3 / 8
ビッチ(処女)、王都名物を食べる
しおりを挟む
王都に来てから、三週間も時間が経った。一ヶ月でも二週間でもない。三週間だ。微妙だ。すごく微妙だ。でもそのくらいの時間が経過した。
なぜ俺がそんな微妙な時間の経過を記憶しているかというと、この三週間ずっと同じことをしていたからだ。
飯食って、散歩して、赤ちゃん使い魔の相手をして、クソして寝る。
それだけ。本当にそれだけ。これが真実、紛れもない現実。盛ってない俺の日々だ。
セオドアの家に来てから、俺はそんな怠惰な生活を送っていたのだ。マジで猫まっしぐらどころか、豚まっしぐらだ。
馬鹿野郎、働け。仕事しろ。そんな風に言われても文句は言えないわけだが、今の俺にはこれが精一杯だった。
ないのだ、やることが。つまり暇だった。
俺にとって、これは予想外のことだった。騎士セオドアは気まぐれで俺を連れ帰り、風呂に入れて小綺麗にして空腹を満たして、ちょっとした善行をしておしまいかと思った。
元魔王軍の幹部に施しを与えた騎士……それだけで彼の名声は挙がるだろう。そうやって俺にちょっぴり優しいことをして、用が済んだら放り出す。もしくは奴隷として売る。そんなことだろうと思っていた。
ところが、現実はどうだ。
客人として扱われ、毎日清潔な寝床と衣服を用意され、美味い食事まで用意される。俺が使役する赤ちゃん使い魔たちも同じ扱いを受けていた。使用人のハンナは、赤ちゃん使い魔たちのおむつを替え、素晴らしい粥やビスケットを作り……そして毎日外遊びをさせて昼寝までさせる。
俺より面倒見てんじゃん。育児慣れしたおばちゃん半端ねぇよ。俺いらねぇじゃん。
とにかく、そんな日々を送っていたわけだ。
これは悪いことではない。寧ろいいことだ。それは理解している。しかし、俺はどうしても理解できないことがあった。
セオドアが、元魔王軍幹部の俺をなぜこのように扱っているのか。
考えれば考えるほど、俺には分からなかった。
どんなに考えても分からないから、ここに来て五日目くらいから俺は難しいことを考えるのをやめた。
難しいこと考えるより、美味い飯の方が魅力的だ。
「アシュリー、王都名物が気に入ってくれたようだね」
昼食後のお茶を飲みながら、セオドアは柔らかな声で言った。テーブルには俺とセオドア、そして使い魔赤ちゃんたちしかいない。
俺はセオドアから与えられた手触りの良い服を着て、屋敷の料理人が作ったという王都名物を頬張っていた。
木の実や豆を蒸して擂り潰し、蜂蜜と和えてビスケットに挟んだ菓子だ。
いわゆる、郷土料理の一つだろう。これがなかなか美味い。人間のくせにこんな美味いの作るなんて、悔しくて体がビクンビクンしちゃう。
「甘くて美味い。これ、なんていう菓子なの?」
「ずんだ」
「はい?」
「これは、“ずんだ”という菓子だ」
俺の田舎にありそうな名前じゃん。王都にいながら実家が懐かしくなった。
「なぁ、セオドア……」
「なんだい? 可愛いアシュリー」
やめて、そんな低い色っぽい声で言われたら色んなところがビクンビクンしちゃう。
「俺に仕事とか与えてくれないの? ハンナに聞いたら、素人は黙っとれとブチギレられちまって……」
「ふふっ、ハンナは相変わらずだな。君は屋敷で楽しんでくれていればいいのだよ。可愛い使い魔たちの相手もあるし、君は屋敷で自由にしててくれ」
お茶を飲み終えて立ち上がり、セオドアは俺の髪を撫でた。男らしい指が頬を滑り、小さな顎に添えられる。
「私は仕事に行ってくる。いい子にして待っていてくれるかい?」
「はひ……いい子で待ってましゅ……っ」
“ずんだ”を齧りながら、ビクンビクンしてる俺。そんな言われ方しちゃったら、もういい子にしてるしかない。
俺と使い魔たちを残して、セオドアは仕事に行ってしまった。
窓の外は見事な青空。菓子を食べたら、使い魔たちを散歩に連れて行ってやろう。こいつら外に出さないと最近寝ないからな……。
使い魔たちを散歩させるために、部屋で服を着させていると、ハンナが廊下を走る音が聞こえた。太ましい……いや、ふくよかなハンナの足音はすぐに分かる。
「どうしたの? ハンナ」
「あらあら! アシュリー様。ごめんなさいねぇ、うるさくしちゃって」
扉を開けて声をかけると、封筒を抱えたハンナが困り顔でうろうろしていた。
「セオドア様、仕事に必要な書類を忘れていってしまったんですよ。騎士団の訓練所まで届けないといけないんですけど、私は他のお使いも頼まれているもんですから……」
太い腕に抱えられた封筒には、騎士団のものであることを示す封蝋があった。
「なぁんだ。それなら、俺が行くよ」
「アシュリー様が? そ、そんな小間使いのようなことお客様にさせるなんて……!」
「いや大丈夫。小間使い以下の絶賛無職中だから。ちょうど使い魔たちを散歩させようと思ってたし、俺が届けてやるよ」
ハンナには世話になってるし、このくらいどうと言うことはない。
俺はセオドアが働いているという訓練所の場所を教わり、封筒を持って使い魔たちと屋敷を出た。
