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番外編 その後
43 甘い時間
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結婚式を終え、初夜を過ごした次の日の昼過ぎ、レティツィアは鏡の前の椅子に座り、侍女マリアや他の侍女たちの手によって支度を整えられていくのをぼーっと見ていた。今の幸せに気持ちが追いついていないこともあるし、昨夜の余韻がまだ残っているということもある。
お見合い中にレティツィアに貸してくれていた猫のディディーは、王妃となったレティツィアの飼い猫としてオスカーがプレゼントしてくれていた。そのディディーはレティツィアの膝の上で寛いでいる。
レティツィアの支度が終わったころ、オスカーが部屋にやってきた。先ほど別れたばかりのオスカーも風呂に入って着替えていた。
「レティはどんな姿でも可愛いね」
レティツィアに近づきながらそう言ったオスカーは、椅子に座るレティツィアをじっと見るとレティツィアの頬を触りながら親指でレティツィアの唇をなぞる。
「……なんだか艶っぽくて、今のレティは誰にも見せたくないな」
「……?」
オスカーは腰をかがめて椅子に座ったままのレティツィアの唇にキスを落とした後、レティツィアを抱き上げた。
「遅くなったけれど、昼食にしよう」
「はい」
実はレティツィアは現在自力で歩けないのである。いや、今は歩こうと思えば歩けるだろうが、オスカーが過保護にレティツィアを歩かせようとしない。
レティツィアは結婚したら初夜で夫と何をするのかを知ってはいた。レティツィアが十六歳くらいのころ、軽くではあるが教育を受けたからである。しかし聞いていた話と実体験では、まったく違っていた。もしかしたら、心の奥底でレティツィアの相手は第二王子の可能性があると思っていたのかもしれない。だからか、こういったことに恐怖をいだいていたのだろう。
しかし、オスカーは違った。レティツィアが怖がらないように気を使ってくれていた。レティツィアが色々といっぱいいっぱいで、早々に考えることを手放し、オスカーに愛されるがまま愛され、気づいたら朝。気を失うように眠りに落ち、目が覚めたら昼前だったのである。
そして、起きようとしたら、腰が痛くて立つことができなかった。だから甲斐甲斐しくオスカーが抱き上げて移動してくれるのである。
レティツィアの自室ではない部屋で遅い昼食を開始したレティツィアとオスカーは、今日の予定の話をしていた。
「本来なら離宮に行く予定でしたのに、予定を変更することになってしまい、申し訳ありません」
結婚式後、五日間はオスカーとレティツィアは休みで自由に過ごせることになっていた。実際は、オスカーは時々仕事をすることにはなるだろうが、それでもほとんどの時間を一緒にいることができる。そこで、休みの一日目から王都近郊にある離宮に行こうと言っていたのに、レティツィアの腰痛で本日の移動は念のため止めたのである。
「気にしなくていいよ。それに、俺がレティに無理をさせたことが原因だからね」
初夜の話にレティツィアは恥ずかしくて顔を赤くする。
「途中まではどうにかレティを無理させないよう耐えていたのだけれど、レティの可愛さに自制心が抑えられなくなって」
「………………」
「とにかく、今日は二人でゆっくりしよう」
「……はい」
初夜の話は終わったようで、レティツィアはほっとした。今はまだ、その話はものすごく恥ずかしいのである。
昼食後、王宮内にある温室にオスカーに抱えられたまま移動し、温室の中央に用意されたソファーベッドで二人でグダっと寛ぐ。花や木々に囲まれ、オスカーに抱き付いたまま、いろんな話をしながら、時折キスをするこの時間がすごく幸せである。
「あの、オスカー様、前に約束してくださったことを覚えていますか? わたくしが寝るときに手を繋いでくれるというお話です」
お見合いの最後の日にしてくれた約束。
「覚えているよ。毎日手を繋いであげると約束したでしょう。今日以降、毎日手を繋いで寝よう」
「覚えていて下さったのですね! ありがとうございます!」
レティツィアがこんなことをわざわざ確認するのは、理由がある。アシュワールドの王宮は、国王宮と王妃宮は別の宮殿なのである。
ヴォロネル王国では王と王妃の宮殿は一緒であったが、部屋は別。これは他の貴族もだが、夫と夫人は部屋が別なのは一般的なのだ。部屋が別なので、当然寝るときも別である。夫婦によっては寝室は一緒の夫婦もいるが、割合的には別の家庭が多い。
