Blue Star: Echoes

れみっしゅ

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Echo.01:風のなかの灯

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夜が明ける直前の空は、いつも淡い青を孕んでいる。

東京から少し離れた山間の小さな町。その公立図書館の屋上に、私はいた。

周囲には人影もなく、風だけが静かに吹き抜けていく。
眼下のガラス越しには、講演を待つ子どもたちの姿が見えた。

彼らは皆、小学生。
けれど、この子たちは**「星に名前があること」**を知っていた。

いや、それだけじゃない。
彼らは、“星には記憶が宿っている”という考えを、自然と受け入れているのだ。

「夢を叶えるために、空を見るんだよ」
「寂しくなったとき、ブルースターを見つけたらいいんだ」

それを“知識”ではなく、“感覚”として受け取っていた。

私は、かつてその感覚を言葉にしようと必死だった。
だが今、それを**誰かが“語り継いでくれている”**という事実が、胸に染みていく。

まるで風に触れた瞬間、そこに誰かの声が宿るように。



「耀作先生、そろそろ時間です」

声をかけてきたのは、若い女性スタッフ――いや、かつての教え子でもある。

椎名絢音。
彼女は今、ブルースター・アーカイブスの研究部門リーダーとして働いている。

私よりも語りが上手で、思慮が深くて、それでいていつもまっすぐだ。

「今日は“語り手の継承”がテーマです。子どもたち、楽しみにしてますよ」

私は笑って頷くと、階段を降りた。



講演室に入ると、子どもたちが一斉にこちらを見た。

「こんにちは。今日は、“星の音”の話をします」

ざわつく教室。だけど、それでいい。

「昔、ある星が一人の男の子の耳元でこう言ったんだ。“君の願いは、ちゃんと届いたよ”って」

笑う子もいれば、不思議そうな顔をする子もいる。

でも、その一言が誰かの記憶に残るかもしれない。

語りとは、**“響きを残すこと”**なのだから。



講演後、ひとりの少年が近づいてきた。

「先生……この花、もらったんです」

手にしていたのは、ブルースター。

「お母さんが言ってました。“誰かの夢の花”だって。
だから、僕もこれ、大切にしたいなって……」

その言葉に、私は何も言えなかった。
ただ、彼の手にある花が、10年前の想いの残響だと確かに感じた。

「それ、きっと君の願いを守ってくれるよ」

そう言うと、少年は小さく頷いて走っていった。



帰り道、絢音と二人で坂を下りながら、彼女が呟いた。

「“語る”って、やっぱり“種まき”ですね」

「……“種”か」

「はい。でも、“芽を出すか”は、誰にも分からない。
だから、きっと語り手には、“信じる力”がいるんだと思います」

私は黙って空を見上げた。

そこには、あの頃と変わらない、
だけど確かに受け継がれた“ブルースター”が、静かに瞬いていた。



夜。

自宅の書斎に戻り、古びたノートを開く。

恵が遺した最後の言葉。

「夢って、誰かが語るたびに、響きになるのかもしれないね」

その一節の横に、私はそっと書き足した。

“Echoes are dreams in motion.”
(響きとは、動いている夢である)

音が届く限り、夢は終わらない。

語る者がいて、聴く者がいて。
そして、また誰かが空を見上げる限り――

ブルースターは、永遠に咲き続ける。
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