なぜ俺がそんな微妙な時間の経過を記憶しているかというと、この三週間ずっと同じことをしていたからだ。
飯食って、散歩して、赤ちゃん使い魔の相手をして、クソして寝る。
それだけ。本当にそれだけ。これが真実、紛れもない現実。盛ってない俺の日々だ。
セオドアの家に来てから、俺はそんな怠惰な生活を送っていたのだ。マジで猫まっしぐらどころか、豚まっしぐらだ。
馬鹿野郎、働け。仕事しろ。そんな風に言われても文句は言えないわけだが、今の俺にはこれが精一杯だった。
ないのだ、やることが。つまり暇だった。
俺にとって、これは予想外のことだった。騎士セオドアは気まぐれで俺を連れ帰り、風呂に入れて小綺麗にして空腹を満たして、ちょっとした善行をしておしまいかと思った。
元魔王軍の幹部に施しを与えた騎士……それだけで彼の名声は挙がるだろう。そうやって俺にちょっぴり優しいことをして、用が済んだら放り出す。もしくは奴隷として売る。そんなことだろうと思っていた。
ところが、現実はどうだ。
客人として扱われ、毎日清潔な寝床と衣服を用意され、美味い食事まで用意される。俺が使役する赤ちゃん使い魔たちも同じ扱いを受けていた。使用人のハンナは、赤ちゃん使い魔たちのおむつを替え、素晴らしい粥やビスケットを作り……そして毎日外遊びをさせて昼寝までさせる。
俺より面倒見てんじゃん。育児慣れしたおばちゃん半端ねぇよ。俺いらねぇじゃん。
とにかく、そんな日々を送っていたわけだ。
これは悪いことではない。寧ろいいことだ。それは理解している。しかし、俺はどうしても理解できないことがあった。
セオドアが、元魔王軍幹部の俺をなぜこのように扱っているのか。
考えれば考えるほど、俺には分からなかった。
どんなに考えても分からないから、ここに来て五日目くらいから俺は難しいことを考えるのをやめた。
難しいこと考えるより、美味い飯の方が魅力的だ。
「アシュリー、王都名物が気に入ってくれたようだね」
昼食後のお茶を飲みながら、セオドアは柔らかな声で言った。テーブルには俺とセオドア、そして使い魔赤ちゃんたちしかいない。
俺はセオドアから与えられた手触りの良い服を着て、屋敷の料理人が作ったという王都名物を頬張っていた。
木の実や豆を蒸して擂り潰し、蜂蜜と和えてビスケットに挟んだ菓子だ。
いわゆる、郷土料理の一つだろう。これがなかなか美味い。人間のくせにこんな美味いの作るなんて、悔しくて体がビクンビクンしちゃう。
「甘くて美味い。これ、なんていう菓子なの?」
「ずんだ」
「はい?」
「これは、“ずんだ”という菓子だ」
俺の田舎にありそうな名前じゃん。王都にいながら実家が懐かしくなった。
「なぁ、セオドア……」
「なんだい? 可愛いアシュリー」
やめて、そんな低い色っぽい声で言われたら色んなところがビクンビクンしちゃう。
「俺に仕事とか与えてくれないの? ハンナに聞いたら、素人は黙っとれとブチギレられちまって……」
「ふふっ、ハンナは相変わらずだな。君は屋敷で楽しんでくれていればいいのだよ。可愛い使い魔たちの相手もあるし、君は屋敷で自由にしててくれ」
お茶を飲み終えて立ち上がり、セオドアは俺の髪を撫でた。男らしい指が頬を滑り、小さな顎に添えられる。
「私は仕事に行ってくる。いい子にして待っていてくれるかい?」
「はひ……いい子で待ってましゅ……っ」
“ずんだ”を齧りながら、ビクンビクンしてる俺。そんな言われ方しちゃったら、もういい子にしてるしかない。
俺と使い魔たちを残して、セオドアは仕事に行ってしまった。
窓の外は見事な青空。菓子を食べたら、使い魔たちを散歩に連れて行ってやろう。こいつら外に出さないと最近寝ないからな……。
使い魔たちを散歩させるために、部屋で服を着させていると、ハンナが廊下を走る音が聞こえた。太ましい……いや、ふくよかなハンナの足音はすぐに分かる。
「どうしたの? ハンナ」
「あらあら! アシュリー様。ごめんなさいねぇ、うるさくしちゃって」
扉を開けて声をかけると、封筒を抱えたハンナが困り顔でうろうろしていた。
「セオドア様、仕事に必要な書類を忘れていってしまったんですよ。騎士団の訓練所まで届けないといけないんですけど、私は他のお使いも頼まれているもんですから……」
太い腕に抱えられた封筒には、騎士団のものであることを示す封蝋があった。
「なぁんだ。それなら、俺が行くよ」
「アシュリー様が? そ、そんな小間使いのようなことお客様にさせるなんて……!」
「いや大丈夫。小間使い以下の絶賛無職中だから。ちょうど使い魔たちを散歩させようと思ってたし、俺が届けてやるよ」
ハンナには世話になってるし、このくらいどうと言うことはない。
俺はセオドアが働いているという訓練所の場所を教わり、封筒を持って使い魔たちと屋敷を出た。
0
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる