君と僕だけのブルースター

れみっしゅ

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夢種

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願いとは、いつ芽を出すか分からない。
それでも、人は信じて土を耕す。
見えない種を、そっと手のひらで守るように。



ブルースター・メモリアル衛星が軌道に乗り、半年が過ぎた。

世界中の人々が送った「想いの声」は、今も宇宙を漂っている。

NASAとの共同開発で、新たな試みが始まっていた。

──地球に届く微弱な粒子データに、人間の“情動”が反応するかを測定する実験。

その担当者の一人に、耀作の後輩・椎名絢音の名前があった。

「信じることに科学的根拠は要らない。でも、伝えるには言葉が要る。
私は、耀作さんの“語り”を次の世代に繋げたいんです」

そう言って笑った彼女は、もうかつての少女ではなかった。

彼女は、立派に“星を育てる者”になっていた。



ある夜、耀作は久しぶりに実家へ帰省した。

机の引き出しには、昔の星座ノート。
その隙間に、小さなメモが一枚挟まっていた。

「“夢って、見つけるものじゃなくて、
受け継いで、咲かせるものかもしれないね”――恵」

恵がくれた、最後の手書きメモだった。

彼女がこの世に存在していた証は、どこにも残っていない。
けれど、この言葉は、耀作の胸に確かにあった。



そして春。

絢音が、耀作の大学に進学してきた。

入学式のあと、彼女がぽつりと言った。

「今日、新入生代表の子が、“ブルースター”の話をしてました」

「……え?」

「小学校のときに先生が教えてくれたんですって。
“この花は誰かの想いの色だよ”って。
それをずっと覚えてたらしくて、“夢の色”だって言ってました」

“夢の色”――

その言葉が、まるで遠い宇宙の記憶のように、胸に響いた。

「ねえ、耀作さん。私たちが渡した“夢の種”、
ちゃんと、誰かの中で芽を出してるんですね」

耀作は静かに頷いた。

「うん。きっと、何万光年も先の未来でさえ、
誰かが空を見上げる限り、種は撒かれ続けるよ」



その年の夏。
大学は、新たな人文学研究プロジェクトを立ち上げた。

名称は――「Blue Star Dream Archive(ブルースター・ドリーム・アーカイブ)」

目的は、世界中の人々が語った“願い”や“記憶”を、
次の世代へと残す知的遺産として記録すること。

その発起人代表に耀作が選ばれ、絢音がその初代運営メンバーとなった。

星を育てるということ。
それは、誰かの声を聞き、伝え、いつか自分のいない場所でも誰かがその灯を頼りに生きられるようにすること。

それが、“夢の種”というものなのだ。



ラストシーン。

場所はあの展望台。

耀作は、ひとり空を見上げていた。

ポケットには、古びたブルースターの押し花。

風が吹くと、その押し花が一枚ひらりと空へ舞い上がる。

夜空には、見慣れた青い星があった。

そこへ、少女の声が重なる。

「耀作。次は、君が“誰かの願い”になる番だよ」

笑っている。懐かしい声だ。

「うん。……きっと、そうするよ」

空に向かって呟くと、その声は風に乗って消えていった。

それでも耀作の胸には、あの“夢の色”が、永遠に残っていた。

──それはもう、祈りではなかった。

未来への確かな約束だった。
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