国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ

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62,ローレンの家出3

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 翌日、というには遅いかもしれない。その日の夜中、ローレンは蒸せるような身体の熱さに意識を朦朧とさせていた。

「おい、大丈夫か!?」

 同じ部屋で眠っていたテオに起こされたが、触れられたところがどうしようもなく熱くて、ローレンは目の前がチカチカして起き上がることさえ出来なかった。
 それが見覚えのある光景だったからだろう。彼は迷う事なく医者を呼びに行き、ローレンを診察させた。

「いや、驚いたな。稀とも言われているのに、私の人生で二人目を診ることになるとは」

 少し前からおかしいと感じていた。あんなにも敏感だった鼻が、一切オメガのフェロモンを嗅ぎとらなくなった。ロイスとの情事にも、頭が痺れたように理性が外れていた。
 考えればキリがないけれど、ローレンには冷静に分析する暇もなかった。

「ロイス、ロイ……」

 少しの感覚が全て快楽に変わり、ローレンはもう泣き伏せることしか出来なかった。

「お前の旦那呼んだ方がいいんだろうけど、王都まで行く郵便は明日までこねぇんだよ」

 オメガ用の薬は苦くて、飲んだところでフェロモンを周りに臭わせるのが多少マシになるだけだ。実質、身体には何の変化もなく、ひたすら快楽の波が押し寄せる。

「ハルの場合はあん時の彼氏がそばにいたんだけどな…」

 どうしたものかと頭をかくテオがベータで本当に良かったと思う。勿論彼ならアルファだったとしても、理性を働かせただろうけれど。

「とりあえず三日くらいは落ち着くまでって。俺、飲み物買ってくるから待ってろよ」
「ん……」

 あぁ失敗した。せめて彼の匂いのついた何かを持ってこればよかった、なんて頭に浮かぶ。唯一自分の買ったもの以外で持ってきたのは、指輪だけ。
 けれどここ一週間は喧嘩ばかりで手すら繋いでいなかったから、そこに彼の匂いは勿論ない。
 好きなのに、愛してるのに、なんであんなことを言ってしまったんだろう。他の奴なんか抱いて欲しくないのに。自分のことだけ愛していて欲しいのに。
 もし離縁状を出されていたらどうしよう。
 こんなネガティブなことばかり考えたことはなかったのに、とローレンは空笑いをした。

「ロイ…」

 早く彼に会いたい。抱きついて、これ以上ないほど抱きしめてもらいたい。女々しい思いが頭を占めた時だった。
 ゴンゴンゴン、と玄関の扉が叩かれる。

「……だれかいないのか?」

 ゴンゴン。何度も響く音と共に聞こえた声に、うそ、と思いながら身体を起こす。あんなに辛かったのに、もう扉を開けることしか考えていなかった。
 ガチャリ、と鍵を開けて扉を押し開ける。

「失礼、こちらに、………」
「ロ、イ…?」

 扉の向こうに立っていたのは、今朝からずっと頭の中を占めていた人。

「ロイス…」

 そのまま抱き付こうとしたのに、彼はすっと身体を避けて無言で部屋の中に入ってきた。

「ロイス?」

 どうして避けるの、と涙が勝手に出てくる。今すぐ触れたくて、手を伸ばした瞬間。グッと腕を掴まれ、こちらをひと睨みされた。

「アイツはどこだ」
「…アイツ…?」

 朦朧と熱に浮かされた頭で考えるが、一体だれのことか分からない。

「抱かれたのか、私以外の男に!!」
「え…?」

 何を言われているのか分からず、けれど彼が怒っているということはよく分かった。どうしようもない、捨てられたらどうしようという恐怖が襲ってくる。

「あ、あの、ごめんなさ、」

 ここで謝ってはいけなかったのだと、後になって思うことばかりだ。謝罪の言葉を聞いた途端、彼は自分の身体を抱き抱えて部屋を出た。ついでにローレンの身体に絡まっていたテオのシーツを床に投げ捨てて。

「あの、どこに」
「うるさい、黙って下さい」

 ピシャリと言われ、もうそれ以上何も言えなかった。ただ握られた手が強くて、温かくて、もう何でもいいや、とローレンは意識を手放した。





 起きろ、という声で意識が覚醒する。気が付けば自分の身体はフカフカのベッドや上だ。

「他の男に抱かれたら私が大人しく離縁すると思いましたか」

 連れて行かれたのは、以前来た時に泊まった宿だった。前とは違う部屋だけれど、何ら変わりはない。
 笑顔を浮かべたロイスだったが、こちらを見る目は笑っていない。
 目の前でメイドに渡した離縁状を真っ二つに破られ、出されていなかったことに安堵する。

「こんなところまで遥々よく来たもんですね。私と結婚した時点で貴方に自由なんかないのに」

 手早く服を脱がされ、身体の隅々まで確認される。その度に触れる手がこそばゆくて、いちいち反応していたのだけれど。

「なんです、少し見ない間に敏感になって。好きな男とやった後の感想はどうですか。あぁ、言わなくていいですよ。聞いたら殺してしまいそうだ」

 ロイスが何言ってるかとか、もう考えている暇はなかった。ただ触って欲しい、いれて欲しい。ぐちゃぐちゃにして、抱きしめて欲しい。

「っ…すごいですね、こんなにビチャビチャにして。本当に淫乱じゃないか」
「んっ………」

 意識していなかったけれど、そこもオメガのように変わるのか、と考えてようやく納得する。
 あの日の晩、ほとんど腹が空かなかった。あれはオメガの性が発情期の準備をするためだったのだろう。

「あー、くそ……もう最悪な気分だ…」

 泣きそうな表情でこちらを見るロイスに、なんとも言えない気持ちが込み上げてくる。
 久しぶりに熱いソレが入ってきたことに嬉しさを感じて、ふとどこか冷静な頭で考える。


ーー俺、今もナマでやっていいの?


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