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Echo.05:声のない朗読会
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が、聞こえない世界に生まれて、私はずっと「沈黙」を生きてきた。
でも、それは“静けさ”と同じではない。
耳から入る音はないけれど、
目から、肌から、心から届く音があることを、私は知っている。
そして私は、その音を「物語」と呼んでいる。
◇
ある春の午後。
学校の図書室で、ひっそりと行われた“朗読会”。
読む人の声を、私は聞けない。
でも、手話通訳の先生が、隣で美しく訳してくれる。
でもその日、私の心を動かしたのは――声でも、言葉でもなかった。
朗読者の後ろにあった、一枚の絵。
それは、青い星のような、小さな花。
光を纏ったような、優しい輪郭の絵。
終わったあと、私は図書館の先生に聞いた(手話で)。
「この花、名前はありますか?」
先生は少し驚いた顔をして、微笑んで答えた。
「ブルースター。夢を託す花よ。
誰かの想いが込められたとき、言葉がなくても届くんだって」
“言葉がなくても、届く”。
その言葉が、私の胸にまっすぐに届いた。
◇
私は「詩葉(うたは)」という名前をもらったけど、
実際に声に出して“うたう”ことはできない。
それでも、私はいつも「うた」を探していた。
空に浮かぶ雲。
風に揺れるカーテン。
お母さんの髪の匂い。
そのどれもが、私にとっての“うた”だった。
そして今、新しく知った“うた”がある。
ブルースターという名の、言葉のいらないメッセージ。
◇
その週末、私は一人で絵を描いた。
色鉛筆で、空と花を描いた。
青い空に、花が浮かんでいる。
花びらは、まるで星が語りかけてくるような形をしていた。
私はその絵に、何も書かなかった。
でも、お母さんはそれを見て、泣いた。
あとで手話で聞いた。
「うたは、誰かに気持ちを伝えたくなったの?」
私は頷いた。
「ブルースターって、花の名前なんだよ」
と、指文字で教えると、お母さんは微笑んで言った。
「じゃあ、その花は、うたはの“声”だね」
◇
次の朗読会で、私は自分の絵を先生に渡した。
「みんなに見せてもいいですか?」と聞かれ、私は恥ずかしそうに頷いた。
絵が掲示されたとき、友達が何人も感想を書いてくれた。
「やさしい気持ちになった」
「なんだか、あったかい」
「星の花、見てみたい」
私は、声に出せなくても――
ちゃんと、届いてるんだって、初めて知った。
◇
夜。
窓を開けて、空を見上げた。
言葉のない空は、
でも、まるで私に語りかけているようだった。
“響き”は、音じゃない。
“声”は、喉からだけじゃない。
それを教えてくれたのは、
あの、青い星のような花――ブルースター。
私はそっと、胸の前で手を組んで、伝えた。
「ありがとう」と。
言葉ではなく、心の手話で。
でも、それは“静けさ”と同じではない。
耳から入る音はないけれど、
目から、肌から、心から届く音があることを、私は知っている。
そして私は、その音を「物語」と呼んでいる。
◇
ある春の午後。
学校の図書室で、ひっそりと行われた“朗読会”。
読む人の声を、私は聞けない。
でも、手話通訳の先生が、隣で美しく訳してくれる。
でもその日、私の心を動かしたのは――声でも、言葉でもなかった。
朗読者の後ろにあった、一枚の絵。
それは、青い星のような、小さな花。
光を纏ったような、優しい輪郭の絵。
終わったあと、私は図書館の先生に聞いた(手話で)。
「この花、名前はありますか?」
先生は少し驚いた顔をして、微笑んで答えた。
「ブルースター。夢を託す花よ。
誰かの想いが込められたとき、言葉がなくても届くんだって」
“言葉がなくても、届く”。
その言葉が、私の胸にまっすぐに届いた。
◇
私は「詩葉(うたは)」という名前をもらったけど、
実際に声に出して“うたう”ことはできない。
それでも、私はいつも「うた」を探していた。
空に浮かぶ雲。
風に揺れるカーテン。
お母さんの髪の匂い。
そのどれもが、私にとっての“うた”だった。
そして今、新しく知った“うた”がある。
ブルースターという名の、言葉のいらないメッセージ。
◇
その週末、私は一人で絵を描いた。
色鉛筆で、空と花を描いた。
青い空に、花が浮かんでいる。
花びらは、まるで星が語りかけてくるような形をしていた。
私はその絵に、何も書かなかった。
でも、お母さんはそれを見て、泣いた。
あとで手話で聞いた。
「うたは、誰かに気持ちを伝えたくなったの?」
私は頷いた。
「ブルースターって、花の名前なんだよ」
と、指文字で教えると、お母さんは微笑んで言った。
「じゃあ、その花は、うたはの“声”だね」
◇
次の朗読会で、私は自分の絵を先生に渡した。
「みんなに見せてもいいですか?」と聞かれ、私は恥ずかしそうに頷いた。
絵が掲示されたとき、友達が何人も感想を書いてくれた。
「やさしい気持ちになった」
「なんだか、あったかい」
「星の花、見てみたい」
私は、声に出せなくても――
ちゃんと、届いてるんだって、初めて知った。
◇
夜。
窓を開けて、空を見上げた。
言葉のない空は、
でも、まるで私に語りかけているようだった。
“響き”は、音じゃない。
“声”は、喉からだけじゃない。
それを教えてくれたのは、
あの、青い星のような花――ブルースター。
私はそっと、胸の前で手を組んで、伝えた。
「ありがとう」と。
言葉ではなく、心の手話で。
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