11 / 12
永託
しおりを挟む
想いは、永遠ではない。
けれど、誰かがそれを託し、誰かがそれを受け継ぐ限り――
“永く在り続ける”ことができる。
それが、「永託」という言葉の本当の意味だった。
◇
国際天文学会でのスピーチから数ヶ月。
耀作のもとには、世界各国から数え切れないほどのメールが届いていた。
星に願った人、愛する人を失った人、
そして何も信じられなかった人たちが、彼の言葉に“何か”を見出したと綴っていた。
その中に、ある研究者からの手紙があった。
「私は人工衛星の設計に携わっています。
いつか“人の想い”を乗せて宇宙に飛ばせる衛星を作りたいと思ってきました。
その中心理念に、あなたの“宙語”を据えてもよろしいでしょうか?」
耀作は、迷わず答えた。
「はい。僕の言葉に意味があるとするならば、それは“使われる”ためにある」
◇
数ヶ月後。
「ブルースター・メモリアル衛星」計画が正式に始動。
名前の由来は言うまでもなかった。
それは、恵から始まり、耀作が育み、絢音が継ぎ、
今や世界中の人の想いを乗せて“空へ託す”器となった。
衛星の本体には、小さなメッセージ記録装置が搭載される。
そこには、世界中から寄せられた2万件以上の“想い”が、
デジタル音声として圧縮保存されていた。
出発の日。
ロケットが宇宙へ飛び立つ瞬間、耀作は目を閉じた。
「恵。君がくれた言葉、こんなところまで来たよ」
◇
後日、テレビ番組のインタビューでこう訊かれた。
「あなたにとって、星とは何ですか?」
耀作はしばらく考え、そして答えた。
「……“誰かの続き”ですね」
「続き、ですか?」
「ええ。星を見るという行為は、時間を越えて誰かと繋がること。
その誰かが、想いを託したからこそ、今の自分がある――そう信じられるんです」
スタジオが静まりかえる。
その言葉には、数式でも証明でもない、
けれど誰よりも**真摯な“信念”**があった。
◇
講義室の片隅。
講義の後、学生の一人が耀作に質問した。
「稲生先生……“永遠”って、あると思いますか?」
耀作は、窓の外の空を見上げながら言った。
「うん。少なくとも、“続けようとする心”がある限り、永遠は可能だと思う」
学生は黙って頷いた。
「それが、“永託”ということなんですね」
「……そうだね。いつか僕がいなくなっても、
君が誰かに語り続けてくれたら、それはもう“永遠”なんだよ」
◇
夜。
一通の手紙が耀作のもとに届いた。差出人は――椎名絢音。
「私、天文学部のある大学に合格しました。
将来は、耀作さんのように、“語りながら研究する”人になりたいです。
私が出会ったすべての人に、あの星を見せたい。
そして、いつか私も、誰かに灯を託せるように生きていきます」
封筒には、薄く透ける青い押し花――ブルースターが添えられていた。
◇
夜空。
かつて恵と見上げた、あの展望台に、耀作は一人で立っていた。
空はいつもと同じ。
でも、何かが確かに違っていた。
それは、“星が遠くない”と、心から思える自分がそこにいること。
「恵……君がいたこと、君が語ったこと、君が僕に灯したもの……
全部、こうして次に託すことができたよ」
風が吹いた。
そして空に、衛星の放つ微かな軌道光が一筋走った。
まるで、それが**“想いの軌道”**そのもののように。
「ありがとう、恵。君の記憶は、僕の中で永く生きているよ」
◇
物語は、永くはない。
けれど、語り続ける者がいれば、終わることはない。
灯された記憶は、次の誰かへ。
その誰かはまた別の空の下で、新しい星を見つける。
ブルースターは、咲き続けていた。
けれど、誰かがそれを託し、誰かがそれを受け継ぐ限り――
“永く在り続ける”ことができる。
それが、「永託」という言葉の本当の意味だった。
◇
国際天文学会でのスピーチから数ヶ月。
耀作のもとには、世界各国から数え切れないほどのメールが届いていた。
星に願った人、愛する人を失った人、
そして何も信じられなかった人たちが、彼の言葉に“何か”を見出したと綴っていた。
その中に、ある研究者からの手紙があった。
「私は人工衛星の設計に携わっています。
いつか“人の想い”を乗せて宇宙に飛ばせる衛星を作りたいと思ってきました。
その中心理念に、あなたの“宙語”を据えてもよろしいでしょうか?」
耀作は、迷わず答えた。
「はい。僕の言葉に意味があるとするならば、それは“使われる”ためにある」
◇
数ヶ月後。
「ブルースター・メモリアル衛星」計画が正式に始動。
名前の由来は言うまでもなかった。
それは、恵から始まり、耀作が育み、絢音が継ぎ、
今や世界中の人の想いを乗せて“空へ託す”器となった。
