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口の悪い魔人達と俺様ノルト
019.混乱のウィンディア
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セントリア王国ミニスローム領、領都ウィンディア ―――
「う、うわぁぁ!」
「魔物だぁ!」
到底魔物などが出るとは思えない町中に斧を持った牛頭の魔物、ミノタウロスに襲われる3人の親子がいた。
父と思われる男は妻と娘を庇い、震えながら壁際に追い詰められていた。
「な、な……だ、誰かぁぁ!」
大声で助けを呼んだその男は数秒後、巨大な斧によって真っ二つにされていた。
「ヒッ! あ、あなたぁぁ!」
「おと、おとうさん!」
抱き合う母娘にミノタウロスが迫る。
「いや、いやぁ……いやあぁ!」
娘の絶叫が轟く。
ミノタウロスは彼女らに近付き、無表情に斧を振り上げた。
「……!」
確実に訪れるはずの死をただ怯えて待った。
「『死霊召喚』」
どこからともなく聞こえた冷徹な響きの声。
それと共に現れた死霊がミノタウロスに取り憑くと彼らは泡を吹いてその場に倒れ込んだ。
「……?」
母娘には何が起こったのかわからない。
そこに数人の町の兵士を従え、煤けた紫色のローブを羽織った、目付きの悪い女が姿を現した。
「大丈夫かい、お前達」
「は、はい。あの……」
「私はラドニー。ここは危ないから私の研究所へおいで」
「は……はい。ありがとう、ございます!」
ひとりの兵士に連れられる母娘を無表情で見送ったラドニーは残った数人の兵士達に声をかけた。
「どうだい、餌は集まったかい?」
「今の親子で30人ほど」
それを聞くと初めて満足そうにニヤリと口元を歪めた。
「よろしい。では仕上げと行こう。メイルゥを放ちたまえ」
「はっ」
メイルゥと呼ばれた化け物達が檻から放たれる。
足が前後に4本生え、皮膚が無いため筋肉の繊維まではっきりと見える悍ましい異形の怪物。
それはアンナの家に現れた合成魔物だった。
◆◇
結局襲撃は30回を超えたものの、とにかくノルト達は鬱蒼とした森をようやく抜け、辿り着いた。
セントリア王国ミニスローム領、領都ウィンディア。
領都とは言っても都市全体が壁で囲われている訳でも、門番がいる訳でもない。
雰囲気は田舎町のロスと大差ないと言っていい。但しその面積はロスとは比ぶべくもなく、圧倒的に広い。
王都程の人口はなく、比較的のんびりとした雰囲気の都市、というよりは町である。
その中心には領城があり、数百の兵士が駐屯している。
ウィンディアに足を踏み入れた彼らは、すぐに町の空気が日常的なそれではない事に気付く。
「何やら騒がしいな」
テスラが舌舐めずりをして辺りを見回す。
「バカ。何でちょっと嬉しそうなんだよ。警戒を怠るな」
ロゼルタも目だけをキョロキョロと動かし、人々の慌ただしい気配を敏感に感じ取る。
そんな中、彼らのすぐ横を1人の中年の男が慌てて走って通り過ぎようとした。
「おい」
テスラが声を掛けると男は一瞬ビクついた様子を見せるが、すぐに、俺は急いでるのにといった感じを出しながら面倒そうな顔付きに変わる。
それには気付かない風を装い、テスラは言葉を続けた。
「騒がしいが何か起こってるのか?」
「研究所から逃げた魔物が町中で暴れてるんだってよ」
その言葉に皆、顔を見合わせた。
町のすぐ近くで魔物がいたのも森で異様な頻度で襲われたのもそれが原因では、と全員が同じ事を考えたのだ。
「研究所? なんの研究所だ?」
「詳しい事は知らないよ。城の近くにあるから行きたきゃ行けばいい」
男は会話を終わらせたくて仕方がない様だった。
「分かった。もうひとつ教えてくれ。転移装置はどこにある?」
「転移装置か。最初は俺もそこから逃げようと思ったんだがな。生憎とそれも領城のすぐ近くにあるんで諦めたんだ。あんたらは強そうだし、行ってみりゃいい。城はここから真っ直ぐ、転移装置の位置はそこまで行けばすぐわかる」
それだけ言うと怪訝な顔付きで全員を見回すと走り去ってしまった。
「厄介事に巻き込まれる前にさっさと転移してしまった方が良さそうじゃな」
ドーンの言葉に全員が頷いた。
道行く人々が皆、思い思いの方向へと必死に走っているところを見ると魔物が町に現れたというのは本当らしい。
大通りを避け、魔物から逃げ惑う人々を避ける。これが王都であればそれこそどこに行っても大勢の人の波で動けなかっただろうが、幸いここには大して人はいない。
アンナは先程の中年の男が言った「魔物が逃げた」という言葉に内心穏やかならざるものがあった。
(すっっごく嫌な予感がするわ)
だがそれは予感どころか、直後、現実のものとなる。
「チッ。また見つかった」
先頭を行くテスラの舌打ちがアンナの耳にまで届く。
「どう考えてもおかしいじゃろ……ノルトとアンナには大した気配は無し、儂らは皆、霊気を抑えておるというのに」
ドーンも首を捻る。
現れたのはウェアウルフの集団の様だ。
「ノルト、間違ってもこんなとこで魔王様を出すんじゃねえぞ。あたしらが戦うからな」
「わかりました」
ロゼルタへそう返事をした後、ノルトがふと隣のアンナを見遣る。
「アンナ、大丈夫だよ。みんながいるから」
ようやく流暢に友達の様に話せる様になったようだ。神妙な面持ちで黙りこくるアンナを気遣って声を掛ける。
「あのさ、今までのもそうなんだけど、魔物達みんな……私目掛けて襲ってくる気がするのよね」
「そう言えばずっとそんな事を言ってるね。ここでも同じなの?」
ノルトの目を見てウンと頷く。
「何なんだろう……それはもし皆と逸れたらって思うと怖いね」
「や、やめてよ。シャレにならないわ」
小声でそんな話をしている間に魔物はサラの弓によって退治されていた。
ロゼルタは目付きも鋭く辺りをサッと見渡し、
「全く……誰か魔物が好きな匂いでも出してんじゃねえか? さ、急ぐぞ」
その言葉にアンナは思わず自分の袖をクンクンと嗅ぐ。
その時だった。
何かを察知したアンナが空を見上げる。
するとみるみる大きくなる獣の様なものが視界に映る。ウェアタイガーが降って来たのだ。
間違いなく、狙いはアンナである。
(いや! 来ないで!)
あまりの事に声は出ず、心の中でそう叫ぶ。すると不思議な事にそのウェアタイガーは明らかに空中で戦意を無くした顔付きになった。
「!?」
その変化に気付いたのもアンナだけだった。
その一瞬の後。
凄まじい打撃音と共にウェアタイガーはアンナの視界から消え、真横の建物の壁へとめり込んだ。
マクルルの飛び蹴りによるものだった。
「あ……りがと、マクルル」
口ではそう感謝を伝えつつ、牙を収めたウェアタイガーの顔を思い出し、
(な、何? 今の……たたたたまたま、たまたま……だよね?)
そんな事を考えていた。
「う、うわぁぁ!」
「魔物だぁ!」
到底魔物などが出るとは思えない町中に斧を持った牛頭の魔物、ミノタウロスに襲われる3人の親子がいた。
父と思われる男は妻と娘を庇い、震えながら壁際に追い詰められていた。
「な、な……だ、誰かぁぁ!」
大声で助けを呼んだその男は数秒後、巨大な斧によって真っ二つにされていた。
「ヒッ! あ、あなたぁぁ!」
「おと、おとうさん!」
抱き合う母娘にミノタウロスが迫る。
「いや、いやぁ……いやあぁ!」
娘の絶叫が轟く。
ミノタウロスは彼女らに近付き、無表情に斧を振り上げた。
「……!」
確実に訪れるはずの死をただ怯えて待った。
「『死霊召喚』」
どこからともなく聞こえた冷徹な響きの声。
それと共に現れた死霊がミノタウロスに取り憑くと彼らは泡を吹いてその場に倒れ込んだ。
「……?」
母娘には何が起こったのかわからない。
そこに数人の町の兵士を従え、煤けた紫色のローブを羽織った、目付きの悪い女が姿を現した。
「大丈夫かい、お前達」
「は、はい。あの……」
「私はラドニー。ここは危ないから私の研究所へおいで」
「は……はい。ありがとう、ございます!」
ひとりの兵士に連れられる母娘を無表情で見送ったラドニーは残った数人の兵士達に声をかけた。
「どうだい、餌は集まったかい?」
「今の親子で30人ほど」
それを聞くと初めて満足そうにニヤリと口元を歪めた。
「よろしい。では仕上げと行こう。メイルゥを放ちたまえ」
「はっ」
メイルゥと呼ばれた化け物達が檻から放たれる。
足が前後に4本生え、皮膚が無いため筋肉の繊維まではっきりと見える悍ましい異形の怪物。
それはアンナの家に現れた合成魔物だった。
◆◇
結局襲撃は30回を超えたものの、とにかくノルト達は鬱蒼とした森をようやく抜け、辿り着いた。
セントリア王国ミニスローム領、領都ウィンディア。
領都とは言っても都市全体が壁で囲われている訳でも、門番がいる訳でもない。
雰囲気は田舎町のロスと大差ないと言っていい。但しその面積はロスとは比ぶべくもなく、圧倒的に広い。
