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プロローグ
ロータジア王国の滅亡
しおりを挟むこれは神代と言われる遠い太古の物語。
ロータジアという国では、この日、第一王子の此花舞也とエウリディーチェの結婚式であった。
エウリディーチェのフィオーレ家は元々は商人であり、貴族株を買って貴族となった。
ロータジア王の泰斗王は、貴族勢力を抑えるために、貴族株を持つフィオーレ家と婚姻関係を結ぼうと考えた。つまり、政略結婚である。
エウリディーチェは、第二王子の此花蓮也と永遠(とわ)の愛を誓う関係であったが、その想いとは裏腹に、政治的な流れに呑み込まれていった。
式はロータジア城で行われ、国中の王族・貴族が招かれている。
エウリディーチェ
(あの日、蓮也様は私を永遠に愛して下さるとおっしゃっていただきました)
何ヶ月も前のことをエウリディーチェは思い出していた。
この頃、銀色の仮面をつけた黒ずくめの男、通称「シルバーマスク」がエウリディーチェの住むフィオーレ家の屋敷に頻繁に侵入している、という事件が起こっていた。そのため屋敷内では金品を倉庫に厳重に保管し警備を固めていた。
そして、ある日、そのシルバーマスクがエウリディーチェの部屋に侵入したのである。
エウリディーチェ
(・・・シルバーマスク!?)
「・・・盗人さん、ここは私の部屋です。金品はございません。出て行かないと大声を上げますわよ!」
エウリディーチェは手足が震えそうになるのを抑えながらそう言った。
すると、シルバーマスクは、その自分の仮面に手をかける。
シルバーマスク
「エウリディーチェ 、私だ」
仮面を取ると蓮也であった。
エウリディーチェ
「蓮也様・・・!」
エウリディーチェは驚いたが、冷静さを取り戻し気丈に振舞う。
エウリディーチェ
「蓮也様が私のところへこんなお時間に何の御用でしょう?何度も申しますが、ここは私の部屋なので盗むものなどございませんわよ」
蓮也
「それは・・・」
エウリディーチェは、自分の胸の中が熱く感じた。
蓮也
「・・・あなたのハートを盗みにきた」
エウリディーチェは再び驚いた。が、今度は頬を少し赤らめながら微笑んだ。
エウリディーチェ
「まぁ、いけない人ですね」
「しかし、私のハートを奪える方は、私を護り永遠に愛してくれる方のみです」
蓮也
「もちろん、そのつもりだ」
エウリディーチェ
「蓮也様、私の目を見て、ちゃんと言ってください」
蓮也
「エウリディーチェ、あなたを護り永遠の愛を誓おう」
このようなやりとりがあり、二人はその夜結ばれた。
しかし、その誓いも政治の前では無力であった。
蓮也は、自分の兄の舞也がエウリディーチェと結婚することについて、複雑な気持ちであった。自分のような人格が不完全な者よりも、兄の舞也のような人格者の方が、エウリディーチェは幸せになるのではないか?と思うのであった。尊敬する兄が、エウリディーチェと結婚するのであれば、それはそれでよいのではないか、とも思っていたのであった。そうすることで、国もうまくいくであろう、という政略的なことも理解していた。合理的かつ総合的に考えて、それでいいのだ、と思っていたが、もちろん感情面では複雑な気持ちであった。
エウリディーチェは、幼い頃から両親から厳格な教育されていた。それは、フィオーレ家が元々は貴族ではないため、娘には貴族らしい教養をつけたいとする願望であった。しかし、その教育が厳しすぎたため、エウリディーチェは心を閉ざし、心を病むようになっていった。ある時、始祖女神・木花咲耶姫の残した教えに触れ、心に小さな光が灯り、自分の道を歩み出した。しかし、それも今、閉ざされようとしているのである。
エウリディーチェ
(私は結局、お父様の敷いた道を行くことになる。私の人生は、あの頃と変わらなかった)
(・・・けど、それでいいの?エウリディーチェ?)
