Blue Star: Echoes

れみっしゅ

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Echo.04:星を描いた画家

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キャンバスの前に立つと、世界は静かになった。

鉛筆の芯が紙に触れる音、絵筆を水に浸す音。
それ以外のものは、全部、消えていい。

私は**「喪失」のために絵を描いている。
そして、ほんのわずかに――「継承」**のためにも。



私が“星の記憶”に取り憑かれたのは、25年前。

ちょうど美大に入りたてのころだった。
教授が見せてくれた一枚のスライド。
それは、宇宙を背景に漂う青い花の写真だった。

「これはブルースターという花だよ。人の“想い”が宿ると信じられている」

私は、その一言に息を呑んだ。

なぜか分からないけれど、その花に**“懐かしさ”**を感じたのだ。

まるで昔、誰かに渡されたような。
もしくは、失ったことすら忘れていたような。

その日から私は、あらゆる星と花を描くようになった。

けれど、“届いた”という実感はなかった。
個展を開いても、評価を受けても、空虚だった。



転機が訪れたのは、今年の春だった。

講演のチラシが、ギャラリーの郵便受けに届いた。

『語られた夢は、響きとなって残る――稲生 耀作 講演会』
会場:新宿中央市民文化ホール

どこかで、聞いたことがある名前。
そして、どこかで“聞いたような声”。

私は半ば衝動的に、その講演会へ足を運んだ。



壇上に立っていた彼は、静かな瞳で話していた。

「夢は、かつて語られた記憶の中に咲いています。
だから私は、その“残響”を拾い上げているんです」

その言葉を聞いた瞬間、涙が止まらなくなった。

なぜか。
その声が――私の記憶の奥底に届いたからだ。

私も、かつて“語られた”のだ。
ブルースターの話を、誰かの声で。

忘れたふりをしていたけれど、
その種は、心のどこかで生き続けていた。



講演後、私は彼に声をかけた。

「あなたの話を、昔、どこかで聞いた気がするんです。
小学校かもしれません。……ブルースターの話でした」

彼は少し驚いた顔をして、微笑んだ。

「もしかしたら、僕の“声”じゃないかもしれません。
でも、その話が届いていたなら……それは、もう“あなたの夢”なんですよ」

その言葉に、胸が熱くなった。



その夜、私はアトリエで一枚の絵を描きはじめた。

青い花が夜空に咲いている。

星ではない。
でも確かに空の記憶を持った花。

キャンバスの奥で、それは静かに“響いて”いた。



数週間後、私はその絵を小さな展覧会に出品した。

タイトルは、
『残響の星(Echo Star)』

会場の片隅で、少女がその絵の前に立っていた。

「この花、知ってる。……夢が入ってるんだよね」

その言葉に、私は笑った。

ああ、そうか。
私の“語られた記憶”は、今この少女に届いたのだ。

そしてまた、彼女の中で“響き”となって残っていく。



帰り道。

夜空を見上げると、青い星が一つだけ、まっすぐ瞬いていた。

ブルースター。

25年前の私が受け取ったものが、ようやく絵になり、誰かに渡った。

それがきっと、“語り継ぐ”ということ。

失った記憶は、ただ失われたのではなく、
“誰かに響くために眠っていた”のかもしれない。
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