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Echo.02:ノートに咲いた星
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放課後の図書室は、ひとけが少ない分、光が綺麗だった。
夏の午後。校庭のセミの声を遠くに聞きながら、僕は読みかけの本を閉じて、次に何を読もうか迷っていた。
棚の奥にあった、少し色あせた本。
背表紙には金の文字で「星にまつわる100の物語」と書かれていた。
ぱらぱらとめくっていくと、目に飛び込んできたのは一輪の花の写真だった。
青くて、小さくて、でもまっすぐに咲いている花。
名前は――ブルースター。
その横には、こう書かれていた。
“この花には、誰かの夢が宿っていると信じられています”
夢が、花の中に?
僕は、それがどういう意味なのか分からなかった。
でもなぜか、その言葉が胸の奥に、やさしく刺さった。
◇
家に帰って、母に訊いてみた。
「お母さん、ブルースターって知ってる?」
「あら、あの青い花でしょ?お母さん、昔もらったことがあるわ」
「誰から?」
「お父さんよ」
その言葉に、少しだけ胸が締めつけられた。
僕のお父さんは、もういない。
3年前、病気で亡くなった。
あの日から、家の中には静けさがずっと残っている。
でも、母のその一言で、ほんの少し、家の空気が動いた気がした。
◇
次の日、図書室に戻った僕は、花のページを開いて、自由帳に書き写した。
“ブルースター――夢を託された花”
隣のページには、自分で描いた絵を貼った。
青い五枚の花びら。茎はまっすぐで、空に向かって伸びている。
その上に、少しだけ勇気を出して書いた。
「お父さんへ。
僕は、まだ夢が何か分かりません。
でも、この花を見ていたら、
きっと、何か見つけられるような気がします」
◇
数日後の朝。担任の先生が言った。
「今日は特別に、語り手の先生が来てくれます。星の話をしてくれるそうですよ」
その人の名前は――稲生 耀作(いなお ようさく)先生。
図書室で読んだ“星の話”の著者と、同じ名前だった。
スライドに映ったのは、見覚えのある花の写真。
そう、ブルースターだ。
「皆さん、星に願ったことってありますか?」
教室が静まりかえる。
先生は続けた。
「誰かの願いは、言葉になって、花や星に宿ることがあります。
そして、それを受け取った誰かが――また誰かにそれを渡していく。
それが、“想いを継ぐ”ということです」
僕は、ノートの中の花を思い出していた。
「夢は、見つけるものじゃなくて、託されることもある。
君たちが誰かの願いを受け取ることがあるかもしれません。
そのとき、どうか、それを大切にしてください」
◇
講演のあと、僕は勇気を出して稲生先生に声をかけた。
「先生……この花、僕、描いたんです」
自由帳を見せると、先生はとても静かな顔で、にっこり笑って言った。
「君の中にも、もう“星”が芽生えてるんだね」
それは、誰かに褒められたというより、
誰かが“見つけてくれた”ような気がした。
◇
夜。
ベッドの中で、窓の外の空を見上げた。
空には、たくさんの星。
もしかしたら、どれかひとつが、僕のお父さんの願いかもしれない。
そう思うと、少しだけ寂しさがやわらいで、
心がふっと軽くなった。
ブルースター。
青い、小さな“夢の花”。
それはきっと、言葉にならなかった想いのかけら。
だけど僕の中で、たしかに“響いた”。
そして今、ノートの中でそっと咲いている。
夏の午後。校庭のセミの声を遠くに聞きながら、僕は読みかけの本を閉じて、次に何を読もうか迷っていた。
棚の奥にあった、少し色あせた本。
背表紙には金の文字で「星にまつわる100の物語」と書かれていた。
ぱらぱらとめくっていくと、目に飛び込んできたのは一輪の花の写真だった。
青くて、小さくて、でもまっすぐに咲いている花。
名前は――ブルースター。
その横には、こう書かれていた。
“この花には、誰かの夢が宿っていると信じられています”
夢が、花の中に?
僕は、それがどういう意味なのか分からなかった。
でもなぜか、その言葉が胸の奥に、やさしく刺さった。
◇
家に帰って、母に訊いてみた。
「お母さん、ブルースターって知ってる?」
「あら、あの青い花でしょ?お母さん、昔もらったことがあるわ」
「誰から?」
「お父さんよ」
その言葉に、少しだけ胸が締めつけられた。
僕のお父さんは、もういない。
3年前、病気で亡くなった。
あの日から、家の中には静けさがずっと残っている。
でも、母のその一言で、ほんの少し、家の空気が動いた気がした。
◇
次の日、図書室に戻った僕は、花のページを開いて、自由帳に書き写した。
“ブルースター――夢を託された花”
隣のページには、自分で描いた絵を貼った。
青い五枚の花びら。茎はまっすぐで、空に向かって伸びている。
その上に、少しだけ勇気を出して書いた。
「お父さんへ。
僕は、まだ夢が何か分かりません。
でも、この花を見ていたら、
きっと、何か見つけられるような気がします」
◇
数日後の朝。担任の先生が言った。
「今日は特別に、語り手の先生が来てくれます。星の話をしてくれるそうですよ」
その人の名前は――稲生 耀作(いなお ようさく)先生。
図書室で読んだ“星の話”の著者と、同じ名前だった。
スライドに映ったのは、見覚えのある花の写真。
そう、ブルースターだ。
「皆さん、星に願ったことってありますか?」
教室が静まりかえる。
先生は続けた。
「誰かの願いは、言葉になって、花や星に宿ることがあります。
そして、それを受け取った誰かが――また誰かにそれを渡していく。
それが、“想いを継ぐ”ということです」
僕は、ノートの中の花を思い出していた。
「夢は、見つけるものじゃなくて、託されることもある。
君たちが誰かの願いを受け取ることがあるかもしれません。
そのとき、どうか、それを大切にしてください」
◇
講演のあと、僕は勇気を出して稲生先生に声をかけた。
「先生……この花、僕、描いたんです」
自由帳を見せると、先生はとても静かな顔で、にっこり笑って言った。
「君の中にも、もう“星”が芽生えてるんだね」
それは、誰かに褒められたというより、
誰かが“見つけてくれた”ような気がした。
◇
夜。
ベッドの中で、窓の外の空を見上げた。
空には、たくさんの星。
もしかしたら、どれかひとつが、僕のお父さんの願いかもしれない。
そう思うと、少しだけ寂しさがやわらいで、
心がふっと軽くなった。
ブルースター。
青い、小さな“夢の花”。
それはきっと、言葉にならなかった想いのかけら。
だけど僕の中で、たしかに“響いた”。
そして今、ノートの中でそっと咲いている。
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