莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千

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獣人

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 朝食を食べ終えたら、隣に知らない男の人が座っていた。

「・・・・、あの、何か?」
「いやぁ、お姉さんが、あまりにも美味しそうにパンとスープを食べるから、ちょっと気になっちゃって」
「は、はぁ・・・・」

 人懐っこい笑顔。
 フワフワの栗色の髪と瞳に甘え上手そうな、可愛い顔をしている。
 男の人と言うよりも男の子と言える子だった。

 20歳くらいの大学生の遊び盛りの青年に見えた。
 もしくは、歳上キラーの新人ホスト。

「ね、ね!お姉さん、この辺の人?それとも観光?ちょっと俺とお話しよーよ」
「ぇ、えっと・・・」

 なんだか、ロディ様と似た雰囲気な人だ。
 ナチュラルに人に甘えてグイグイとくるこの感じ。
 小首を傾げて、上目遣いの歳下の男の子に思わず、紅音は可愛いと思ってしまう。
 母性心をくすぐる子だ。
 だけど、

「ごめんなさい、私、昨日この街に来たばかりだから、面白い話題持ってなので」

 まさか、異世界から召喚されたとは言えないので、やんわりと断る事にしたのだが、

「えー、じゃあさ、じゃあさ、俺面白い話知ってるよ!!」
「あ、いえ、」
「・・・ダメ?」

 あ、この感じ、上目遣いで甘えモードのロディ様やルカ様に、

「・・・やっぱり、似てるかも・・・」
「へ?」
「あ、なんでも無いよ」

 危うく神様の名前を口にするところだったのを寸出で止まる。

「むー、俺、お姉さんとお話ししたいなぁ」
「ぁぅ・・・・」

 この子、多分、自分が可愛いことを自覚しているかも・・・・。
 そんな、上目遣いで何かを訴える子犬のような顔をされたら、

「じゃあ、ちょっとだけ、食後お茶のお供にお願いしようかな?」

 もう無下には出来ないよ。

「本当?やった!」
 
 パッと笑顔になる男の子。

 歳下の純粋なお願いには弱い紅音だった。
 と、その時、

「オラァ!!ジオル!!」

 ゴン!!

 突然、男の人の怒号が聞こえたと思ったら、目の前の男の子の頭に拳骨が落ちた。

「イダ!?」
 
 ダン!!

 拳骨を脳天に喰らった男の子は勢いよくテーブルに額をぶつけた。

「え!?だ、大丈、」

 めちゃくちゃ痛そうだ音がした。
 いきなりの出来事に、紅音は目の前の男の子に声をかけようとしたが、

「ッッッ、いったぁ!!何すんだよ!?
 アド!!この暴力オヤジ!!」

 テーブルから顔を上げた男の子が、男性を睨んだ。
 あ、オデコ赤くなってる。

「朝食食べてたら、いつの間にか消えて、振り向けば、女性に絡んでるの見りゃ、当たり前だろうが!!」

 紅音が顔を上げると、30代くらいの男性が憤った顔をして、男の子を見下ろしていた。
 だが、男の子も負けじと男性を睨み返す。

「だからって殴る事ねぇだろう!!お姉さんびっくりしてんじゃん!!」
「煩せぇ!!あんまりウロチョロ、ウロチョロして人様に迷惑かけるんなら、首輪と縄つけて犬みたいに連れ回すぞ!?」
「嫌だぁぁ!!何が悲しくてオッサンに犬プレイ強要されなきゃいけないんだよ!!それなら、優しいお姉さんのお膝の上で優しく甘やかされた方がずっと良い!!」
「なに、自分の御都合のいい、願望捲し立ててんだ!!」
「え、えぇぇ~~??」

 目の前の突然の激しい言い合いに、紅音がなす術なく情けない声を出すことしか出来なかったその時、

「喧しいわ!!!」

 ガン!!ガン!!

「んが!?」
「ッッ?!」

 目の前で怒涛の漫才のように言い合う男性と男の子の後ろに誰が立ち、男性と男の子の頭を思いっきり殴った。

「え?え?え?」

 殴られた男の子と男性、そして、殴った人物を見上げると、

「う、うわぉ」

 そこには、ウサギの長い耳を頭につけた褐色肌の美人な女の人が仁王立ちしていた。
 だけど、長いウサギの耳よりも紅音の目を引いたのは、鍛え上げ引き締まった筋肉質の身体だった。
 ノンスリーブの袖から見える腕には無駄な贅肉など一切見当たらず、正にプロの女性ボディービルダーの佇まい。

「喧しい雄どもだなぁ、アンタらは・・・」

 その時、ウサ耳女性ボディービルダーのお姉さんの目が、

「加減にしないと」

 鈍く光った。

「埋めるぞ」


 それからは、先程まで漫才のような掛け合いをしていた男の子と男性が嘘のように静かになり、大人しくテーブルの席に座っている。
 心無しか、男の子の方は小さくカタカタと震え、男性は、気まずそうに目線を合わせないようにしている。

