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黄金戦争の章
デネブの遊牧民討伐
しおりを挟むロータジア王国には優秀な三人の将軍「三将星」がおり、その一人が神槍将軍・デネブである。
彼は「正しくあれば美しい」という真善美の哲学を持って戦う騎士であった。
また、戦場で美しく散ることを掲げた「桜梅夢幻騎士団(おうばいむげんきしだん)」を率いていた。
エイジアス大陸の中央には商業国家ヴィナーヤカがあり、北方の遊牧騎馬民族国家フェンリガルドに苦しめられていた。ヴィナーヤカは大きな経済力を持っていたため、その資金によって各国から支援を受けたり、傭兵を雇ったりし、その遊牧民の侵攻を食い止めてきた。
この遊牧国家の侵攻を二つの傭兵団が防いできた。一つは最強の傭兵と言われるスサノオである。もう一つは英雄ロキである。ロキが英雄と言われる所以は、ロキの軍団を見ただけで恐れ慄き、敵は戦わずして逃げるからである。しかし、ヴィナーヤカは、今回はこの二つの傭兵団に依頼することができなかった。そこで、ロータジアを頼った。
ロータジア王泰斗は、財政面で少し困窮していたため、これを承諾し、デネブ将軍を派遣することにした。ここには、少し経緯があり、元帥舞也は国防が疎かになるため反対していた。しかし、宰相のバイジンが財政面で泰斗王に進言したため、これが採用となった。
デネブ将軍が、アルトドール侵攻の急報を聞いたのは、遊牧民との戦いが始まってからである。デネブ軍はよく戦い、遊牧民を数里退かせたが、遊牧民は川を渡り防御陣を敷いた。
アルビオレ
「いかがなさいましょう」
デネブ
「川を渡り、敵陣を撃破する」
アルビオレ
「もしこちらの半数が川を渡ったところを叩かれた場合、こちらが完全に不利となりますが・・・」
デネブ
「確かに兵法学上※はそうである。しかし、今回はそれを無力化し、相手が油断しているところを急襲する」
デネブは河岸に立ち、川の向こうの敵に対しつつ、愛用の槍・永久氷結神槍を掲げる。
デネブ
「氷結エンチャント、用意!」
デネブ率いる桜梅夢幻騎士団は氷属性の武器を持った騎士集団である。
通常、氷結魔法は、相手の身体を凍らせて足止めするために使う。そのため、壁役が氷結属性を用いることも多い。
アルビオレ
(デネブ隊長はここから相手の足止めをするつもりなのか?しかし、あそこまでの距離はウィザードクラスの魔力が必要・・・。我々騎士団では無理なのでは?)
すると、デネブは氷結エンチャントされた槍で川を突き刺した。川は徐々に氷結する。それを見た騎士団全員がデネブの意図を理解した。
デネブ
「全員、エンチャントした槍で川を氷結させつつ進め!」
アルビオレ
(さすがは隊長だ。川を凍らせ、足場を作り、敵の虚を突いて一気に攻めるつもりだ)
そして、デネブが先頭で切り込む。
遊牧民は騎射隊であるため、弓を引いて射程に入ってくるまで待っている。
敵軍との間合いに入るとデネブに向かって矢が一気に放たれる。デネブは馬から降り、槍を回転させ、その矢の全てを弾き返す。そして、更に身体を旋回させ、敵陣へと突っ込む。
前後左右に旋回するデネブの槍の攻撃に突きいる隙はなく、その回転に触れるものは血飛沫を撒き散らすこととなる。
デネブ
「桜梅夢幻流奥義・桜梅乱舞!」
デネブが旋回移動し、敵の血が散じる様子は、花が乱舞するようであった。
