報われないこの世界で

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山村事変

犬神

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和泉が目を覚ますと、すぐそばに蒼の姿があった。
和泉は慌てて、逃げようとするが上手く動けない。
手を見ると手錠を掛けられていた。

「やっと起きたか。行くぞ。」

蒼はそういうと山を降りていく。
手錠のせいで和泉も引っ張られるような形で歩く羽目になった。
雷を受けたせいでダメージが酷く、抵抗する気力が湧かない。
和泉は大人しく連行されていた。

「まさかあなたにあのような力があるとは思いませんでした。あの一瞬でなにをしたのですか?」
「俺じゃない。事前に協力を頼んでたんだよ。」
「成程。巫女ですか。たしかに鹿島の巫女は雷を落とせますからね。それにしてもあの雷は貴方も巻き込んでいた筈です。なぜ無傷なのですか?」
「こいつだよ。」
蒼は刀をポンポンと叩きながら答えた。
「雷切。雷を切った逸話を持つ刀だ。当然霊力を持っている。俺が妖の存在を認知したのは最近だ。霊力も大してないし、武術の才能がある訳でもない。それなのにみんなと同じように修行しても追いつける訳がないから、なにか1つを極めることにした。それで身に付けたのが「抜刀術」だ。
やってることはそこまで難しくはないが、その威力は絶大だ。
間合いに入ってきた敵は必ず一太刀で仕留められるようひたすら訓練した。
それを知ってたから晴海は俺に雷切を渡したんだろう。
かなり俺と相性がいいみたいだ。名前通り雷も切れたしな。」

戦う前から準備されていたとは。
最初から私に勝ち目などなかったのか。
和泉が暫く黙り込んでいると蒼から話しかけてきた。

「和泉、どうして村を襲った。それに陰陽師としても活動していなかったみたいだが、いつから力を手に入れた。」
和泉は思いつめたような顔をしていたが、ついに口を開いた。
「犬神がどうやって生まれるか知っていますか?生きている犬の首を出した状態で土の中に埋め、届かない距離に餌を置くんです。お腹を空かせた犬は食べようとするが届かない。そうして限界まで我慢さえて、餌を食べようとしたところで首を切り落とすんです。そうすると首だけが動きます。その犬を焼いて祀る事で犬神が完成します。
私の家は代々、犬神を生み出し陰陽師に売りつけることを生業にしていました。
ただ、当然ですがそのような非道な行いが現代でまかり通る訳もなく私の親の代で廃止になっていた。少なくとも私はそう思っていました。
私がまだ小学生の頃に、捨て犬を見つけました。犬神の存在を知っていた私は犬という生き物が苦手だったのですが、実際に生きている犬を見ると可愛くて、親に隠れてこっそりと飼うことにしました。ご飯は私の残りや給食のパンなどを持って行ってあげて、家に使わない小屋があったのでそこに毛布などを置いて生活させていました。
私が中学2年生になるまでは何事もなく上手くいっていたと思ってましたが、それが大きな間違いだったのです。私が犬を隠れて飼っていることを知っていた両親はこれを利用しようと考えていたんです。
愛情を受けて育った犬ほど、強力な犬神へと変貌する。両親は私が修学旅行でいない隙を狙い埋めました。そして帰って来た私が見たのは犬神に喰い殺された両親の姿です。私が使役していた犬神は私の飼っていた子なんですよ。
だからどうしても消えて欲しくないし、長生きして欲しかった。
ただ、最初は村人を殺すつもりはなかったんです。あの猫が狙いでした。
あの猫は持っている霊力は強大でしたが、随分と衰弱している様子だったので犬神でも倒せた。強力な妖を食べればあの子も長生きが出来ると思って…」

「じゃあ、何故村人を殺した。」

「猫を襲おうとした時、鍋島奈々が身代わりになり、重症を負いました。その瞬間、化け猫が今までにないほどの力を出し、犬神に重症を負わせました。
その後化け物は鍋島奈々に取り憑き、傷を癒すために山奥に逃げ込み、重症を負った犬神は本能のままに魂を喰らい尽くしました。その結果が村人の全滅です。
他に何か聞きたいことはありますか?」

「猫を探すのを鹿島沙織に頼んだだろう。なぜ彼女は協力した。」

「さあ、誰のことを言っているのかわかりませんが、猫の居所は自分で探しましたよ。」

その言葉を最後に和泉果歩は口を閉ざしてしまった。


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