隣国王を本気にさせる方法~誘拐未遂4回目の王女は、他国執着王子から逃げ切ります~

猪本夜

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第二章 王との見合い

16 お見合い一日目1

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 アシュワールドの王宮に到着早々、一度王と顔合わせのみ行うということで、レティツィアは応接室に通された。本来なら『謁見の間』での対面なのだろうが、レティツィアの訪問は極秘扱いということで、こういう対面となった。

 アシュワールド王と挨拶を交わしながら、レティツィアは内心驚いていた。王が美形だという噂は聞いていたが、ここまでとは。黒髪に濃い青の瞳が印象的で、端正な顔立ちは大変美しい。表面上、王女然に振る舞い王と会話をするが、内心謎の対抗心がむくむくと湧き上がっていた。

 どういったものかといえば、「うちのお兄様だって美形で王に負けていない!」である。レティツィアは『兄たちは一般的にも王族としても、優しくてカッコよくてこの世で一番素敵』と本気で思っているブラコンである。そのため、「カッコよさでは兄と同等かもしれないけれど、他はどうかしら」と明後日の方向に思考が飛んでいた。

 そして、レティツィアが我に返ったのは、お見合い期間の滞在のためにレティツィアに用意された部屋へ案内された後だった。変なことに対抗心を燃やしている場合ではない。レティツィアには大事な目的がある。

 『この子はナイな』作戦にて、王の気持ちをレティツィアへ向けさせないようにしなければならない。

 先ほど対面した王を必死に思い出す。少なくとも、表面上は王はレティツィアに一目惚れはしていなさそうに感じた。しかし、まだ油断はできない。カルロの言うように『わがまま』で『ずうずうしい』女性になりきり、レティツィアを婚約者になどしたくないと思ってもらうのだ。

 問題は、レティツィアに成り切れるかどうかである。人に嫌われるかもしれない、というような行動をレティツィアなりにしないできたつもりなのだ。意識的に演じるというものは、なかなか辛いものがある。しかしそうも言っていられない。レティツィアなりに考えた結果、まずは『わがまま』や『ずうずうしい』ことを言うことを許される環境づくりをしなければ、ということである。

 レティツィアと王のお見合い期間は、明日から七日間。王には仕事があり時間は限られるが、何度か王と対面する機会が設けられることになっている。スケジュールは決まっていないが、前日には対面する予定を教えてもらえることになっている。

 そして、明日の予定はすでに聞いた。昼食を一緒に過ごし、その後一時間ほど王宮内の庭を散策することになっている。

 王とお見合いをする時間以外は、自由と言われている。レティツィアはその自由時間が楽しみだった。第二王子を意識しないでよい自由時間。ただの散歩でもいいので、ビクビクせずとも楽に過ごせると嬉しい。

 お見合い一日目。

 レティツィアは昼食会場に案内された。先に席に着いたレティツィアから遅れること五分、王が着席すると昼食は開始された。最初ということで、調べれば分かる程度の当たり障りのない会話をする。そしてデザートを頂いた後で、内心緊張したレティツィアは、表面上はにこやかに口を開いた。

「陛下、先に確認したいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「何でしょう」
「このお見合いの趣旨を伺っておきたいのです。陛下と婚約することになれば、いずれは王妃となります。この一週間は、基本的には陛下と対面して会話をすることが目的だと聞いております。王妃の資質があるかどうかを確認されることもあるとは思っていますが、それ以上に陛下との相性を重視しているのではと感じました。つまりは、王と妃ということよりも、陛下がわたくしに対し、結婚後も夫婦として支えあっていける相手なのかどうか、それを確かめる一週間なのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか?」
「そうですね、おおむね、その趣旨で合っています」
「分かりました。では、それはわたくしにも確かめることを許されている、と思ってもよろしいですね?」

 簡単に言うなら、王がレティツィアと相性がいいか確認すると同時に、レティツィアも王と相性がいいのか確認するぞ、と言っているのである。王がレティツィアを見極めるだけではないのだ。
 少しだけ王の口角が上がった気がした。レティツィアは王に面白がられているのかも、と感じたが、ここで引けない。