オスカーとレティツィアは、部屋どころか建物さえ違うため、結婚前にした約束は無しになっているかも、とレティツィアは心配だったのである。そのため、寂しがりで甘えたいレティツィアにとって、オスカーが約束を守ってくれるということに嬉しさが溢れてしまい、オスカーにキスをする。
毎日手を繋ぐだけでなく、一緒に寝てくれるつもりらしいと聞いて、三兄シルヴィオのように添い寝もしてくれるのだと、いまだ思い違いのレティツィア。もちろん、それだけの場合で終わる日もあるだろうが、今のオスカーがそれだけで済ますはずがない。
レティツィアがこんな思い違いをするのは、一応理由がある。
ヴォロネル王国に限らず、近隣の王侯貴族は、結婚したら後継者を残すというのは最大の課題である。だから、結婚時に少なくとも月に一度や週に一度はベッドを共にする、などといった契約を夫婦間で交わすことも少なくない。もちろんその日だけがベッドを共にする日になるとは限らないが、そういう契約を交わすことが多いという話をレティツィアは教育の中で聞いて知っていた。だから、今はまだそういった契約をオスカーと交わしてはいないものの、そのうち交わすものだと思っていたし、昨日初夜を迎えたばかりである。まさか昨日の今日で――と、頭にかすりもしなかったのである。
そして夜。夕食を済ませて風呂に入り、寝る準備を整えたレティツィアは、レティツィアの部屋で同じく寝る準備が整っているオスカーとベッドに入った。レティツィアは早々に先に横になり、一緒に寝てくれるオスカーを仰いで笑みを向けながら口を開いた。
「シルヴィオお兄様は、時々一緒に寝てくれることもあったのですが、朝までいてくれたことはなくて寂しかったのです。オスカー様は朝まで――……オスカー様? どうして上を脱がれるのですか!?」
「別に上は脱がなくてもいいけれど、途中で暑くなるから」
「……? 途中とは? ……っ」
オスカーに口で口を塞がれ、オスカーの手がレティツィアの体に伸びて、さすがにこれから何があるのか気づくレティツィア。唇が離れ、レティツィアは真っ赤な顔で急いで口を開いた。
「ま、まさかオスカー様、これから――」
「うん、レティが考えている通りだよ」
「そんな! 聞いていませんわ、まだ期間なども話し合いをしていませんし!」
「それって、貴族夫婦が交わすことの多い結婚契約の話? あれは俺たちには必要ないんじゃないかな。契約しなければならないほど愛がないわけではないし、お見合いではあるけれど、俺はレティを愛してるよ」
「わたくしだってオスカー様を愛していますけれども! ……あれは愛のない夫婦がする契約なのですか?」
「そうとは言い切れないけれど、一般的には政略結婚の夫婦が交わすことが多いね。後継者を残すための保険だよ。場合によっては離縁の理由にもなる。そして貴族は政略結婚が多いから、結婚契約を交わすことが普通の扱いになっているだけだよ。俺とレティは契約に縛られなくても互いに尊重していけると思うし、どうしても気になることがあるなら話し合いで解決すればいい」
なるほど、とレティツィアが納得している間にも、オスカーはレティツィアの寝間着を半分ほど脱がせてしまっている。あわあわと恥ずかしいやら慌てるやらで、レティツィアは自身の寝間着を引っ張るが、無駄な努力だった。
「俺は今日もレティを愛でたいんだけれど……レティはそんなに嫌? 俺に触られたくないんだ?」
オスカーは伏し目がちに元気を失ったような声をだす。悲しませてしまったと、レティツィアは慌てて口を開いた。
「違います! 嫌とかではないのです! オスカー様に触られるのは嫌いではな……い……?」
あれ、言い方を間違えたかも。レティツィアはニコっと笑うオスカーを見つめた。
「嫌いではないということは好きということだよね?」
触られるのが好きなどと、恥ずかしすぎて肯定できるわけがない。うぐぐ、と何も告げれずにいるレティツィアにオスカーはキスを落とす。もう観念したほうがよさそうだ。予想していなかったので戸惑いがあるし、恥ずかしいけれど、オスカーの熱のある視線も、優しい手も、温かい温度も愛しいのだ。
「や、優しくしてくださいね!? いじめないでくださいね!?」
「優しくする努力はするよ。いじめるつもりだってないけれど、そういえば、レティの兄上が俺にいじめられたら手紙を書くよう言っていたね。レティはベッドで俺にいじめられたら、兄上に告げ口する?」
