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ゼベランの冬は骨に染みるほど寒かった。
そのせいなのか、皆は私が出かけるのをあまりよく思ってない。だから、今年の冬は大半家の中で過ごした。
だけど、ようやくそれが終わりを迎える。
冬の名残の隙間からスノードロップが顔を覗かせる。気温も暖かくなり、小鳥のさえずりが所々聞こえるようになったこの季節。
冬が眠り、春が目覚める日。それはゼベランの建国記念日だ。
そして、私と旦那様の結婚式の日でもある。
私は今、宮殿のとある一室にいて、その準備をしている。
露出の少ないシンプルな白いドレスを身に纏い、リュゼラナで作れらた花冠を被る。ブーケはリュゼラナを中心に、色とりどりの野花が施されている。
フルメニアの花嫁姿とそんなに大差なかった。
「シエラ、とても綺麗よ……」
「ありがとう、お姉様。……お姉様、泣いてるの?」
手紙から家族が参列してくれることは前から知っている。でも、まさか式の前に姉が一人でこっそりと私に会いに来たとは。
姉の行動には驚いたが、こうやって元気な姉の姿を目にできて素直に嬉しい。
文通は続けているとはいえ、やはり直接会えるのは一味違うものだ。
ファルク様と別れた日から、早くも三ヶ月がたった。
旦那様が家に帰れるようになり、生活がいつも通りに戻った。
朝食の後彼を見送り、晩食の後時々二人で過ごす。
その繰り返しの三ヶ月だった。
変化といえば、一つあった気がする。
旦那様が無言になり、私の髪かリボンを指で弄るようになった。時々だったそれが、今は頻繁に変わった。
そうされる度に居たたまれない気持ちになった。その行為がもどかしくて、口の奥がムズムズしてしまう。
だけど、彼に構われると思うと喜んでいる自分もいる。
恥ずかしいけど、嫌ではない。矛盾している気持ちで板挟みになって、私は彼の行為を甘んじて受け入れた。
一度、その甘い拷問に耐えられず「何でですか」と可愛くない口調で理由を聞いた。それに対して、彼は「なんでもない」とだけ返事して、再び私の髪を弄る。
そのやり取りも含めて、愛しく感じる。
暖かくて、綿に包まれるような心地よさ。それを享受しているから、私の決心が固まった。
この想いを墓場まで持って行こう。
あの日、ファルク様と言葉を交わしたおかげでわかった。いや、確認が取れたというべきかもしれない。
この塊はちゃんと私の胸の中に存在している。
だからこそ、言ってはいけないのだ。
自覚したあの日、予感がした。これは不毛な恋であることを。
旦那様は愛国心の強い人だ。彼の優先順位の一番上とそれ以降は「国」である。
そして、そんな彼だからこそ惹かれたと自覚している。
報われない可能性が大きいとわかった上に告げる強さなんて、私にはなかった。
嫌われるならまだいい。私が距離を取ればいい話だ。距離を取りながら、彼を支える方法を探せばいい。
だけど、愛国心の強さと同じくらいに、彼は優しい人だ。
この気持ちを明かした結果、彼に負担を背負わせるかもしれない。それを想像するだけで、喉が苦しくなる。
そう決心して、今日という日を迎えた。
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