Blue Star: Echoes

れみっしゅ

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Echo.03:あの夜のメモリー

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その夜、私はずっと、手帳の端に触れていた。
それは、かつて私が**「夢の始まり」**を受け取った日の名残。

誰かの言葉に、胸を撃たれたのは初めてだった。
そして今、自分が“語る側”になっていることに、静かに震えていた。



大学の構内は、春の夜風に包まれていた。

建物の外で、夜間講義を終えた学生たちが、星空を見上げながら歩いている。

あの頃の私と、同じ目線。
いや、今の彼らのほうが、ずっと柔らかくて、世界を信じているように見えた。

「講演、お疲れさまでした」

背後から声がして、私はそっと振り返る。

事務局スタッフの青年が資料の入った箱を抱えていた。

「今日の話、すごくよかったです。“夢は語ることで響く”って……すごく沁みました」

私は苦笑して答えた。

「ありがとう。私、昔“語られた側”だったんです。
あのときの言葉が、今でもずっと残っていて――」

彼は目を丸くして言った。

「稲生先生の……講演を?」

私は頷いた。



小学生のころ、夜の校舎に集められた私たちは、
「星の語り部」と呼ばれる特別講師の話を聞いた。

それが、稲生 耀作という人だった。

そのときの私は、世界に絶望していた。

両親の離婚。転校。いじめ。
どれも劇的じゃないけれど、私の中で「未来」は一度死んでいた。

けれど――

「夢は、語られた瞬間に“音”になる。
その音は、君の中で響き続けて、やがて誰かの灯になるんだよ」

その一言で、何かが変わった。

信じることをやめなかった大人が、そこにいた。



私はその日、帰り道に手帳を買った。
星柄の、小さな手帳。

そこに、こう書いた。

「私も、誰かの灯になりたい」

あの言葉は、いまも手帳の1ページ目にある。
その言葉が、いまの私をここに立たせている。



図書館講堂の舞台裏で、私は一人で深呼吸をした。

子どもたちのざわめきが、カーテン越しに聞こえる。
けれどその音は、かつて私が聴いた夜の残響と、どこか似ていた。

「語ることは、預かること。
そして、“預かったものを返す”ことでもある」

耀作先生に教わった、もうひとつの教え。

だから私は今日、語る。

夢は、与えるだけじゃない。
引き継がれ、循環し、また芽吹くもの。



講演後、一人の少女が私に声をかけてきた。

「先生……夢って、本当に誰かに届くんですか?」

私は少し考えてから、こう言った。

「夢はね、“誰かに届いたとき”に、初めて自分の夢だったって気づくの」

少女は小さく笑って、「なんか……変なの」と言った。

その言葉に、私はかつての自分を重ねていた。



夜。

私は手帳の最後のページをめくった。
そこには、白紙のままの余白が残っていた。

「このページには、いつか“誰かの夢”を書くために残しておく」

昔、そんなことを書いた気がする。

今なら分かる。

このページは、私のものじゃない。
これから出会う誰かの響きを、預かるために空けておいたものだ。

そう思えたとき、私は少しだけ泣いた。

音もなく、そっと、静かに。



ベランダに出ると、夜風が頬を撫でていった。
空には、星が散っていた。

その中に、小さな青い星がひとつ、ひときわ強く光っていた。

ブルースター。

あの日、私が“語られた”記憶が、いまも確かに光っていた。
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