王都程の人口はなく、比較的のんびりとした雰囲気の都市、というよりは町である。
その中心には領城があり、数百の兵士が駐屯している。
ウィンディアに足を踏み入れた彼らは、すぐに町の空気が日常的なそれではない事に気付く。
「何やら騒がしいな」
テスラが舌舐めずりをして辺りを見回す。
「バカ。何でちょっと嬉しそうなんだよ。警戒を怠るな」
ロゼルタも目だけをキョロキョロと動かし、人々の慌ただしい気配を敏感に感じ取る。
そんな中、彼らのすぐ横を1人の中年の男が慌てて走って通り過ぎようとした。
「おい」
テスラが声を掛けると男は一瞬ビクついた様子を見せるが、すぐに、俺は急いでるのにといった感じを出しながら面倒そうな顔付きに変わる。
それには気付かない風を装い、テスラは言葉を続けた。
「騒がしいが何か起こってるのか?」
「研究所から逃げた魔物が町中で暴れてるんだってよ」
その言葉に皆、顔を見合わせた。
町のすぐ近くで魔物がいたのも森で異様な頻度で襲われたのもそれが原因では、と全員が同じ事を考えたのだ。
「研究所? なんの研究所だ?」
「詳しい事は知らないよ。城の近くにあるから行きたきゃ行けばいい」
男は会話を終わらせたくて仕方がない様だった。
「分かった。もうひとつ教えてくれ。転移装置はどこにある?」
「転移装置か。最初は俺もそこから逃げようと思ったんだがな。生憎とそれも領城のすぐ近くにあるんで諦めたんだ。あんたらは強そうだし、行ってみりゃいい。城はここから真っ直ぐ、転移装置の位置はそこまで行けばすぐわかる」
それだけ言うと怪訝な顔付きで全員を見回すと走り去ってしまった。
「厄介事に巻き込まれる前にさっさと転移してしまった方が良さそうじゃな」
ドーンの言葉に全員が頷いた。
道行く人々が皆、思い思いの方向へと必死に走っているところを見ると魔物が町に現れたというのは本当らしい。
大通りを避け、魔物から逃げ惑う人々を避ける。これが王都であればそれこそどこに行っても大勢の人の波で動けなかっただろうが、幸いここには大して人はいない。
アンナは先程の中年の男が言った「魔物が逃げた」という言葉に内心穏やかならざるものがあった。
(すっっごく嫌な予感がするわ)
だがそれは予感どころか、直後、現実のものとなる。
「チッ。また見つかった」
先頭を行くテスラの舌打ちがアンナの耳にまで届く。
「どう考えてもおかしいじゃろ……ノルトとアンナには大した気配は無し、儂らは皆、霊気を抑えておるというのに」
ドーンも首を捻る。
現れたのはウェアウルフの集団の様だ。
「ノルト、間違ってもこんなとこで魔王様を出すんじゃねえぞ。あたしらが戦うからな」
「わかりました」
ロゼルタへそう返事をした後、ノルトがふと隣のアンナを見遣る。
「アンナ、大丈夫だよ。みんながいるから」
ようやく流暢に友達の様に話せる様になったようだ。神妙な面持ちで黙りこくるアンナを気遣って声を掛ける。
「あのさ、今までのもそうなんだけど、魔物達みんな……私目掛けて襲ってくる気がするのよね」
「そう言えばずっとそんな事を言ってるね。ここでも同じなの?」
ノルトの目を見てウンと頷く。
「何なんだろう……それはもし皆と逸れたらって思うと怖いね」
「や、やめてよ。シャレにならないわ」
小声でそんな話をしている間に魔物はサラの弓によって退治されていた。
ロゼルタは目付きも鋭く辺りをサッと見渡し、
「全く……誰か魔物が好きな匂いでも出してんじゃねえか? さ、急ぐぞ」
その言葉にアンナは思わず自分の袖をクンクンと嗅ぐ。
その時だった。
何かを察知したアンナが空を見上げる。
するとみるみる大きくなる獣の様なものが視界に映る。ウェアタイガーが降って来たのだ。
間違いなく、狙いはアンナである。
(いや! 来ないで!)
あまりの事に声は出ず、心の中でそう叫ぶ。すると不思議な事にそのウェアタイガーは明らかに空中で戦意を無くした顔付きになった。
「!?」
その変化に気付いたのもアンナだけだった。
その一瞬の後。
凄まじい打撃音と共にウェアタイガーはアンナの視界から消え、真横の建物の壁へとめり込んだ。
マクルルの飛び蹴りによるものだった。
「あ……りがと、マクルル」
口ではそう感謝を伝えつつ、牙を収めたウェアタイガーの顔を思い出し、
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