国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ

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33,素晴らしい隣国の文化

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「こ、これは…!」

 その日一番、いや、人生で一番素晴らしいものを見つけた瞬間だった。

「王妃様が足をお悪くされているとお聞きしたものですから。我が国で発明した、難足の方の為の車椅子というものです。ここにお座り頂いて…」

 試してみると、何とも楽ではないか。どこかの誰かさんのせいで朝起きるなり真っ先に歩行具をつけるせいで、膝の間接も痛くなっていた。これがあれば問題解決だ。

「自分で動かすことも出来ますし、誰かに押して頂くことも可能ですから、生活がとても便利になられるかと存じます」
「リヴィウス……いいでしょ?」
「…これに乗ったら逃げられるようになるのでは」
「こんなのに乗って城の門をくぐったりしないよ」

 それにしてもまだ信用されてないのか。まぁ、前科もあるのだし仕方ないか。

「お願い?それにこれがあったら無理して歩かないから、お腹の赤ちゃんにもいいと思うし…」
「よし分かったすぐに買おう」

 チョロい。というのは口に出さない。

「ありがとうっ!これでリヴィウスと散策に行ったり出来るね!二人でちょっとだけでもデートしたかったんだー」
「その考えは素晴らしい、今日にでも、今からでも行こう」
「商品見終わってからね」

 隣国の文化というのか。素晴らしいものがいっぱいありすぎて嬉しい。王妃になった分、王家から渡される小遣いがとにかく増えた。けれど俺はドレスなんて着ないし、物欲も然程ない。だが使わないわけにもいかないらしいので、今日ここで沢山使おうと思う。



 と、まぁそんな感じで、大量に購入したとまではいかなくても、そこそこのお金を使ってしまった。早速車椅子でリヴィウスの隣をーー歩くときに、一つ気付いてしまった。ただでさえチビの自分が椅子に座って歩いていたら、リヴィウスとの身長差が凄まじいということだ。

「俺が押そう」
「え、いいですよ」
「いいから大人しく座っていろ」

 仮にも国王に押させるなんて。通りすがりの文官達が恐ろしいものを見たというような顔をしている。

「どうする?このままどこか行くか」

 思ったよりも気分を良くしているリヴィウスに、もう一つお願いをしてみる。

「じゃあ、アルバートも一緒に…最近忙しくて会えない日が続きましたから」
「そうなのか?俺は毎日会ってるが」
「…いつの間に」

 自分よりも忙がしいだろうに、そんな暇ーー無理矢理時間を作ったんだろう。
 いい父親だと思う。だからーーどうか、そのままでいて欲しい。もしも子供がオメガに生まれてしまっても、ほんの少しでもガッカリして欲しくない。
 アルファだったら良かったのに。その言葉は、自分にとって呪いのような言葉だった。

『お前がオメガだから、俺はお前を守れないのだ』

 実の父親に言われた言葉が今でも頭の中で反芻する。アルファだオメガだと小賢しいこの国で、それでも生きてきた。
 辛いこともあったりしたけれど、それでも隣にこの人がいてくれているから、今はオメガに生まれて良かったと思える。
 もしもアルバートやこのお腹の子供がオメガでも、自分がリヴィウスといて幸せなように、一緒にいて幸せな人を見つけて欲しいと思うのだ。

「…陛下」
「どうした?」
「愛してます」
「……それは…誘っているのか…?」
「なに言ってるんですか。はーーこの子が生まれてから、存分にどうぞ?」

 その瞬間、リヴィウスの表情が気持ち悪いほど緩んだのは言うまでもないことだ。


 そしてその数日後、使節団とリオール第三王子は帰っていった。
 後日、フルーツティーが大量に、それは大量に送られてきたのはアートラスの好意だと受け取っておこう。
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