この技は攻防一体の技であり、敵がデネブに物理攻撃を仕掛けても、槍の回転で防がれる。そして、その槍に触れたものは、血飛沫を撒き散らすこととなる。そして、複数の敵を相手にする範囲攻撃なのである。弱点としては、攻撃目標を定めにくいことと、致命傷を与えるまではなかなかいかないことである。しかし、相手を恐怖させ、混乱させるには十分な技である。
デネブ
「桜梅乱舞・雪の舞!」
この旋回槍術に氷結魔法をエンチャントすると、打たれた相手は氷結し、血飛沫も氷結されながら飛び散る。こうして相手の戦意が落ちたところを、部下のアルビオレたちが騎馬突撃をしかけ、敵を仕留める。
遊牧民たちは意表を突かれたところに、このデネブたちの連携攻撃に遭い、総崩れとなって逃げ出した。
デネブ
「全軍、止めぃ!」
デネブは慎重に深追いはせず、元の河岸まで撤退した。
遊牧民の人数はデネブ軍よりも多く、もし守備陣を立て直され反撃を受けた場合、相当の打撃を受けることとなると思ったからである。また、遊牧民の逃げ足も早かった。
数時間すると、再び遊牧民は元の陣へと戻ってきた。
アルビオレ
「このまま逃げてくれればよかったのですが、敵も懲りませんね」
デネブ
「こちらは精鋭と言えども、相手の数は多い。相手が強気なのはそのためであろう」
(しかし、気になるのは、相手は今回の侵攻に拘っているようにも見える。膠着状態にあるし、このような犠牲を出して、彼らにメリットはあるのだろうか?)
この遊牧騎馬民族には、アルトドールから報酬が出ていた。そして、犠牲者の分までその報酬は補償されるという内容であった。
アルビオレ
「隊長、もう一度、突撃しますか?何度もやれば、相手も怖気付いて逃げて行き、我らも王都へと帰還できます」
デネブ
「いや、先ほどの攻撃は相手の虚を突いたから成功したのだ。今度は相手も油断なく待ち構えるため、同じことをするとこちらも犠牲が多くなる」
アルビオレ
「それでは、こちらが相手を無視して退き、王都に帰還しますか?」
デネブ
「そのようなことをしてみよ、ロータジアの威厳は失墜し、我ら騎士団も末代まで軟弱者として罵られようぞ」
アルビオレ
「では、どうすれば」
デネブ
「アルビオレ、戦争は正しく・美しく勝たねばならん。そこでだ・・・」
デネブは兵の半数をアルビオレに持たせ、夜間の内に河を渡らせた。
デネブはもう半数を率い、川の上流へと向かった。
デネブ
「全軍、氷結エンチャント用意!」
「氷壁よ、出現せよ!」
デネブが槍で河を刺すと、河が氷結し、巨大な氷の壁が現れた。
デネブ
「全軍、目の前の氷壁を更に氷結させよ!」
氷の壁は、更に巨大化し、大きな氷のダムとなった。そして、その氷のダムに水が堰き止められた。
その次の朝、遊牧民たちは河の水面が低くなっていることに気づく。しかし、それがデネブの策略であることまでは見抜けなかった。
デネブ
「氷結崩壊撃!」
氷結の仕組みがわかるものは、氷結の破壊もわかる。デネブが壁の一部を槍で突き刺すと、そこから四方八方にひび割れが起こり、やがて氷壁のダムは一気に決壊した。そして、下流域へと河の水が津波となって遊牧民を襲う。遊牧民たちは水に慣れておらず、逃げる者、逃げ遅れ溺れ死ぬ者多数であった。
そうした混乱の中、待機していたアルビオレ将軍が遊牧民に奇襲を加える。その中でアルビオレ将軍は、敵の大将を撃破した。大将を失った遊牧民たちは指揮系統を失ったため、散り散りになって逃げていった。
こうしてデネブ将軍の知略によって、遊牧民討伐は成功し、デネブ隊は、アルトドール軍が侵攻する王都ロータジアへ急ぎ引き返すのであった。
※孫子の兵法
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