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最終章
115 修羅場と事実1 ※ユリウス視点
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ああ、これは修羅場になるな。分かっていたことだけれど、ユリウスは、部屋にハイゼン侯爵夫人とユリアとテオバルトがやってきた時に、そう思った。
ユリウスがハイゼン家へ到着した日、父がさっそく三人を呼んだ。ユリアは何も言わなかったが、侯爵夫人とテオバルトは、ユリウスを見て「なぜこいつがここに!」と似た表情で叫んだ。
まさかユリウスが後継者になるということを、父が父の家族に話をしていないとは思っていなかった。その場で父がユリウスを後継者にすると言うと、侯爵夫人とテオバルトが口々に抗議した。
「冗談ではありませんわ! 後継者はテオバルトでしょう!」
「そうです、父上! 正当な後継者は俺です!」
「正当?」
二人の抗議を冷ややかに見る父を見て、ユリウスはあれ? と思った。父はこんな表情をする人だっただろうか。ユリウスの前では紳士で、ユリウスにいつも笑顔を向けていた。最近の勧誘だけは強引だったけれど、それ以外では優しい雰囲気の人だった。しかし、彼らが部屋に来てからというもの、笑みはどこにもなく、ずっと冷え冷えとしている。
「私は一度もテオバルトを後継者にするとは言っていない。ハイゼン家の長男というだけだ」
「長男ですから、後継者なのでしょう! ユリウスの方が、数か月年上と言っても、母上の息子である俺が正当な後継者です! 妾でもない外に産ませた息子など――」
「妾ではない。彼女は第二夫人になるはずだった。君が邪魔しなければな」
父が侯爵夫人を冷ややかに見つめた。建国貴族であるハイゼン家は第三夫人まで認められている。実際、母は第二夫人にと話が上っていたという。
「この子以外にも父のいない子がいたのですよ! この子があなたの子ではない可能性も――」
「サーヤ嬢に父がいないのは、事情があると分かっているだろう。それに、私とこれだけ似ていて、まだユリウスが私の子でないと言うつもりか?」
侯爵夫人は、父とユリウスを睨みつけている。
「昔の話を蒸し返すのはもういい。ここに呼んだのは、君たちの意見を聞くためではない。ユリウスが後継者になるという決定事項を伝えるためだ」
「なっ」
「それと、先日ミーゼス侯爵、君の兄に手紙を送った。テオバルトはミーゼス家で引き取ってもらうことにした。昨日ミーゼス侯爵から承知したと連絡を貰っている。数日中には迎えが来るから、テオバルトは準備をしておくように」
何の話だ。なぜテオバルトが追い出されるのだ。ユリウスは訳が分からず、ただ父を見るばかり。そして寝耳に水なのはテオバルトと夫人も同じようで、顔を真っ赤にして抗議しだした。その怒号に顔色変えることなく、父は口を開いた。
「テオバルト、最初にお前は正当な後継者だと言ったな。ハイゼン家の後継者たるものの、正当とは何を指す?」
「そ、それはもちろん、第一夫人である母の子で……」
「違う。ハイゼン家は建国貴族だ。その辺にいる新興貴族と違い、当主が後継者と認めれば後継者になれるものではない。血筋が一番大事なんだ」
「はい、ですから――」
「私の子ではないお前が、どう転んでも後継者になどなれない」
唖然としたテオバルトが、侯爵夫人を見た。侯爵夫人は怒っているものの、父に何も言い返さない。父の言葉が違うなら違うと、早く言い返さないと、とユリウスは侯爵夫人を見るが、侯爵夫人はまったく声を出さない。
「私が知らないと思っていたか? 言わなければ気づかないと? ……ユリア、お前はテオバルトが私の子ではないと気づいていただろう。違うか」
ずっと無表情で無言だったユリアに、父が声を掛けた。ユリアはため息を付くと、顔をまっすぐ向けて口を開いた。
「わたくしの名はお父様が付けてくださいました。ハイゼン家の子には、代々『ユリ』が付く名を付けるのだと、教わりましたわ。ですがテオバルトには付いていない。だから、そういうことなのだろうと思っていました」
「その通りだ。最初からテオバルトが私の子ではないと知っていたから、『テオバルト』と名付けた。幼いユリアに話したことをユリアは覚えているのに、君は覚えていないんだな」
ユリウスの名も、父が付けたと母に聞いた。そして父の名はユリスである。
「君は私が気づかなければ騙しとおせると思ったのだろうが、たとえ私が騙された間抜けだったとしても、テオバルトは後継者にはなれなかっただろう。建国貴族の後継者手続きは、石と血の契約がいる。ハイゼン家の血統ではないと石が判定するのだから、後継者になどなれない。ああ、それとも、後継者になれるか、石に判定を委ねてみるか? 一か八か、石が気まぐれに後継者だと認めてくれるかもしれないぞ?」
父は冷ややかな顔を、初めて変えて笑っている。石が気まぐれを起こすわけないと分かっているのだ。
「テオバルト、父が誰だか知りたければ、母に聞くといい。私が教えても構わないが、私は責任は取らないからそのつもりで。テオバルトはミーゼス侯爵が引き取るとして、君はうちにいたければ、いるといい。一応、まだ第一夫人なのだから。テオバルトと一緒に去るならば、離縁して行ってくれ」
話は終わったのか、父は席を立った。
「ユリウス、やることがたくさんある。行こう」
「……はい」
ユリウスは、はっとして返事をした。あまりにも話が衝撃的過ぎて、姉のように感情を顔に出していたかもしれない。父の後を付いて行きながら、今日姉と離れたばかりなのに、すでに姉に会いたいと思うのだった。
ユリウスがハイゼン家へ到着した日、父がさっそく三人を呼んだ。ユリアは何も言わなかったが、侯爵夫人とテオバルトは、ユリウスを見て「なぜこいつがここに!」と似た表情で叫んだ。
まさかユリウスが後継者になるということを、父が父の家族に話をしていないとは思っていなかった。その場で父がユリウスを後継者にすると言うと、侯爵夫人とテオバルトが口々に抗議した。
「冗談ではありませんわ! 後継者はテオバルトでしょう!」
「そうです、父上! 正当な後継者は俺です!」
「正当?」
二人の抗議を冷ややかに見る父を見て、ユリウスはあれ? と思った。父はこんな表情をする人だっただろうか。ユリウスの前では紳士で、ユリウスにいつも笑顔を向けていた。最近の勧誘だけは強引だったけれど、それ以外では優しい雰囲気の人だった。しかし、彼らが部屋に来てからというもの、笑みはどこにもなく、ずっと冷え冷えとしている。
「私は一度もテオバルトを後継者にするとは言っていない。ハイゼン家の長男というだけだ」
「長男ですから、後継者なのでしょう! ユリウスの方が、数か月年上と言っても、母上の息子である俺が正当な後継者です! 妾でもない外に産ませた息子など――」
「妾ではない。彼女は第二夫人になるはずだった。君が邪魔しなければな」
父が侯爵夫人を冷ややかに見つめた。建国貴族であるハイゼン家は第三夫人まで認められている。実際、母は第二夫人にと話が上っていたという。
「この子以外にも父のいない子がいたのですよ! この子があなたの子ではない可能性も――」
「サーヤ嬢に父がいないのは、事情があると分かっているだろう。それに、私とこれだけ似ていて、まだユリウスが私の子でないと言うつもりか?」
侯爵夫人は、父とユリウスを睨みつけている。
「昔の話を蒸し返すのはもういい。ここに呼んだのは、君たちの意見を聞くためではない。ユリウスが後継者になるという決定事項を伝えるためだ」
「なっ」
「それと、先日ミーゼス侯爵、君の兄に手紙を送った。テオバルトはミーゼス家で引き取ってもらうことにした。昨日ミーゼス侯爵から承知したと連絡を貰っている。数日中には迎えが来るから、テオバルトは準備をしておくように」
何の話だ。なぜテオバルトが追い出されるのだ。ユリウスは訳が分からず、ただ父を見るばかり。そして寝耳に水なのはテオバルトと夫人も同じようで、顔を真っ赤にして抗議しだした。その怒号に顔色変えることなく、父は口を開いた。
「テオバルト、最初にお前は正当な後継者だと言ったな。ハイゼン家の後継者たるものの、正当とは何を指す?」
「そ、それはもちろん、第一夫人である母の子で……」
「違う。ハイゼン家は建国貴族だ。その辺にいる新興貴族と違い、当主が後継者と認めれば後継者になれるものではない。血筋が一番大事なんだ」
「はい、ですから――」
「私の子ではないお前が、どう転んでも後継者になどなれない」
唖然としたテオバルトが、侯爵夫人を見た。侯爵夫人は怒っているものの、父に何も言い返さない。父の言葉が違うなら違うと、早く言い返さないと、とユリウスは侯爵夫人を見るが、侯爵夫人はまったく声を出さない。
「私が知らないと思っていたか? 言わなければ気づかないと? ……ユリア、お前はテオバルトが私の子ではないと気づいていただろう。違うか」
ずっと無表情で無言だったユリアに、父が声を掛けた。ユリアはため息を付くと、顔をまっすぐ向けて口を開いた。
「わたくしの名はお父様が付けてくださいました。ハイゼン家の子には、代々『ユリ』が付く名を付けるのだと、教わりましたわ。ですがテオバルトには付いていない。だから、そういうことなのだろうと思っていました」
「その通りだ。最初からテオバルトが私の子ではないと知っていたから、『テオバルト』と名付けた。幼いユリアに話したことをユリアは覚えているのに、君は覚えていないんだな」
ユリウスの名も、父が付けたと母に聞いた。そして父の名はユリスである。
「君は私が気づかなければ騙しとおせると思ったのだろうが、たとえ私が騙された間抜けだったとしても、テオバルトは後継者にはなれなかっただろう。建国貴族の後継者手続きは、石と血の契約がいる。ハイゼン家の血統ではないと石が判定するのだから、後継者になどなれない。ああ、それとも、後継者になれるか、石に判定を委ねてみるか? 一か八か、石が気まぐれに後継者だと認めてくれるかもしれないぞ?」
父は冷ややかな顔を、初めて変えて笑っている。石が気まぐれを起こすわけないと分かっているのだ。
「テオバルト、父が誰だか知りたければ、母に聞くといい。私が教えても構わないが、私は責任は取らないからそのつもりで。テオバルトはミーゼス侯爵が引き取るとして、君はうちにいたければ、いるといい。一応、まだ第一夫人なのだから。テオバルトと一緒に去るならば、離縁して行ってくれ」
話は終わったのか、父は席を立った。
「ユリウス、やることがたくさんある。行こう」
「……はい」
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