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17,本当に大切なもの。
しおりを挟むリヴィウスに連れられ、新しい部屋に入れられてから数ヶ月後。俺は早産だったけれど、無事に出産を迎えることになった。
医師の指示もあり、少しの間はリハビリとして部屋を自由に動き回っていたし、偶に庭へ出て散歩もした。もちろんリヴィウスの監視付きだが。
「レイ様」
「…あ」
出産のあまりの激痛に、思わず意識を失っていた。どうやらもう終わったようで、あんなにも重かった腹はすっかりと元のペタンコに戻っている。
パッと部屋を見渡すけれど、リヴィウスはいない。さすがに出産時には部屋を変えてもらったけれど、ここから抜け出す気力もなければ理由もない。大人しくベッドの上に寝転がる。
「陛下は」
「先程までいらしていました。レイ様をもう少し休ませておくようにご命令が」
「…子供は」
それは一番恐れていたことであり、もしかしてーーもしも、亡くなった宰相が恐れていたことが現実になってしまったら。
そんなレイの恐怖とは裏腹に、医女は満面の笑みで答えた。
「おめでとうございます!御子様は王子様でございます!陛下もとても喜ばれ、今は御子様のお部屋へいらしています!」
男児。男。血の気が引いていくのが感じた。
レイはΩ、リヴィウスは当たり前のことながらαだ。もしも王子として生まれた息子が、Ωだったなら。あらゆる針の筵にされ、レイが受けてきた嫌がらせなど非にもならないだろう。αだったならば、王位継承は明らかで。そうなってしまえば何の後ろ盾もない王子を、誰が守るというのだろう。
それよりも、その診断が出る以前の話だ。王子と分かれば命を狙う者は必ず現れる。
「レイ様!?どうかなさいましたか!?」
「…あ、いや…」
考えることは沢山ある。けれど今は疲れすぎた。
「…少し、休みたいので…」
「承知しました。では、私たちはお下がり致しております」
「うん…」
どうすればいい?何を考えればいい?
俺は、何を選べばいいんだ。
「レイ」
嬉しそうな顔をするリヴィウスがまだ顔もしわくちゃな王子を抱きかかえて目の前に連れてくる。
「…かわいい」
生まれてから実に二十四時間以上経っているのだが、仕方ない。泥のように眠ってしまっていたのだから。
「レイ、ありがとう」
「え?」
「俺を父にしてくれて、ありがとう」
「…陛下」
この時間を大切にしたい。いつまでもこうして、我が子と三人で。
「なんだ?」
「……俺は、Ωです。この国では最も最下層とされ、蔑まれるのが当たり前な存在です」
「レイ、それは…」
「こんな俺を迎えてくれただけでも、俺は陛下に感謝してもし足りないんです。ずっと考えていました。この子が女だったら、きっとそこまで考えたりはしなかったけれど」
もう逃げることは許されない。
そしてこれはきっと、自分のためでもある。
「俺は、この世界が嫌いでした。好きでΩに生まれたわけじゃないのに、貶されて。けれど今は違います。Ωとして生まれたから、貴方の側にいることが許された。Ωとして生まれたから、貴方の子供を産めた」
けれどあと十年。その間に王妃の座は誰かに渡さなければならなくて。それが側室の中から選ばれてしまえば、この子供の命は当たり前に危うくなる。
「貴方に迷惑をかけるかもしれない。それでも、いいですか?」
「どういうことだ?」
「王妃として、貴方の隣にいて、自分の手で、この子を守っても、いいですか?」
有力貴族からは批判の声が殺到するかもしれない。リヴィウスにも迷惑をかけるかもしれない。
それでも、俺は。
「もしこの子がαでも、Ωでも、βでも。命の危険を感じたり、今の俺たちのように、蔑みの目を向けられたりしないような、そんな世の中にしたいんです」
「…辛いのはきっと、お前だ」
「覚悟の上です」
「……王妃になれば、絶対に俺はお前を離したりしない」
「元からそのおつもりでしょう?」
「確かに前代未聞のことだ。けれど、だから俺がやってみせる。この国に前例がないのなら、今作ればいい。後世のためにも」
「…はい」
「これだけは約束しろ。お前は俺を絶対的に頼れ。王妃としての政務がある。それでも無理なら音を上げろ」
「はい」
「それから、王妃になっても、王妃になってからはより一層、俺だけを見て、俺だけを愛せ」
「はいはい。分かっておりますよ」
本当にもう、俺は。
こんな馬鹿な俺でも受け入れてくれる人がいるだろうか。
いないなら努力するしかない。
ようやく、心から守りたい、本当に大切なものが出来たのだから。
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