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Echo.03:あの夜のメモリー
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その夜、私はずっと、手帳の端に触れていた。
それは、かつて私が**「夢の始まり」**を受け取った日の名残。
誰かの言葉に、胸を撃たれたのは初めてだった。
そして今、自分が“語る側”になっていることに、静かに震えていた。
◇
大学の構内は、春の夜風に包まれていた。
建物の外で、夜間講義を終えた学生たちが、星空を見上げながら歩いている。
あの頃の私と、同じ目線。
いや、今の彼らのほうが、ずっと柔らかくて、世界を信じているように見えた。
「講演、お疲れさまでした」
背後から声がして、私はそっと振り返る。
事務局スタッフの青年が資料の入った箱を抱えていた。
「今日の話、すごくよかったです。“夢は語ることで響く”って……すごく沁みました」
私は苦笑して答えた。
「ありがとう。私、昔“語られた側”だったんです。
あのときの言葉が、今でもずっと残っていて――」
彼は目を丸くして言った。
「稲生先生の……講演を?」
私は頷いた。
◇
小学生のころ、夜の校舎に集められた私たちは、
「星の語り部」と呼ばれる特別講師の話を聞いた。
それが、稲生 耀作という人だった。
そのときの私は、世界に絶望していた。
両親の離婚。転校。いじめ。
どれも劇的じゃないけれど、私の中で「未来」は一度死んでいた。
けれど――
「夢は、語られた瞬間に“音”になる。
その音は、君の中で響き続けて、やがて誰かの灯になるんだよ」
その一言で、何かが変わった。
信じることをやめなかった大人が、そこにいた。
◇
私はその日、帰り道に手帳を買った。
星柄の、小さな手帳。
そこに、こう書いた。
「私も、誰かの灯になりたい」
あの言葉は、いまも手帳の1ページ目にある。
その言葉が、いまの私をここに立たせている。
◇
図書館講堂の舞台裏で、私は一人で深呼吸をした。
子どもたちのざわめきが、カーテン越しに聞こえる。
けれどその音は、かつて私が聴いた夜の残響と、どこか似ていた。
「語ることは、預かること。
そして、“預かったものを返す”ことでもある」
耀作先生に教わった、もうひとつの教え。
だから私は今日、語る。
夢は、与えるだけじゃない。
引き継がれ、循環し、また芽吹くもの。
◇
講演後、一人の少女が私に声をかけてきた。
「先生……夢って、本当に誰かに届くんですか?」
私は少し考えてから、こう言った。
「夢はね、“誰かに届いたとき”に、初めて自分の夢だったって気づくの」
少女は小さく笑って、「なんか……変なの」と言った。
その言葉に、私はかつての自分を重ねていた。
◇
夜。
私は手帳の最後のページをめくった。
そこには、白紙のままの余白が残っていた。
「このページには、いつか“誰かの夢”を書くために残しておく」
昔、そんなことを書いた気がする。
今なら分かる。
このページは、私のものじゃない。
これから出会う誰かの響きを、預かるために空けておいたものだ。
そう思えたとき、私は少しだけ泣いた。
音もなく、そっと、静かに。
◇
ベランダに出ると、夜風が頬を撫でていった。
空には、星が散っていた。
その中に、小さな青い星がひとつ、ひときわ強く光っていた。
ブルースター。
あの日、私が“語られた”記憶が、いまも確かに光っていた。
それは、かつて私が**「夢の始まり」**を受け取った日の名残。
誰かの言葉に、胸を撃たれたのは初めてだった。
そして今、自分が“語る側”になっていることに、静かに震えていた。
◇
大学の構内は、春の夜風に包まれていた。
建物の外で、夜間講義を終えた学生たちが、星空を見上げながら歩いている。
あの頃の私と、同じ目線。
いや、今の彼らのほうが、ずっと柔らかくて、世界を信じているように見えた。
「講演、お疲れさまでした」
背後から声がして、私はそっと振り返る。
事務局スタッフの青年が資料の入った箱を抱えていた。
「今日の話、すごくよかったです。“夢は語ることで響く”って……すごく沁みました」
私は苦笑して答えた。
「ありがとう。私、昔“語られた側”だったんです。
あのときの言葉が、今でもずっと残っていて――」
彼は目を丸くして言った。
「稲生先生の……講演を?」
私は頷いた。
◇
小学生のころ、夜の校舎に集められた私たちは、
「星の語り部」と呼ばれる特別講師の話を聞いた。
それが、稲生 耀作という人だった。
そのときの私は、世界に絶望していた。
両親の離婚。転校。いじめ。
どれも劇的じゃないけれど、私の中で「未来」は一度死んでいた。
けれど――
「夢は、語られた瞬間に“音”になる。
その音は、君の中で響き続けて、やがて誰かの灯になるんだよ」
その一言で、何かが変わった。
信じることをやめなかった大人が、そこにいた。
◇
私はその日、帰り道に手帳を買った。
星柄の、小さな手帳。
そこに、こう書いた。
「私も、誰かの灯になりたい」
あの言葉は、いまも手帳の1ページ目にある。
その言葉が、いまの私をここに立たせている。
◇
図書館講堂の舞台裏で、私は一人で深呼吸をした。
子どもたちのざわめきが、カーテン越しに聞こえる。
けれどその音は、かつて私が聴いた夜の残響と、どこか似ていた。
「語ることは、預かること。
そして、“預かったものを返す”ことでもある」
耀作先生に教わった、もうひとつの教え。
だから私は今日、語る。
夢は、与えるだけじゃない。
引き継がれ、循環し、また芽吹くもの。
◇
講演後、一人の少女が私に声をかけてきた。
「先生……夢って、本当に誰かに届くんですか?」
私は少し考えてから、こう言った。
「夢はね、“誰かに届いたとき”に、初めて自分の夢だったって気づくの」
少女は小さく笑って、「なんか……変なの」と言った。
その言葉に、私はかつての自分を重ねていた。
◇
夜。
私は手帳の最後のページをめくった。
そこには、白紙のままの余白が残っていた。
「このページには、いつか“誰かの夢”を書くために残しておく」
昔、そんなことを書いた気がする。
今なら分かる。
このページは、私のものじゃない。
これから出会う誰かの響きを、預かるために空けておいたものだ。
そう思えたとき、私は少しだけ泣いた。
音もなく、そっと、静かに。
◇
ベランダに出ると、夜風が頬を撫でていった。
空には、星が散っていた。
その中に、小さな青い星がひとつ、ひときわ強く光っていた。
ブルースター。
あの日、私が“語られた”記憶が、いまも確かに光っていた。
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