衛星の本体には、小さなメッセージ記録装置が搭載される。
そこには、世界中から寄せられた2万件以上の“想い”が、
デジタル音声として圧縮保存されていた。
出発の日。
ロケットが宇宙へ飛び立つ瞬間、耀作は目を閉じた。
「恵。君がくれた言葉、こんなところまで来たよ」
◇
後日、テレビ番組のインタビューでこう訊かれた。
「あなたにとって、星とは何ですか?」
耀作はしばらく考え、そして答えた。
「……“誰かの続き”ですね」
「続き、ですか?」
「ええ。星を見るという行為は、時間を越えて誰かと繋がること。
その誰かが、想いを託したからこそ、今の自分がある――そう信じられるんです」
スタジオが静まりかえる。
その言葉には、数式でも証明でもない、
けれど誰よりも**真摯な“信念”**があった。
◇
講義室の片隅。
講義の後、学生の一人が耀作に質問した。
「稲生先生……“永遠”って、あると思いますか?」
耀作は、窓の外の空を見上げながら言った。
「うん。少なくとも、“続けようとする心”がある限り、永遠は可能だと思う」
学生は黙って頷いた。
「それが、“永託”ということなんですね」
「……そうだね。いつか僕がいなくなっても、
君が誰かに語り続けてくれたら、それはもう“永遠”なんだよ」
◇
夜。
一通の手紙が耀作のもとに届いた。差出人は――椎名絢音。
「私、天文学部のある大学に合格しました。
将来は、耀作さんのように、“語りながら研究する”人になりたいです。
私が出会ったすべての人に、あの星を見せたい。
そして、いつか私も、誰かに灯を託せるように生きていきます」
封筒には、薄く透ける青い押し花――ブルースターが添えられていた。
◇
夜空。
かつて恵と見上げた、あの展望台に、耀作は一人で立っていた。
空はいつもと同じ。
でも、何かが確かに違っていた。
それは、“星が遠くない”と、心から思える自分がそこにいること。
「恵……君がいたこと、君が語ったこと、君が僕に灯したもの……
全部、こうして次に託すことができたよ」
風が吹いた。
そして空に、衛星の放つ微かな軌道光が一筋走った。
まるで、それが**“想いの軌道”**そのもののように。
「ありがとう、恵。君の記憶は、僕の中で永く生きているよ」
◇
物語は、永くはない。
けれど、語り続ける者がいれば、終わることはない。
灯された記憶は、次の誰かへ。
その誰かはまた別の空の下で、新しい星を見つける。
ブルースターは、咲き続けていた。
0
あなたにおすすめの小説
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~
つくも茄子
恋愛
五大侯爵家、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカー侯爵令嬢は第二王子の婚約者候補。それと同時に、義兄とも婚約者候補の仲という複雑な環境に身を置いていた。
それも第二王子が恋に狂い「伯爵令嬢(恋人)を妻(正妃)に迎えたい」と言い出したせいで。
第二王子が恋を諦めるのが早いか。それとも臣籍降下するのが早いか。とにかく、選ばれた王子の婚約者候補の令嬢達にすれば迷惑極まりないものだった。
ミネルヴァは初恋の相手である義兄と結婚する事を夢見ていたというに、突然の王家からの横やりに怒り心頭。それでも臣下としてグッと堪えた。
そんな中での義兄の裏切り。
愛する女性がいる?
その相手と結婚したい?
何を仰っているのでしょうか?
混乱するミネルヴァを置き去りに義兄はどんどん話を続ける。
「お義兄様、あなたは婿入りのための養子縁組ですよ」と言いたいのをグッと堪えたミネルヴァであった。義兄を許す?許さない?答えは一つ。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜
まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。
出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。
互いに意識しながらも、
数年間、距離を保ち続けた。
ただ見つめるだけの関係。
けれど――
ある夏の夜。
納涼会の帰り道。
僕が彼女の手を握った瞬間、
すべてが変わった。
これは恋でも、友情でもない。
けれど理性では止められない、
名前のない関係。
13年続いた秘密。
誓約書。
そして、5年の沈黙。
これは――
実際にあった「夜」の記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる