【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

文字の大きさ
153 / 154
エピローグ

EP4.その後(後)

しおりを挟む
 ◆ 魔塔ジルバドゥル

 ロトスの南方、海を見下ろせる位置に一際高く聳え立つ塔、ジルバドゥル。

 魔王達が蘇った後、ここに戻ってきたユークリアはその頂で両親と静かに暮らしていた。

 そんなある夜のこと。

 物思いに耽りながら何気なく塔の頂上から海を眺めていた。

 ふと、地上で赤い髪の少女がひとり座り、海の方を見ているのが視界の隅に見えた。

 その姿に見覚えがあった彼は心臓が止まりそうな程驚き、階段を落ちる程の速さで駆け降りるが、途中でもどかしくなり、一気に地上まで飛び降りた。

 ドンッという音で驚いてユークリアを見た少女は紛れもなく30年前に死んだはずのミーシャだった。

「バ……バカな……ミーシャ……」

 声を掛けると彼女は穏やかに微笑んだ。

「い、いやそんな筈がない。お前は何者なんだ?」
「お久しぶりです。ユークリア様」

 その声を聞いて心臓の音が跳ね上がる。

「そんな……お前、死んだのではなかったのか」
「フフ」

 またミーシャは海を見つめた。

 その横顔も当時と寸分違わぬ可憐なものだった。

(……待て。30年前だぞ? ミーシャは人間の筈……)

 そこに気付いたユークリアは少し落ち着きを取り戻した。

「お前は人に化けれるどこぞの魔族だな。あまり趣味の悪い事をしていると斬るぞ」
「ユークリア」

 ミーシャは立ち上がるとユークリアの目の前に立つ。

「私、あなたに謝りに、来たのよ?」
「謝りに……とにかくまずその姿をやめろ」
「わかったわぁ」

 赤毛の美少女は彼の目の前に信じられない姿へと変わっていった。

「か、あ、ああ……そん、バ……カな……」

 驚きで口をパクパクし、まともに喋れなくなった。

 活発そうで儚げで可憐だった美少女は、一瞬のうちにユークリアと背丈の変わらぬ妖艶なサキュバスへと変化した。

「ク……クリニカ、様……」

 彼がミーシャと呼んでいた少女はクリニカが人化した姿であり、彼女がノルトにマヤと名乗った少女と同一人物だった。

「こ、これは一体何の冗談……」

 と言いかけてドキリとした。

 考えたくない筋書きが脳裏に浮かんだからだ。

「ま、まさか30年前から……私にテスラを恨ませ、積極的に魔界侵略に加担するように仕組んだのでは……ないだろうな」
「本当にごめんなさい」

 クリニカは珍しく、ただ、謝った。

 それはつまり、肯定した、ということだった。

 力が抜け、半笑いとなり、膝から崩れ落ちてペタリと地面に尻餅をついた。

「なんて、なんて事だ。私が30年、想い続けていた相手が貴女だったとは」
「テスラちゃんは言わなかったの? 知ってた筈だけど」
「テスラは……あいつにはもはやどれだけ謝っても追いつかぬ。全ての非はこちらにあったのか。彼は私に言い訳じみた事は何ひとつ」
「そう」

 それから暫くの間、ユークリアは座りながら咽び泣いた。

 それはミーシャへの想い、テスラへの申し訳なさ、自分の浅はかさ、全てがない混ぜとなった、自分でも止める事の出来ない涙だった。


 ◆ 魔界スルーク

 王都ヴァルハンにある魔王城では必要最低限の修築が終わり、ネルソとテスラの名の下に多くの魔族達が戻り、活気が戻っていた。

 バルハムは長らく共に戦ったセルメイダと別れ、スルークの魔族を引き連れて戻ってきた。

 ヘイネなど捕えた女性との部屋や、ハルヴァラが監禁されていた地下室など、惨たらしい名残が残るものは完全に、徹底的に取り壊された。

 城の地下にあった、かつてリリアが封印されていた石碑は掘り出され、ネルソ自らが焼き尽くし、破壊した。

 かつての魔界侵略戦争時に受けた物理的、精神的な傷が癒えるにはまだまだこれからだったが、兎にも角にも一旦はこれで落ち着いたと思われた。


 そんな中、テスラは久しぶりにかつての妻、ラダの墓を訪れていた。

「ラダ。お前はひとりで頑張ってたんだな。怖かったろう。俺にぐらい、相談しろよ……」

 この時、テスラは顔も体も無事なところはないというほど傷だらけだった。

「ふふ。俺の体が気になるか? こないだ人間の女と喧嘩してこのザマさ。俺とやりたそうにしてたんでな。だがもう二度とやりたくねー」

 ラダの笑顔が浮かぶ様だった。

「いや、負けたんじゃねー。酷いんだ、あいつ。人間の年頃の女だし、治癒力も大してねーだろうと俺は全部寸止めしてたんだぜ。なのにあの女は全く遠慮せずに斬ってくるんだ。ひでー奴だぜ。悪魔のような奴だ」