「はぁ、すまないね。ウチの雄どもが迷惑かけてしまって」
「いいえ、私は大丈夫ですので」
「そうかい?」

 ウサ耳お姉さんは少し安堵したように笑った。

「だけど、コイツらにセクハラされたら遠慮なく言いな。アタシが速攻で埋めてやるからさ」
「埋める・・・・」

 美人のすっごくいい笑顔。でも言っていることがなんか怖い・・・・。

「いえ、本当に大丈夫なので、」

 無言で何かを懇願するような目をする男の子に私はそう言うしか無かった。

「自己紹介が遅れたね。私は、キャロライン。見ての通り兎の獣人でキャロルって呼ばれてるよ」
「あ!キャロル、ズルい!!」

 ウサ耳お姉さん、キャロラインさんが自己紹介してくれた。

「お姉さん、俺はジオル!猫の獣人だよ」

 そう言って男の子、ジオル君のフワフワの髪の中からピョコっと髪色と同じ三角の耳が二つ出てきた。

「あ、可愛い・・・ぁ、」

 ピョコっと出てきた猫耳と可愛い笑顔に思わず、声が出てしまった。

「えへへ!ありがとうお姉さん!」

 ジオル君は嬉しそうに笑った。

 うん。母性心をくすぐる子だ。

「ヘラヘラするな、この色ボケ猫」
「オッサン、うるさいよ・・・・」
「なんだ?クソガキ」
「べっつに~?」
「チッ、俺はアドルフ。このパーティーのチームリーダーだ」

 男性の名前はアドルフさん。

「一応言っておくが俺は人間だ」

 改めて見ると、がっしりとした体躯で工事現場監督か大工の棟梁のような貫禄がある人だ。
 まるで、熊みたいな、

「見た目は、野獣みたいだけどねぇ~」
「うるせぇ!!」

 あ、思っていた事、言われた。

「あー、アイツらはいつもああ、だから気にしなくていいよ」
「は、はぁ・・・」

 再び歪み合う二人にもう面倒だと、溜め息を吐くキャロルさん。
 いつもの事なんだ・・・・。

「あと、もう一人蛇の獣人のメンバーが居るんだけど、アイツは朝が苦手で此処には居ないんだ、って」
「ん?」

 不意に不自然にキャロルさんの言葉が途切れた。
 どうしたか、と紅音が思ったその時、背後に誰が立つ気配を感じ、突然、背中と両肩に重さと少し低い、温かさに包まれた。
 そして、

「へ?え、」
「ん~?君、誰?」

 気怠げな低めな男の人の声と吐息が右耳をくすぐった。

「ヒミャ?!」

 色っぽい声と耳に感じる吐息に変な声が出た。
 視界の端に腕と紫色の長い髪が流れるように垂れる。
 誰かに後ろから抱きつかれているのだと、気がつくのに数秒かかった。

「あーー!!何やってんだよ!?ジャミール!?」

 目の前のジオル君が、身を乗り出し、耳と髪の毛を逆立て叫ぶ。

「んん?・・・あ?」
「、ぴッ・・・・」

 だが、右耳元で気怠げな色っぽい声に、思わず体が固まる。

「??、何やってんだ?俺?」
「知るか!!お姉さんから離れろ!!」

 恐らく、男の人、ジャミールに抱きつかれているであろうが、目の前のジオル君が威嚇をする猫みたいだな、と変に冷静になれた紅音。

「あ、あのー、」
「あー、ダメだ、まだ眠い・・・」
「ひゃ!!」

 戸惑う紅音に男の人甘える様に紅音の頸に頭を擦り寄せた。
 頸をくすぐる髪と背筋に感じる吐息に驚きとジャミールに抱きつかれている恥ずかしさでまた変な声が出た。

「だーから!!離れろよ!ジャミール!!」

 ジオル君が席を立ち、ジャミールさんの後ろに周り、私に抱きついているジャミールさんを引き剥がそうとするが、思った以上にジャミールさんの力が強く、

「んーー、」
「え、わ、わ、あ!」

 結果的に私も一緒にガクガクと身体ごと揺さぶられる形になってしまった。

「ちょっと、止めな!ジオル!!」
「ダメだ、寝惚けてやがるな、コイツ」

 キャロラインさんとアドルフさんが呆れながらも慌てて止めに入ってくれるが、

「ッッッ、いい加減に、しな!!!」

 ゴン!!ゴン!!ゴン!!

 痺れを切らしたキャロラインさんが私以外の3人に拳骨を落として、この場を納めることに成功した。

「・・・なんで、俺まで!?」

 しかし何故か止めに入った筈なのにキャロラインさんに拳骨を落とされたアドルフさん。

 納得いかないと、痛そうに顔を歪めたアドルフだった。

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