君と僕だけのブルースター

れみっしゅ

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収穫

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空の色が、微かに金を帯びはじめた午後。
夏の終わりを告げる虫の声が、遠くから静かに届いていた。

図書館の大窓から差し込む光は優しく、空気は乾きはじめていた。
季節が変わるように、人もまた、変わっていく。

稲生耀作はその変化の只中にいた。

彼はもう、ただ“星を見る”少年ではなかった。

彼は――星の記憶を伝える者となっていた。



大学の特別推薦枠をかけたプレゼン審査の日が近づいていた。

彼が提案した研究テーマは、こう記されていた。

『星は記憶を持ちうるか──観測と想念の相関性についての考察』

一見すれば非科学的と笑われかねないテーマだったが、
彼は知っていた。この問いが、“科学の言葉”では説明しきれない
“人の存在”に肉薄するものであることを。

プレゼン当日。
審査員たちの前で、耀作は堂々と語った。

「私たちは、星をただの天体として眺めています。
でも、私は思うのです。星が見ているのは、むしろ私たちの方なのではないか、と。」

静寂。

「星の光は、何千年も何億年も前の姿です。
でも私たちは、それを“今”この目で見て、“願い”や“想い”を投げかけてきました。
そういった感情の積み重ねは、観測された星の“印象”に影響を与えていく。
それは“信仰”とは違います。“観測の意志”そのものです」

一人の審査員が、険しい顔で質問を投げかけた。

「科学とは実証可能性のある仮説に基づくものだ。
“記憶”や“想い”などという曖昧なものを、どうやって立証するのか?」

耀作は、ゆっくりと息を吸い、言った。

「“存在するもの”だけが研究に値するなら、
私たちは未発見のものすべてを切り捨てることになります。
私は、“証明されていないものにこそ、証明されるべき価値がある”と考えています。
科学とは、“信じるに足るものを信じる力”でもあると思います」

その瞬間、会場にわずかなざわめきが起きた。

プレゼンが終わったあと、控室で彼を待っていたのは――綾城恭平だった。

「素晴らしかった。……俺が最初にこの仮説を提出したときは、
“ロマンチスト”と揶揄されたものさ。だけど今は違う。
君の言葉には、“科学への愛”がある。それが一番大事なんだ」

綾城は小さな封筒を取り出し、耀作に差し出した。

「これ、僕が今主催してる研究会の案内。よければ、参加してほしい」

封筒には、“メモリースター・プロジェクト”と記されていた。

「君の“記憶”が、他者の“問い”に火を灯す日がきっと来る。
それが、科学者としての“収穫”なんだよ」



数日後。プレゼン審査の結果が発表された。

耀作は――最優秀推薦枠に選ばれた。

学校中がざわついた。特進クラスでもなければ、部活の推薦でもない。
ただ「星を語った」だけの生徒が、国立の狭き門に推薦を決めたのだから当然だった。

だが、彼自身は浮かれる様子などなかった。

帰り道、ふと立ち寄った花屋で、彼はブルースターの鉢植えを見つけた。

青く、静かに、星の形をした小花。

「……君がくれた“問い”に、少しだけ答えが近づいたよ」

小さく呟いて、彼はそれをひと鉢、購入した。



その夜。
家のベランダに置かれた鉢植えの前で、耀作は空を見上げる。

そこには、あのときと同じように――ブルースターが、瞬いていた。

「恵。君が遺したものは、ちゃんと受け取ったよ」

目を閉じると、あの笑顔が浮かぶ。

「次は、俺が“願い”を渡す番だ。……君がそうしてくれたように」

風がそっと吹き、ベランダの風鈴が静かに鳴った。

その音はどこか、彼女の声に似ていた。



数日後。
大学から、一通の手紙が届いた。

『あなたの提案された研究テーマに、大学として全面的な支援を決定しました。
本研究を通じて、“人が星を想う”という根源的な問いに、新たな解釈が生まれることを期待しています。』

封筒の中には、研究予算の明細とともに、ブルースターのロゴがあしらわれた
**「メモリースター研究奨励書」**が同封されていた。

耀作は静かに微笑んだ。

これが、彼の“収穫”。

そして、誰かの“希望”を育む、あたらしい“種”だった。
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