を王子である蓮也は破ったが、蓮也にとっては、友と得るという儀式であったのかもしれない。
二人は神酒で友情の杯を酌み交わした。
このキュアリス・モローは、王国からは独立した蓮也直属の秘密特殊部隊の隊長を務めることとなる。
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