 ふっふと笑い、ラダの墓標に酒を置いた。

「妬くな妬くな。そんなんじゃねー」

 自分の酒をグイッと飲み干し、ふうとひとつため息を吐いた。

「人間の女なんざぁ、もうこりごりだぜ」

 それはラダが亡くなってから、テスラが初めて関係を持った女性、クリニカが人化した姿のマヤが頭にあったに違いなかった。


 ◆ セントリア王都 スラム

 ノルトはサニュールを連れ、アンナと共に母マリヤが住む家に来ていた。

 マリヤはノルトが自分の病気の原因となった魔族を探し当て、連れてきた事に驚く。

 バツが悪そうにサニュールがマリヤに頭を下げた。

「その、あの時はごめんなさい」
「……人様に虫を入れるなんて気持ち悪い真似……もう二度としちゃダメだよ?」

 鼻から息を吐き、マリヤが言う。

「あんな事はもう二度としないですわ」

 神妙な顔付きでサニュールが言う。

 暫く話していた彼女達だったが、やがてマリヤはノルトに『もういい』と目で合図を送った。
 彼はそれに頷いてサニュールに向かって言った。

「クリニカさんに聞いたんだけど」

 ドキリとしてサニュールがノルトを見上げる。
 今でもその名前はサニュールにとって崇拝だけでなく、畏怖の対象なのだ。

「君、ファトランテの人たちにも酷い事したんでしょう? ちゃんと謝ってきて」
「はぁーい」

 何だそんな事かと言わんばかりに明るく返事するとそのまま家を出て行った。

 揃えた様に全員ため息を吐いた。

 それによってようやく緊張が解け、全員顔を合わせると誰からともなく笑顔が漏れた。

「ノルトはこれからどうするんだい?」
「ロスの町でアンナのお父さんが家を作ってくれたんだ。そこに住もうと思うんだけど」

 マリヤが明らかに落胆した表情となる。

「そう、かい……」

 それを不思議そうに見つめ、

「お母さんはここから離れるのは嫌?」
「え!? ……私も行って、いいのかい?」
「当たり前じゃない」

 その返事に、マリヤは何とも言えない顔をした後、ポロポロと泣き出した。

「私にお前の母親の資格なんて無いのに……」
「でもノルトを産んでくれたんでしょう?」

 アンナの言葉で涙ながらに頷き、笑う。

「ありがとうね、アンナちゃん。……それでノルト」
「はい」
「ロスでこれからどうしていくの?」
「仕事のこと?」
「当てがあるのかなあって思ってさ」
「うーん、ないけど……でも僕、なんでもできるんだよ」

 その言葉には重みがあった。

 それだけで彼女の目の届かない所でどれほど苦労したのか、容易に想像がつく。またマリヤの目頭が熱くなった。

 ノルトの隣でそれまで大人しく座っていたアンナが突然意外な事を言い出した。

「ねえ。実はお父さんからノルトに町の仕事、手伝って貰えないか聞いといてくれって言われてるんだ」
「ヒョールさんが?」

 それには少し驚いた顔のノルトだったが、すぐに浮かない顔となった。

「うーん、とてもありがたいんだけど……」

 ノルトが断る雰囲気を出したところでマリヤが口を挟む。

「ノルト」
「はい」
「アンナちゃんはお前のことが好きなんだよ。だから一緒にいたいんだ。やることないなら無下に断らずに」
「ちょ、ちょちょちょ、お母様、何を」

 顔を真っ赤にしてアンナが手を広げる。

 ノルトは少し笑い、

「僕も一緒さ。アンナと一緒にいたい」

 その言葉を聞いてアンナが驚いた顔でその横顔を見上げる。

(あれ? いつの間に……私より結構背が高くなってる?)

 座った状態ではあったが、それでも今までは同じくらいの目線だった筈だ。

 ふとノルトがアンナの方を見て少し顔を赤くしてニコリと笑う。

 そのふたりをマリヤは笑顔で見つめていた。

 ノルトはマリヤの方に向き直り、

「取り敢えず当面生活に困らない位にはお金はあるし、リドの脅威を取り除いたから、とかでロトスの王様が報奨金くれるって言ってくれてるし」
「へえ? そんなとこにも繋がりが出来たんだねえ。凄いねえ……」
「だからさ、僕、学校に行きたいと思ってるんだ、勉強はしておかないと困ると思うし、単純に行ってみたいのもあるし」

 それを聞いたアンナの顔色がパァッと明るくなった。

「いいわ! それすっごくいい! 私と同じ学校に行くのよねえ?」

 ノルトは頷き、

「うん。そのつもり」

 はち切れんばかりの笑顔を見せた。















しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...