「……しませんわ!」
あうあうとそう言うしかない。それに、ベッドのことなど兄に告げ口などできるはずがない。
結局、その日も朝が来るまでめいいっぱい愛され、幸せな時間を過ごすことになるのだった。
お見合い中にレティツィアに貸してくれていた猫のディディーは、王妃となったレティツィアの飼い猫としてオスカーがプレゼントしてくれていた。そのディディーはレティツィアの膝の上で寛いでいる。
レティツィアの支度が終わったころ、オスカーが部屋にやってきた。先ほど別れたばかりのオスカーも風呂に入って着替えていた。
「レティはどんな姿でも可愛いね」
レティツィアに近づきながらそう言ったオスカーは、椅子に座るレティツィアをじっと見るとレティツィアの頬を触りながら親指でレティツィアの唇をなぞる。
「……なんだか艶っぽくて、今のレティは誰にも見せたくないな」
「……?」
オスカーは腰をかがめて椅子に座ったままのレティツィアの唇にキスを落とした後、レティツィアを抱き上げた。
「遅くなったけれど、昼食にしよう」
「はい」
実はレティツィアは現在自力で歩けないのである。いや、今は歩こうと思えば歩けるだろうが、オスカーが過保護にレティツィアを歩かせようとしない。
レティツィアは結婚したら初夜で夫と何をするのかを知ってはいた。レティツィアが十六歳くらいのころ、軽くではあるが教育を受けたからである。しかし聞いていた話と実体験では、まったく違っていた。もしかしたら、心の奥底でレティツィアの相手は第二王子の可能性があると思っていたのかもしれない。だからか、こういったことに恐怖をいだいていたのだろう。
しかし、オスカーは違った。レティツィアが怖がらないように気を使ってくれていた。レティツィアが色々といっぱいいっぱいで、早々に考えることを手放し、オスカーに愛されるがまま愛され、気づいたら朝。気を失うように眠りに落ち、目が覚めたら昼前だったのである。
そして、起きようとしたら、腰が痛くて立つことができなかった。だから甲斐甲斐しくオスカーが抱き上げて移動してくれるのである。
レティツィアの自室ではない部屋で遅い昼食を開始したレティツィアとオスカーは、今日の予定の話をしていた。
「本来なら離宮に行く予定でしたのに、予定を変更することになってしまい、申し訳ありません」
結婚式後、五日間はオスカーとレティツィアは休みで自由に過ごせることになっていた。実際は、オスカーは時々仕事をすることにはなるだろうが、それでもほとんどの時間を一緒にいることができる。そこで、休みの一日目から王都近郊にある離宮に行こうと言っていたのに、レティツィアの腰痛で本日の移動は念のため止めたのである。
「気にしなくていいよ。それに、俺がレティに無理をさせたことが原因だからね」
初夜の話にレティツィアは恥ずかしくて顔を赤くする。
「途中まではどうにかレティを無理させないよう耐えていたのだけれど、レティの可愛さに自制心が抑えられなくなって」
「………………」
「とにかく、今日は二人でゆっくりしよう」
「……はい」
初夜の話は終わったようで、レティツィアはほっとした。今はまだ、その話はものすごく恥ずかしいのである。
昼食後、王宮内にある温室にオスカーに抱えられたまま移動し、温室の中央に用意されたソファーベッドで二人でグダっと寛ぐ。花や木々に囲まれ、オスカーに抱き付いたまま、いろんな話をしながら、時折キスをするこの時間がすごく幸せである。
「あの、オスカー様、前に約束してくださったことを覚えていますか? わたくしが寝るときに手を繋いでくれるというお話です」
お見合いの最後の日にしてくれた約束。
「覚えているよ。毎日手を繋いであげると約束したでしょう。今日以降、毎日手を繋いで寝よう」
「覚えていて下さったのですね! ありがとうございます!」
レティツィアがこんなことをわざわざ確認するのは、理由がある。アシュワールドの王宮は、国王宮と王妃宮は別の宮殿なのである。
ヴォロネル王国では王と王妃の宮殿は一緒であったが、部屋は別。これは他の貴族もだが、夫と夫人は部屋が別なのは一般的なのだ。部屋が別なので、当然寝るときも別である。夫婦によっては寝室は一緒の夫婦もいるが、割合的には別の家庭が多い。
オスカーとレティツィアは、部屋どころか建物さえ違うため、結婚前にした約束は無しになっているかも、とレティツィアは心配だったのである。そのため、寂しがりで甘えたいレティツィアにとって、オスカーが約束を守ってくれるということに嬉しさが溢れてしまい、オスカーにキスをする。
