名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

文字の大きさ
139 / 139

ハルくんを夢中にさせないで欲しいなぁ


思わず私から口を開く。

「・・あの、変な事聞きますけど・・エナさんが私と王子との事、気にするのって・・興味本位だけじゃないですよね?」

エナさんはちらっと私の方へ視線を向けた。

「・・なんでそう思うの?」

いつものおどけた感じの声のトーンとは違う。ゆっくりとした静かな口調。調子が狂ってしまう。

「・・な、何となくでしょうか・・」
「『女の勘』ってヤツ?こっちには魔力のお陰か、やたらと勘が鋭い子が居るけどね。って、オトちゃんはそんなタイプじゃないか」
「女の勘とかそんなんじゃないです。その、本当に何となくそう思っただけです。変な事聞いてすみません」

私は頭を下げた。エナさんの「そんな変な事でも無いと思うけど」という言葉に顔を上げる。晴れた空みたいな瞳と目が合う。エナさんの表情がふっと緩んだ。

「ま、いいや。今日は二人きりだし、特別にオトちゃんの質問に答えてあげるね。僕とハルくんは付き合い長いし。部下と上司でもあり幼馴染でもあるから、さ。色々心配なワケ」
「要するに、色んな質問は単なる興味じゃなくて心配から、という事ですか」
「純粋な心配か、と聞かれれば興味半分心配半分だけど。ふふ」
「・・興味半分ですか・・」

エナさんの口角が上がる。あ、その表情は何だか嫌な予感がする。エナさんは微笑みを湛えたまま私の事をまじまじと見詰め、こてんと可愛らしく首をかしげた。

「ねぇ、オトちゃん?キミは僕たちと全く違う世界で生きて来た女の子なんだもん。ベッドの上もこっちのコと違うのかなぁって興味持っちゃうよね。それって仕方ない事じゃない?」

キラキラした笑顔で下世話な事を言う、いつものエナさんだ。
私がむっとした表情を隠さずに黙り込むと、エナさんは「ごめんごめん」と肩を竦めた。

「そんなに怒らないでよぉ。そうだねぇ、じゃあ、普段は秘密にしてる心配の部分の話を特別にしてあげる♡聞く?」
「え」

てっきりいつものように本気か冗談か分からない話で煙に巻かれると思っていた。向かい合うエナさんは足を組み直し「聞く?聞かない?」と尋ねる。
さっきみたいに揶揄われるかもしれない。けれど、目の前のエナさんの「特別にしてあげる」という言葉を信じてみたい気もした。

「・・聞きたいです」

私の答えにエナさんは「素直でよろしい」と満足気に頷き、話し始めた。

「ハルくんから先代のオオトリとトマリギの話聞いた事ある?」
「はい。少しだけですけど」
「なら話が早いや。王家のトマリギはオオトリが還った後、一生独り身でさ、ひっそりと亡くなったんだよね」

エナさんはさらりと「オオトリが還った後のトマリギの顛末」を話す。先代のトマリギの最期は知っていた。それでも、微かに自分の手が震える。震えの原因は不安なのか怯えなのか。それを止める為にぎゅっと拳を握った。
先代のトマリギがずっと大切にしていた温室の事を思い出し、胸が苦しくなる。そんな私の様子に気付いているのか、気付いていないのか分からないが、エナさんは淡々と話を続けた。

「だから『春を呼ぶ王子』ってあだ名される位、可愛がられてる末っ子のハルくんが『トマリギになりたい』って言い出した時は、全員が全員、猛反対したんだよねぇ。先代のトマリギの事も有ったし、どんなオオトリが召喚されるか分からなかったしさ」

反対された・・そりゃそうだ。私の世界で言えば「宇宙人が来たら絶対に結婚したい!」と言い出すようなものだろう。自分の周りにそんな事を言い出す人が居たら、間違いなく止める。

「・・そう、ですよね」

頭で理解していても、声のトーンは沈んでしまった。

「あ!誤解しないで欲しいんだけど、オトちゃんを責めてるとかそんなんじゃないよ!」

私の声色が暗かったことに気付いたエナさんは、手の平を大げさに振りながら「ごめんごめん」と謝る。

「『トマリギになりたい』って言い出しのはハルくん自身なんだし。反対されればされる程、燃えるって言うの?大昔からのお約束だよねぇ」

エナさんは「僕には全然、理解出来ないけど」と付け加え、ソファに背を預けると私の方をじっと見詰めた。真正面から向けられる視線と沈黙が何だか気まずい。視線に気付かない振りをして窓の方へ目を遣る。
窓の外に見える空の青さでふと思い出す。そう言えば、王子と初めて会った時も晴れてたな。初対面で「えらくみすぼらしいのが来た」って言われたっけ。あの時は「口の悪い王子だ!」とむかっ腹が立ったし、強引な彼に反発した。
けれど・・今は違う。短いけれど、一緒の時間を過ごして体も重ねた。何だろ。今、無性に王子に会いたいかも。
そんなことを考えながらぼんやりとしていると、小さく笑う気配がした。そちらに目を向ける。

「こうやって改めて見ると、オトちゃんって髪の色以外、その辺の子と変わらないよね」

視線が交わるとエナさんがしみじみと呟いた。

「それはそうですよ。元居た世界では本当に普通の社会人だったんですから」
「そっか。じゃあさぁ・・『普通の子』か確かめてみたいから、キスしても良い?ふふ、キスだけで済まなくなったらゴメンねぇ♡」

「確かめたいからキスをする」?エナさんがとんでもない提案をして来た。聞き間違いかと思ったが、エナさんはキラキラした笑顔のまま「オトちゃん、お願い♡」と猫なで声で可愛らしく頼み込む。

「駄目ですよ」

極力素っ気なくかつ短く答える。駄目な理由を付けると、却って丸め込まれるという事を私はアルケーさんから学んでいる。

「ちぇッ。残念。僕だってトマリギ候補なのにぃ」

エナさんは全然残念じゃなさそうな声で言い、目を細めた。

「ホント、オトちゃんはバカが付く位、素直だね。親鳥連中が籠に入れたがる訳だ。ねぇ・・あんまりハルくんを夢中にさせないで欲しいなぁ」

言葉の後半はぞわりと逆毛が立つような冷たさが有った。エナさんの瞳はいつもキラキラしているが、今は違う。光が失われ、つるんとした青い石のように見えた。

感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

ひま
2025.03.20 ひま

面白すぎて一気に読んじゃいました!
世界観が好きです。
応援してます♪

2025.03.20 藤一

ひま様

感想ありがとうございます。
後数話で、王子編も終わるかと思います。
これからも楽しんでいただければ幸いです。

解除
hiyo
2024.08.11 hiyo

とても楽しく、まだ途中ですが読ませて頂いています。
余計なことなのですが「すいません」という言葉が何度も出てきますので
とても気になります。
「すみません」の事ですよね?

文章が可笑しいわけでもなく、気にしなければそれまでなのですが……
申し訳ありません、使う頻度を少し少なくして頂けたらなぁ~なんて
生意気にも思ってしまいました。

続きを楽しみにしています、読ませて頂いて有難うございます。

2024.08.12 藤一

hiyo様

感想ありがとうございます。
ご指摘いただいた部分に関しては、今後、気を付けます。
今後も、楽しんでいただければ幸いです。

解除

あなたにおすすめの小説

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。 そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!? 貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。