「もちろん、俺が王女を確認するのだから、王女が俺に同じことをするのに否やはないですよ」
「それをお聞きして、安心致しました。王と妃とはいえ、二人の間では普通の夫婦と同じですもの。陛下には、妻に求めるものがございましょう。そしてわたくしにも、夫に求めるものがございます。ですが、わたくしたちは王と他国の王女。きっと今のままでは、七日あっても本来のお互いというものを知ることはできないのではないでしょうか」
「……一理ありますね。では、王女はどうしたいのでしょう。何か希望がありますか?」
「もしよろしければ、七日間、陛下と会う時間のみ、王と王女ではなく、疑似的な夫婦を演じられればと。つまり、『夫婦ごっこ』をやりたいのですわ」

 王は手を口元へやり、言葉を発さない。王は何を思っているのか分からない表情のため、レティツィアは内心、怖いと悲鳴を上げながら続ける。

「わたくしには、理想の夫像というものがあります。きっと陛下に何かをお願いすることもあるでしょう。ただ、できれば陛下には、『夫婦ごっこ』の間は、聞ける範囲でわたくしの願いを夫の立場で聞いていただきたいのです。もちろん、陛下にも、わたくしに妻として聞いてほしい願いがあれば、おっしゃっていただければと思います。そうやって七日間過ごせば、互いの事を知り得ますし、わたくしたちの相性がよいかどうか、少しは判断が付くのではないでしょうか」

 しばらく無言だった王は、口元にあった手を退け頷いた。

「いいでしょう。王女の希望通り、夫婦を演じることにしましょう」
「ありがとうございます」

 ふう、とレティツィアは内心息を吐く。ここまでは上手くいった。あと一つ、『わがまま』や『ずうずうしい』ことを言うことを許される環境づくりをしなければならない。

「では、わたくしのことはレティツィアとお呼びください」
「俺のことは、オスカーと呼んでください」
「はい、オスカー様。さっそくですが、わたくしの夫像を話させていただいても、よろしいでしょうか」

 オスカーが頷く。レティツィアはぎゅっとテーブルに隠れて見えない手を握りしめて気合を入れた。

「実は、わたくし、………………ブラコンなのです」
「………………………………………………そうですか」

 若干、戸惑い気味に返事をするオスカーを無視して、レティツィアは続けた。

「兄が三人いるのですが、小さい頃から可愛がられてきました。お兄様たちは愛してると言ってくださいますし、強くて優しくて、わたくしはお兄様たちが大好きです。わがままを言っても全て聞いて下さいますし、お兄様たちのような方が、夫としてのわたくしの理想なのです。ですから、オスカー様には、お兄様のように、わたくしの『わがまま』を聞いていただきたいのです」

 またもや、オスカーは自身の手を口元へやり、考える様子を見せたが、しばしの無言のあと、手を退けた。

「聞ける範囲でということでしたね。それであれば、妻の『わがまま』を聞きましょう」

 やったぁぁぁ! 環境づくり、成功です! レティツィアは万歳したいところを必死に抑えたが、顔面はゆるゆるだった。ほぼ満面の笑みをオスカーに向ける。

「ありがとうございます、オスカー様!」

 これで、『この子はナイな』作戦が開始できる。

「それで、俺に聞いてほしい『わがまま』とは?」

 レティツィアはパチパチと瞬きした。環境づくりに必死すぎて、すぐにそう聞かれるとは思っていなかった。

「えっと……、そういえば、この後は庭を散策すると聞いております。オスカー様には、エスコートではなく、手を繋いで歩いていただきたいです」
「……それだけ?」
「……? はい。あ、他にも流れで『わがまま』を言う時があれば、聞いていただきたいです」
「……なるほど。分かりました」

 オスカーは立ち上がると、レティツィアの傍へやってきた。そして手を出す。さっそく『わがまま』を聞いてくれようとしているらしい。レティツィアはオスカーの手を握る。二人は手を繋いだまま、庭へ移動した。
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