(あの時のように、きっと蓮也様が私のハートを奪いにくる。なぜなら、あの方の私に言った言葉は真実だから・・・)
蓮也は、彼女の事、兄のこと、王国の事など、考えを長い時間巡らしていたため、昨晩、あまり眠ることができなかったため、ウトウトとし始めた。このまま、眠りの世界へ行き、式の出席はしないことにしよう、とさえ思った。
蓮也
「・・・あなたのハートを盗みにきた」
「あなたを護り永遠の愛を誓おう」
微睡(うたたね)の中で、そのような言葉を思い出した。
この時、蓮也は胸に熱いものを感じた。
蓮也
(あの時、俺は彼女と永遠の誓いを立てた。今、その誓いを果たす時ではないのか、蓮也よ)
今度は彼女ごと、奪い、自分の領土であるパドマリアに持ち帰るか、国を捨てて二人で旅にでるか、という選択になるであろうが、そうしたことは後から考えればいい、そう蓮也は思った。もしかしたら、父や兄を敵に回し、王国の三将軍や教育係のゼイソンとも戦うことになるかもしれない、しかし、これをしなければ一生後悔することになると思った。
蓮也はすぐに愛馬・ケントニスに乗ってロータジア城を目指した。
一方、城では既に式が始まっていた。
エウリディーチェは美しいウエディングドレスに身を包み、舞也の隣にいた。
司祭が二人に向かって話しかける。
司祭
「二人は永遠の愛を誓いますか?」
舞也は蓮也とエウリディーチェとの関係を知っていた。そのためこの婚姻は破棄するよう泰斗王に申し出ていたが、却下された。そこで、当日、王族・貴族が集まる中で自らが破断にしようと考えていた。「誓わない」と言うか、何も言わずにその場から立ち去るかを、その瞬間まで考えていた。
その時である。
会場の至る所から爆音がし、建物の窓ガラスや壁、柱などが割れた。
エウリディーチェにその破片が当たらぬよう、すぐ様、舞也は彼女を守ろうとする。
舞也
「何者だ?」
ベルゼブブ
「我が名はベルゼブブ、お前たちの全てを破滅する者だ」
舞也
「その名は・・・古(いにしえ)に封印されし邪神王か」
ベルゼブブ
「邪神だと?我らこそが正真正銘・正統な神なのだ」
「それを今から教えてやろう」
巨大なハエに乗り、手には槍を持ち、目は鋭く光っており、全身から紫色の異様なオーラが迸っている。
舞也
(何という異様で危険なオーラだ・・・。先王ですら苦戦したと聞く邪神王の中でも最強と言われるベルゼブブ。私はよいとして、彼女を何とか逃さねば・・・)
そして、多くの悪魔たちがロータジアの兵士を攻撃し出した。周囲からは火の手が上がり出す。
ベルゼブブ
「我らこそ、お前たちを裁くことができる神と呼べる存在なのだ」
舞也
「なんだと?」
ベルゼブブ
「なぜなら、人間の方が多くの罪を犯しているのは明らかだ」
「第一王子・舞也よ、お前はお前は弟から恋人を奪い、この女から人生を奪おうとしている。それを無意識に行っていて、快感を感じているのだ。人のもの奪い、奪った者を支配するという快感を得ようとしているのだ」
確かに、舞也はやろうと思えば、今日の式に出ないという選択肢もあった。しかし、自分がギリギリまで迷っていたのは、王国を混乱させるかもしれないと言う思いからであった。しかし、ベルゼブブが指摘するようなことに対しては、完全に否定することもできない部分もあるかもしれない。
舞也は部下にエウリディーチェを逃すよう指示し、自身はプロテクションをかけつつ、ベルゼブブの攻撃に対応しようとする。時間を稼げば、デネブ・アルタイルなどの将が駆けつけ何とかなると考えていた。
その頃、神弓騎士アルタイルは一体の悪魔と戦っていた。
その悪魔の名はレヴィアタン。純粋な竜から進化した悪魔であり、身体の竜鱗は硬く、更にドラゴンメイルを纏っている。そして、手には矛を持っている。
アルタイルは間合いをとりながら弓を引くが、レヴィアタンの竜鱗とドラゴンメイルを貫くことができない。逆に、弓を放った後の一瞬の隙にレヴィアタンの矛が飛んで来て、アルタイルは痛手を負ってしまう。
レヴィアタン
「お前はその弓でどれだけ多くの人間を殺して来たのだ。この罪深き人間よ」
「たまたま、お前が弓の才能がある故、多くの人間が死んだではないか。そこに罪の意識はないのか?」
アルタイル
「私は必要があって戦ってきた。必要がなければ無駄な戦いはしない」
レヴィアタン
「殺すことに意義があるのなら、今、お前を殺すことだって意義があるのだ」
「お前が死ねば、多くの者が死なずに済む」
アルタイル
「ならば、お前は誰も殺したことがないというか?」
レヴィアタン
「お前は王命に従って殺しているだけであろう。私は、お前よりは意義のある殺し方をしてきた。そして、今回も意義ある死をお前に与えよう」
一方、神槍騎士デネブはベルフェゴールと名乗る悪魔と対峙していた。
デネブは回転する槍法により、100の兵を相手にできると言われていたが、この時は、この一体の悪魔に苦戦していた。デネブの冷属性エンチャントがベルフェゴールに効かないという相性の悪さもあった。
ベルフェゴール
「あーら、なかなかいい男じゃなーい?」
「降参するなら私のしもべにしてあげてもいいわよ?w」
デネブ
「こちらは人間の女性にしか興味ないんでね」
「丁重にお断りさせてもらうよ」
ベルフェゴール
「あら、小憎たらしい口の利き方!痛めつけて殺してあげるわ!」
「あなたに弄ばれた女の恨み、私が代表して殺してあげるわ!」
デネブ
「ヒドイ言われようだな。私は、私に関係した全ての女性を愛して来た。そして、彼女たちを今も忘れてはない。ただ、話しても無駄なようだ。ならば、力と技を以って教えてやろう」
ベルフェゴール
「ほざけ!この罪多き愛欲の悪人が!」
この時代、ある一定の進化を辿った者を悪魔と呼んだ。しかし、それは人間側からの呼称である。その悪魔側からは、彼らの論理がある。彼らは人間の煩悩に対して懲罰するという正義を持っている。彼らからすると、戦地を多く駆け巡って来たアルタイルや女性関係の多かったデネブの罪を裁いている、という論理である。
ゼイソンは二体の悪魔、アスモデウスとマモンに対峙していた。
王国随一と噂され、元帥職にも就いたことがかつてはあったが、老齢故に名誉職だとも噂されていた。しかし、その噂通り、ユニーク級大悪魔二体を相手に獅子奮迅の戦いを繰り広げた。しかし、そのため、全体の守備の指示をする余裕はなくなっていた。
アスモデウス
「なんだ、このジジイ、暗黒属性魔法が効かないぞ」
「仕方ない、物理攻撃に切り替えるか」
マモン
「我ら二人を同時に相手できる人間がいるとは驚きだ」
アスモデウス
「あの時のロータジアの王以来だな」
マモン
「やはりロータジアは油断できぬ」
アスモデウス
「まあ、今回はあの戦闘マニアの王も、忌々しき蒼き魔術師もいないからな大丈夫そうだが」
ゼイソン
(まさか・・・、先王の時に封印された悪魔・邪神たちが復活したというのか?これはマズいことになったのぅ・・・)
悪魔たちの作戦は、舞也からゼイソン・デネブ・アルタイルを引き離すというものであり、急襲したこともあり、ロータジア兵は大混乱に陥った。ゼイソンは悪魔二体に釘付けにされているため、王国最強と言われた彼でもこの事態の収集は不可能になりつつあった。
一方、舞也はベルゼブブと対峙していたが、舞也は防戦するのがやっとであった。ベルゼブブはこの悪魔の軍団の中でも軍団長と言われ、悪魔・邪神中最凶である。
舞也
(相手の狙いは恐らく私か父上であろう。父上やエウリディーチェは逃げてくれただろうか?私も限界だ、実力が違いすぎる。ここは私も逃げに徹するしかないな)
その時である。
舞也の身体は背後から剣で胸を一突きされいた。
舞也
「ぐはぁ!」
舞也は自分の胸から剣が出ているのを見て自身の死を悟った。
舞也
(蓮也、後は頼んだぞ・・・。お前は古の蓮也王の再来だ。お前ならできる・・・)
舞也はその場に倒れ、絶命した。
サトゥルヌス
「ベルゼブブ、お前にしては時間がかかっていたな」
ベルゼブブ
「これはサトゥルヌス様、ちょっと遊んでいただけですよ」
サトゥルヌス
「我らを封印した一族だ。また、何をするかわからん。油断はするな」
ベルゼブブ
「かしこまりました」
サトゥルヌス
「王は殺してきた。ほぼ目的は達成した故、後は雑魚の始末をしろ」
ベルゼブブ
「わかりました、一人残らず抹殺します」
その時、蓮也はパドマリアから馬を飛ばし、王都に入っていたが、城から火の手が上がっていることから異変に気づき、急ぐこととした。
蓮也
(城が燃えている。何者かに襲撃されたのであろうか?エウリディーチェは無事か?まあ、兄さんやゼイソンたちもいる。多分、大丈夫だとは思うが、何だ、この異様な胸騒ぎは)
そこに神速将軍モローが現れる。
モロー
「蓮也様、行ってはなりませぬ!」
蓮也
「どうしたというのだ、これは!」
モロー
「パドマリアがアルトドールから襲撃を受けました!」
「そして、何者かがロータジア城を襲撃し、泰斗王と舞也様は討死!ゼイソン様、デネブ将軍、アルタイル将軍の安否は不明!」
蓮也
「なんだと?ゼイソンたちが居ながらなぜ父と兄が・・・」
(パドマリアにはロビンたちが居るから何とか守れるはずだ)
(・・・エウリディーチェ、無事でいてくれ)
(俺は約束した。あなたを護ると・・・その約束を今果たしにいく!)
モロー
「どうも相手は人間ではなく龍族であったとのこと。もしかしたら、封印されし悪竜・邪神が復活したのかもしれません」
蓮也
「なんだと」
モロー
「ゼイソン様たちが健在なら、彼らと戦力を合わせ戦うことも可能かもしれませんが、その安否が確認されていません。もし、既に彼らも既にこの世を去っていた場合、こちらも駆けつける意味がありません。ここは一旦、確実な選択をするため、パドマリアへ撤退し、戦力を揃えましょう」
蓮也
「いや、俺は行く!」
モロー
「無茶です!泰斗王や舞也様の無念はわかります。しかし、ここは落ち着いて再起を図りましょう」
蓮也
「止めるな、モローよ。俺は約束を果たしにいくのだ」
「お前はパドマリアに帰り、城を守れ」
モロー
「蓮也様を差し置いて、パドマリアへは帰れるはずがありますでしょうか」
「それでも行かれるのであれば・・・私もお供します!」
蓮也
「すまんな・・・モローよ」
その頃、ゼイソンはアスモデウス、マモンを相手に互角に戦っていたが、泰斗王・舞也討死、デネブ・アルタイル両将軍の安否不明の知らせを受けて、現状で戦闘を継続することが不可能であることを悟り、少ない残存兵力をまとめ撤退する判断をした。そこに、蓮也とモローが到着する。到着する途中、城内の敵と幾度となく遭遇し、数回のバトルを繰り広げて来ており、蓮也もモローも疲弊し、無傷ではなかった。
蓮也
「爺、無事だったか!」
ゼイソン
「しかし、王と舞也様が・・・」
蓮也
「それは聞いている」
「エウリディーチェはどうしている・・・?」
ゼイソン
「姫君も安否不明でございます・・・」
蓮也
「ぬぅ・・・」
ゼイソン
「若君、ここは撤退致しましょう。現状は相手の力の方が数段上ですじゃ」
蓮也
「いや、俺は行く!」
ゼイソン
「若、なりません」
蓮也
「エウリディーチェとの約束がある」
ゼイソン
「姫君も恐らくは」
蓮也
「止めるな、爺!」
その時、アスモデウスのカーズ(呪い属性魔法)が蓮也を襲う。
それを蓮也は剣でなぎ払おうとするが、左手に命中し腕が麻痺する。
アスモデウス
「煩悩多き未熟な者よ、お前は多少、剣ができるようだが、それが奢りというものだ」
マモン
「ジジイと違ってあの小僧二人は暗黒魔法でカモれそうだな」
そして、更に、魔団長ベルゼブブまでもが追撃にやってきた。
ゼイソン
「ベルゼブブ・・・こやつはマズい!」
蓮也
「俺がやる!」
ゼイソン
「ベルゼブブだけは相手してはなりませぬ。先王様でも唯一、苦戦した相手です。今の我らでは無理ですじゃ」
蓮也
「それなら先王の力をここで超えるまで!」
ゼイソン
「御免!!」
蓮也
「爺・・・なぜだ・・・」
ゼイソンは蓮也の顔面にオーラを放った。スリープ魔法である。
不意を突かれた蓮也はその場で瞬時に睡眠状態となり、崩れ落ちそうになるところをゼイソンとモローは抱えた。
ゼイソン
「城の奥から強大なオーラを感じる。恐らくサトゥルヌスが来ている。その場合、我らの力では無理じゃろう」
「モロー殿、若をひとまず安全な場所へ。できるだけ遠くの地へお運びくだされ」
モロー
「了解しましたが、ゼイソン様はいかがなされるのですか」
ゼイソン
「ワシはここをできるだけ長く食い止める」
モロー
「わかりました・・・どうぞ、ご無事で」
ゼイソン
「少し浮遊魔法をかけておいてやろうかの。これで、若の身体は軽くなる。モロー殿、若を背負って行ってくれ」
モロー
「かたじけない・・・これにて御免!」
モローは眠っている蓮也を抱えて城を脱出した。
そして数時間が経った。
既に日は傾いており、遠くには夕日が落ちようとしていた。
遠くからは数多くの敵兵の襲来が確認できた。
モロー
(これは賭けだな。蓮也様を木陰に置いておき、私は敵中へ身を投じ、できるだけ遠くへ敵を誘導しよう。必ず誰かが蓮也様を見つけてくれるはずだ・・・)
モローは蓮也を木陰に置いて、敵中へと駆けて行った。
そして、悪魔たちの前で仁王立ちし、こう叫ぶ。
モロー
「悪魔たちよ、俺がロータジアの第二王子だ!」
「捕まえれるものなら捕まえてみよ!」
悪魔たちはモローを第二王子だと思って襲いかかっていく。
モロー
(これが最後になるかもしれないぜ・・・蓮也様、どうぞご無事で)
「神速走行・・・全開!」
モローの足からオーラが迸り、超高速で駆け抜ける。そして、モローは悪魔たちを引き継いれて、何方(いずかた)もなく消えていった。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
蓮也は目を覚ますと、ベッドの中にいた。
老爺
「おや、騎士さん、起きなさったかな」
老婆
「よかった、よかった」
蓮也
「ここはどこだ?」
老爺
「ここはリリービレッジと言いますが、辺鄙な片田舎ですじゃ」
「それにしても、道でお倒れになっていたので、運びましたじゃ」
蓮也
「それはかたじけない、感謝する」
老婆
「いいのですよ、ゆっくりしていきなされ」
「食事も用意しているから、食べておいき」
蓮也は出された食事に手をつけた。
蓮也
(左手が痺れて動かない・・・あの時にやられたのが原因か)
(まあ、片手でも戦えないこともない)
(リリービレッジ、少し聞いたことがある。確かロータジアから西の地ある、どこにも属さない小さな村だったな)
(それより、今からどうすれば。流石にロータジア城に戻ってももはや・・・)
(我が領土・パドマは無事だろうか。そこをまず確認にいくか)
少しの間蓮也は思案していた。
気分転換のために、蓮也は老夫婦の家から外に出た。
外はすぐ近くに小川が流れており、小さな草花が咲いていた。
すると、遠くからフワフワと小さな光る物体が近づいて来る。
ポコー
「ポコー!」
「蓮也ー!」
「大変ポコー!」
ポコーという竜の妖精である。
蓮也の幼い頃からの数少ない友人であった。
蓮也
「やあ、ポコー」
ポコー
「やあ、ポコーじゃないぽこ」
「パドマリアが大変ぽこ!」
蓮也
「パドマリアがどうした?」
ポコー
「パドマリアにアルトドールが攻め込んで来て、城をぼっこんぼっこんにしていったぽこ」
「んで、城はぐっちょんぐっちょんのばっこんばっこんぽこよ!」
蓮也
「つまり、パドマ城は陥落したということか?」
ポコー
「そーいうぽこ!」
蓮也
(アルトドールがこのタイミングで仕掛けて来る、これは今回の魔軍によるロータジア襲撃と関係あるのだろうか)
(ロビンたちがいても城は陥落するとは・・・)
(これで、パドマリアに戻る選択肢は消えたか)
蓮也は冷静になり、全てを失った現実を悟り、それを受け入れることとした。
そして、まず傷ついた身体や動かなくなった手を回復させることを選択した。
蓮也は老夫婦の家に戻り、二人に聞いた。
蓮也
「手が痺れて動かない。この近くに医者はいないか?」
村には一人、医者がおり、蓮也はそこで診療を受けることとなった。
医者
「よく鍛えられた身体をしてますな。とりあえず、傷に対しては消毒と薬をつけておきましたし、すぐに治ることでしょう。しかし、腕の痺れはどこも悪いところはないですな。とすると、これはヒーラーの案件ですな」
蓮也
「ヒーリングか」
医者
「私も少しはヒーリングの心得がありますが、ちょっと私には手に負えませぬ。隣村のフラワリングビレッジに凄腕の老ヒーラーがいますので、そちらへ行ってくだされ」
「道は、この村の西口から真っ直ぐ一本ですじゃ」
蓮也
「わかった」
絶望している暇はない、と言い聞かせ、すぐに蓮也は行動する。
老夫婦にはお礼の世話代として、少しのお金を渡した。
老婆
「いいんですよ、お金なんか」
蓮也
「いや、気持ちだ。受け取ってくれ」
蓮也
(ゼイソン、モロー、せめてお前たちは生きていてくれ)
(必ず、どこかで落ち合おう)
蓮也は祖国と、父・兄・恋人・友人を同時に失った。
基本的に悲しむということをしないタイプであるが、恐らく蓮也にもそうした気持ちはあったであろう。しかし、悲しんでいる暇はないと考え、すぐに行動に移す。もちろん、その悲しみは無意識に沈殿していき、それが彼の無表情の悲しみを作っていくのである。
蓮也の旅はここからはじまった。
【解説】
ここから蓮也はフラワリングビレッジへと歩き出し、未来から来た緑の目の少女・ヘティスと出会うこととなる(詳しくはハナツオモイ編へ)。
爬虫類から進化した龍族・ドラゴンを人間は「悪魔」と呼んでいる。「悪魔」の上位が「邪神」、その上位が「邪神王」である。
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