毎日手を繋ぐだけでなく、一緒に寝てくれるつもりらしいと聞いて、三兄シルヴィオのように添い寝もしてくれるのだと、いまだ思い違いのレティツィア。もちろん、それだけの場合で終わる日もあるだろうが、今のオスカーがそれだけで済ますはずがない。
レティツィアがこんな思い違いをするのは、一応理由がある。
ヴォロネル王国に限らず、近隣の王侯貴族は、結婚したら後継者を残すというのは最大の課題である。だから、結婚時に少なくとも月に一度や週に一度はベッドを共にする、などといった契約を夫婦間で交わすことも少なくない。もちろんその日だけがベッドを共にする日になるとは限らないが、そういう契約を交わすことが多いという話をレティツィアは教育の中で聞いて知っていた。だから、今はまだそういった契約をオスカーと交わしてはいないものの、そのうち交わすものだと思っていたし、昨日初夜を迎えたばかりである。まさか昨日の今日で――と、頭にかすりもしなかったのである。
そして夜。夕食を済ませて風呂に入り、寝る準備を整えたレティツィアは、レティツィアの部屋で同じく寝る準備が整っているオスカーとベッドに入った。レティツィアは早々に先に横になり、一緒に寝てくれるオスカーを仰いで笑みを向けながら口を開いた。
「シルヴィオお兄様は、時々一緒に寝てくれることもあったのですが、朝までいてくれたことはなくて寂しかったのです。オスカー様は朝まで――……オスカー様? どうして上を脱がれるのですか!?」
「別に上は脱がなくてもいいけれど、途中で暑くなるから」
「……? 途中とは? ……っ」
オスカーに口で口を塞がれ、オスカーの手がレティツィアの体に伸びて、さすがにこれから何があるのか気づくレティツィア。唇が離れ、レティツィアは真っ赤な顔で急いで口を開いた。
「ま、まさかオスカー様、これから――」
「うん、レティが考えている通りだよ」
「そんな! 聞いていませんわ、まだ期間なども話し合いをしていませんし!」
「それって、貴族夫婦が交わすことの多い結婚契約の話? あれは俺たちには必要ないんじゃないかな。契約しなければならないほど愛がないわけではないし、お見合いではあるけれど、俺はレティを愛してるよ」
「わたくしだってオスカー様を愛していますけれども! ……あれは愛のない夫婦がする契約なのですか?」
「そうとは言い切れないけれど、一般的には政略結婚の夫婦が交わすことが多いね。後継者を残すための保険だよ。場合によっては離縁の理由にもなる。そして貴族は政略結婚が多いから、結婚契約を交わすことが普通の扱いになっているだけだよ。俺とレティは契約に縛られなくても互いに尊重していけると思うし、どうしても気になることがあるなら話し合いで解決すればいい」
なるほど、とレティツィアが納得している間にも、オスカーはレティツィアの寝間着を半分ほど脱がせてしまっている。あわあわと恥ずかしいやら慌てるやらで、レティツィアは自身の寝間着を引っ張るが、無駄な努力だった。
「俺は今日もレティを愛でたいんだけれど……レティはそんなに嫌? 俺に触られたくないんだ?」
オスカーは伏し目がちに元気を失ったような声をだす。悲しませてしまったと、レティツィアは慌てて口を開いた。
「違います! 嫌とかではないのです! オスカー様に触られるのは嫌いではな……い……?」
あれ、言い方を間違えたかも。レティツィアはニコっと笑うオスカーを見つめた。
「嫌いではないということは好きということだよね?」
触られるのが好きなどと、恥ずかしすぎて肯定できるわけがない。うぐぐ、と何も告げれずにいるレティツィアにオスカーはキスを落とす。もう観念したほうがよさそうだ。予想していなかったので戸惑いがあるし、恥ずかしいけれど、オスカーの熱のある視線も、優しい手も、温かい温度も愛しいのだ。
「や、優しくしてくださいね!? いじめないでくださいね!?」
「優しくする努力はするよ。いじめるつもりだってないけれど、そういえば、レティの兄上が俺にいじめられたら手紙を書くよう言っていたね。レティはベッドで俺にいじめられたら、兄上に告げ口する?」
「……しませんわ!」
あうあうとそう言うしかない。それに、ベッドのことなど兄に告げ口などできるはずがない。
結局、その日も朝が来るまでめいいっぱい愛され、幸せな時間を過ごすことになるのだった。
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